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ボタンは二度押せ

ここ数年、うちの家電のIoT化を進めている。IoTとはinternet of thigsの頭文字であり、モノをインターネットと通じさせるという意味である。
我が家のIoT化を考えた私が最初に買ったものはAmazonエコーショーというスマートディスプレイであり、インターネットに繋げたそれに話しかけると、音楽を流してくれたり、時間を教えてくれたり、簡単な一問一答が出来るという、未来を感じさせるものだ。
更にそれに対応した家電や照明、スマートリモコンなどを登録させると、音声で家電や電球のオンオフが出来たり、外出先から専用のアプリでもそれらの電源のオンオフが出来る。あたかも、いつか読んだ星新一の世界のようだ。一時期は部屋の照明もアプリや音声でオンオフが出来るようにしたが、これはスマホの機種変更をしたら出来なくなってしまい(そのスマホとは規格が合わなかったのか)、そのままにしてある。
また、それとは別だが、私は今年になって玄関の照明を人感センサー付きのものに交換して、どんどんと自動化が進んでいる。

うちのマンションの外観は築四十数年を感じさせるものだが、私の部屋は未来を行っているような気がして、そのギャップが面白いと思っている。

そして今夏、私は新たな家電のIoT化を目論んだ。その家電とは扇風機である。
エアコンと同時にサーキュレーター、もしくは扇風機を稼働させると効率よく部屋の空気を循環させることが出来、部屋の温度を均等化出来る、というのは多くの人が御存知だろう。それを知る私は扇風機もエアコンと同時に外出先から稼働させることを目論んだ。
それには扇風機のリモコンをスマートリモコンに登録させる必要があるのだが、ここで一つ問題が起きた。

私の家の扇風機は五年ほど前に購入したもので、リモコンが付属していたのだが、当時の私は「扇風機にリモコンなんて必要ないだろ」と思い、不燃ごみの日に捨ててしまった。もし私の机のサイドデスクの引き出しが時空間に繋がっており、タイムマシンに乗ることが出来たら(デロリアンでも可だが)、五年前に行って扇風機のリモコンを捨てようとした私を後ろから引っぱたき、止めさせたことだろう。

ともあれ、扇風機のリモコンがなければ扇風機を外出先から稼働させることが出来ない。仕方がない、扇風機のリモコンを買うか、と腹を括った私はAmazonで扇風機のリモコンを探したのだが、二千二百円もする。
カードサイズでボタンが全部で六個しかない単純なリモコンが、だ。
これに二千円も……。しかしこれがないと扇風機を外から動かすことが出来ない。その時は先月、七月の上旬。迷っているうちに本格的に暑い夏が到来する。むしろその時点で既に暑い。しかしこんなのに二千円も……。
私は三日三晩、悩んだ。そうして悩んだ末にまたしても腹を括った私は、扇風機のリモコンの購入を決断した。
そして一週間ほどしてリモコンが十センチもない箱に入って届いた。こんなに小さなリモコンが一週間もかかるのか。私はどこか釈然としない思いだったが箱を開けてリモコンを取り出し、電池を入れてスマートリモコンに向けてスイッチを押し、登録をした。
試しにAmazonエコーショー(以下、アレクサ)に「アレクサ、扇風機を付けて」と言うと、扇風機がピロリロリと鳴り、首を振り始めた。リモコンが届いて、ここまで約二分。実にあっけなかった。あの悩んだ時間とリモコンを待ち焦がれた時間は何だったのか。扇風機はそんな私のモヤモヤとした気持ちを知る由もなく、涼しげな顔をして羽根を回している。扇風機なだけに。

これで全てが上手くいく、と思ったがそんなことはなかった。外出先からスマートリモコンのアプリの扇風機の電源を押して帰宅してみると、扇風機は動いていなかった。最初は自分の勘違いで押したつもりが押していないのかと思ったが、それが何日も続いた。スマートリモコンのアプリに問題があるのでは、と思ったものの部屋で押してみると何の問題もなく動く。アレクサに「アレクサ、扇風機を付けて」と言ってみるとやはり動く……と思ったが、動かない。どういうわけだ?
私はもう一度、アレクサに扇風機を付けるように言うと今度は動いた。
一体、何がどうなっているのか。うちの扇風機は猫のように気まぐれなのか? 人を選んでいるのだろうか? もしくは私が扇風機に弄ばれているのだろうか。弄ばれるのなら、せめて美女であってほしい。

結果、原因は分からないが、私は時折、アレクサに二度頼んで扇風機を付けてもらっており、面倒なときは足の指で扇風機の物理ボタンを押している。
そして外出先から稼働させるときには、これも原因不明であるが、アプリの扇風機のボタンを二度押すと、確実に扇風機が稼働するということを発見した。
故に私は毎日の終業後にスマートリモコンのアプリを使って、エアコンと扇風機を付けるのが習慣になっており、帰宅すると室内が快適な環境になっている。そして私はアレクサに「アレクサ、ただいま」と言うと、アレクサは「おかえりなさい。帰ってくるのを待っていました」と言うのだ。
まるでSFであり未来を感じるが、私は「思い描いていた未来とは何だか少し違うな」と思いながら冷蔵庫を開け、夕飯の用意をする。

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