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(翻訳)日本プロ野球と米国メジャーリーグを隔てる15のキーワード

訳者前書き

 初めに、誤解のないように明らかにしておきたいのだが、ここに私(角谷剛)が翻訳する論文は、もちろん私の意見を述べたものではない。私は偶然この論文を発見し、その内容に必ずしもすべて賛同したわけではないのだが、世の中に流布している日本語で書かれたメジャーリーグ(以下MLB)論ではなく、その逆に英語で書かれた日本プロ野球(以下NPB)論であることに新鮮味を覚え、あまり人の目に触れることもなさそうだったその論文を、多くの人に公開してみたくなったのである。

 その論文とは、インターネット・フォーラム『baseball-fever.com』に2021年1月17日付けて投稿されていた、” How NPB differs from MLB - 15 topics”という題名のもので、投稿者の名前は”afernandez”という人である。ファーストネームがAで始まり、ラストネームが”Fernandez”であると推測できるのだが、プロフィールにはそれ以上の記述がない。名前からはラテン系のバックグランドをもつアメリカ人のように思われるが、それが本名であるという証拠もない。仮に仮名であったとしても、特に不都合はないわけなので、ここではそれ以上の詮索をせず、フェルナンデス氏と呼ぶことにする。

 ここからは訳者の想像になるわけだが、フェルナンデス氏はどうやらアメリカで生まれ育った野球ファンで、人生のどこかの段階で日本にやってきて、少なくとも何年かは日本に居住した経験がある人のようだ。論文の内容からすると、その滞在時期はごく最近のように思えるし、あるいはまだ日本に住んでいるのかもしれない。そしてその何年かに渡る日本生活においてフェルナンデス氏は、彼自身の言葉を借りれば「MLBと同じルールで成立する別のプロスポーツ」であるNPBに興味を持ち、ベースボールと野球の違いについてさまざまの感想を持ったようである。その感想を、なるべくなら私情を挟まないようにという努力を払いながら、インターネット・フォーラムという場には似つかわしくないほどの長文にまとめたと思われるものが、原題の” How NPB differs from MLB - 15 topics”であった。

 実は訳者は想像されるフェルナンデス氏とほぼ逆の立場にいる人間である。日本で生まれ、高校入学の歳まで日本に住み、その後何回か日米を往復しながらも、在米生活は通算で30年を越えた。野球というスポーツに初めて触れたのは日本であり、多くの例に漏れず、世界の王貞治とドカベン山田太郎が少年時代のヒーローだった。その筆者から見て、フェルナンデス氏のこの論文は細部にこだわるあまり、極めて一方的な視線に偏った日米比較論になっていると思えることを、まず明言しておきたい。それにもかかわらずこれはぜひ多くの日本人に紹介したい論文なのである。そのわけは後書きで述べるつもりである。

 私はフェルナンデス氏のプロフィールにあるアドレスにメールを送り、この論文を日本語に訳す許可を求めた。念のため、私自身はこの論文の内容に必ずしも賛同できない部分があるので、多少批判的な訳注をつけて翻訳するがそれでもよいか、と尋ねたが、「内容に手を加えなければそれでもよい。日本の読者に読んでもらえることは嬉しい」ということだった。

 そういう事情を経て、ここに日本語訳「日本プロ野球が米国メジャーリーグと異なる15のキーワード」を紹介してみる。訳注と断り書きがない限り、原文をできるだけ忠実に訳すことを心がけた。

 この論文が架空のものではないことを示すため、原文のURLを念のためにここに記しておく。
https://www.baseball-fever.com/forum/general-baseball/international-baseball/3600537-how-npb-differs-from-mlb-15-topics

 この訳者前書きと清水義範著『蕎麦ときしめん』との類似性を指摘する読者もいるだろうが、訳者にはそのような意図はまったくない。いや少しはあるかもしれない。ごめんなさい、実は殆どそうでした、と本記事の成立事情を想像するかどうかは100%読者の自由である。

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