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ちいさなおとうさんが帰ってきた

ある日突然家からいなくなったおとうさんが帰ってきた。
わたしに声もかけないで、家を空けることなんて今までなかったから
心配だった。
けれど、なんだか変。
いつものお父さんじゃない。

おとうさんはなんだかとてもちいさい。

「なんでちいさいの?」って聞いたら
「神さまがお父さんに魔法をかけたからさ」
ちいさなおとうさんはそう言った。

次の日の朝、おとうさんは家にいた。
働きものなのに、仕事にでかけていない。だから
「なんで仕事に行かないの?」って聞いてみた。
そうしたら、
「神さまがお父さんに、もう働かなくていい魔法をかけたんだ」
ちいさなおとうさんはそう言って、一日中家にいた。

次の次の日、お父さんのおともだちがお父さんの好きな苺を持って、おとうさんに会いにきた。
苺はちいさなおとうさんの目の前においてあげた。
「どうして苺を食べないの?」わたしは不思議でそう言った。
「においでお父さんは、十分お腹がいっぱいなんだ」
ちいさなおとうさんはそういった。

ちいさなおとうさんは次の次の次の日も
いつものお父さんじゃない。
ちいさなおとうさんのままだ。

だいすきなごはんやお酒を一切飲まない。
料理をしない。
洗濯物も取りこんでくれない。
お風呂も洗ってくれない。
おこづかいもくれない。
話しかけてくれない。
庭のお花に水をやらないから萎れてるよ。
子どもみたいだね。頼りがないよ。
誰かのためになにかするのが好きなお父さんらしくないよ。

ちいさなおとうさんには、もううんざりだ。
はやくいつものお父さんにもどってほしい。神様どうかおねがいします。
1週間を過ぎたところから、わたしはそう思いはじめていた。

その一方で、お母さんは、ちいさなおとうさんに毎日怒り続けた。
「修行をしっかりしなさい」
おとうさんがちいさくなったからだと思うけれど、普段よりさらに怒っていて目には涙がたまっていた。
ちいさなおとうさんは申し訳なさそうだった。
おとうさんはもっともっとちいさくなったようにみえた。
わたしはおとうさんと一緒に怒られないように、おとなしくすることにした。

「いってきます」
何日かして、おとうさんはまた家をでて行ってしまった。
神様、おとうさんはちゃんと帰ってくるのですか?
帰ってくるのなら、次はどんなおとうさんで、家に帰ってきてくれるんですか?素敵な魔法をお願いします。
わたしは気がかりだった。

わたしは歌った。みんなも歌った。
(できるなら、働きもので、器用で、我慢強くて、おばあちゃんを大切にして、動物が好きで、旅行が好きで、よく歌って、飲んで、お花が好きで、娘にあまくて、ごはんが上手で、小心者で、お母さんに顔があがらない、いつものお父さんがいいです。)

「ただいま」
おとうさんが帰ってきた。

姿はみえない。
お母さん曰く、今後はわたしたちの目にはみえないくらい大きくなってしまったらしい。
顔はおひさまよりももっともっと大きいんだって。
もうこれからは、おとうさんはちいさくない。
そして、これからはずっといっしょにいられるんだって。

しかたがない。
おとうさんは大きくても小さくてもわたしのお父さんだ。
わたしはお父さんが大きくなったことを許してあげることにした。
これからはずっといっしょだ。


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