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005 新・品・種・誕・生

グレープフルーツの新品種、もう召し上がりましたか?

その名は「メロゴールド」。

なかなか浮き足だった名前である。

メローでゴールド。

開発した人のテンションが垣間見れる。

ラジオでこの存在を知ったのだが、なにやらメロゴールドは大きいらしい。

外見は緑色で、大きくて、そうとう甘い。
......らしい。

一気に食べたくなったが、まだ百貨店などでしか取り扱いがないとのこと。

気になる。
食べたい。

そんなわけで浦和の伊勢丹へ。
地下の青果売り場にそれはあった。

こりゃデカい

メロゴールドは

300円(くらい)。

一般的なグレープフルーツより、ふた周りは大きい。

値段もふた周りくらいする。

百貨店の青果売り場で、自分が食べるためにフルーツを買ったことなんてないもんだから、すこし気が引ける。

たいがいは祖母のところにモモなんかを持っていって、
一時的に仏壇の横に置いて、
「悪くなるから」とか理由をつけて、
すぐ食べてしまう。

それが百貨店のフルーツだ。

あ、思い出した。
わが家には稼働したばかりの仏壇があるではないか。

しかも大のグレープフルーツ好きの位牌が鎮座する、あの仏壇が。

“お供え”という名目でなら買いやすい。

よし。手に取ってみる。

メロゴールドはヘタの部分に向けて若干隆起しており、大きさもあいまって、おっぱい感があった。

カゴに2つ入れ、レジへ。


母はグレープフルーツ好きだった。

小学生の頃はよく半分に割られたグレープフルーツが食卓に並び、それをスプーンですくって食べた。
ギザギザの。

ホワイトグレープフルーツは小学生の舌にはまだ酸っぱくて苦かった。
TVでは『速報! 歌の大辞テン』が流れていた。

そのあとルビーのグレープフルーツが登場。

いわゆる革命が起こったわけだ。

母は毎朝、ひと房のグレープフルーツに包丁で切れ込みを入れて、それを職場へ持っていった。

それが母の昼食であった。

おばさんが職場で丸ごとのグレープフルーツを剥いて食す。

なかなか異様な光景だっただろう。

匂いもあるし、当時の母の同僚の方々を不憫におもう。ごめんなさい。

そんなに好きなものを食べられなくなるなんて、想像できない。

ガンの治療薬との相性の悪さで、母のグレープフルーツ生活にドクターストップが掛かった。

オレンジも、品種によって食べられるものが限られてしまった。

毎日毎日食べていた、食べても飽きないものを取り上げられるなんてあんまりだと思った。

それに家族としても柑橘系の果物を食べづらくなり、コソコソ外で食べる始末。
その申し訳なさといったらなかった。
でも食べたくなる。ごめんなさい。

食べたいものが、いつでも食べられるわけじゃない。

食べたい、と思ったら食べておかないと、
食べられなくなる日がやってくる。

コロナ禍で、それを実感している方もいらっしゃるでしょう。
食べられるときに食べといた方がいいですよ。


もう薬の必要がなくなった母の仏壇に、買ってきたメロゴールドを供える。

もうちょっと生きていれば、グレープフルーツの新品種が食べられたのに。

やっぱり長生きしたほうがいい。

2つ並んだメロゴールドは、やはりおっぱい的であった。

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