冬季賞与
今年のボーナス決まったよ。
そう通話口からが聞こえてきたのは少し遅めの昼食を営業車の中でとっているときのことだった。
その声のトーンは低く、聞かずとも喜ばしくない結果を容易に想像させる。
「その感じは絶対低いじゃないですか」
敢えて明るく言ってみるが期待していた分、自分の心にはもやがかかりはじめているのが分かった。
ここでいうボーナスとは通常のボーナスではなく、業績賞与のことだ。我が社では冬は通常のボーナスに加えて業績賞与が同時に支給される。
業績賞与は営業所の売上に応じて決定されている。という認識が従業員には存在している。
「いくらだと思う?ちなみに俺は去年と一緒。」
上司は矢継ぎ早に言った。
「え?もしかして俺も去年と同じですか?」
私は答えた。
「正解。」
上司は呟くよう言った。
今期うちの営業所は成績優秀で会社から表彰を受けている
もちろん業績賞与は期待ができるということだ。
営業所はもちろんのこと会社としても利益が大きく出ている。
正直マイナス要因は見当たらずどうあってもボーナスアップしか考えられなかった。
次の言葉に詰まっていると上司は続けた。
「利益が102%しか出ていないってさ。それにここまで数年売上が鰻登りだろ?それで俺たちのボーナスは全社的に見ても高どまりしてるからこれ以上は上げられないって。俺も衝撃受け過ぎてしっかり反論できなかったよ。」
「でも会社も営業所も利益出てるのにそれはおかしくないですか?それに去年から人が減ってるのに利益が上がってないなんて、、。もしかして佐山さんがいた時の利益とかんちがいしていませんか?」
私はボーナスに期待していた裏返しから怒りが込み上げてきてしまい、つい問いただすように言った。
もちろんボーナスを決めているのは上司の上の人間で上司は直接関与していない。
「俺も今、冷静に考えれば理不尽な点は多いよな。なにより上がり幅ゼロってのが俺たちをナメてる。明日もう一回掛け合ってみるよ。まぁとりあえずの報告だ。」
上司も怒りを滲ませながら答えると電話を切った。
うちは古い体制の会社ではあるが最近のリベラルを強要する風潮から社内制度や人事考課は大きく改正され始めている。
冷静になるとその風潮に当てられて理不尽な通達に今まで以上の怒りを感じていることを実感した。
こうした理不尽さは昔では当たり前で、新人の時には仕事の筆記用具など細かな事務用品は自分で購入することが通例で会社のお金を使うことは悪とされていた時代もあった。
もちろん今では存在しないルールだが。
さぁどうするか。冷静になるといくつかの選択肢が浮かぶ。
理詰めでマネージャーを問い詰めたり、いっそのこと会社をやめること。
しかし、どれも最善ではないような気がして気が進まなかった。
これでは好き嫌いが人事考課に影響するのと同じだ。
あくまでも自分が雇われ従業員の1人であることを実感させられるボーナス発表であった。
それでも家族を養うのにはお金が必要なのである。
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