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休むに出会う熱海旅#1

品川駅のホームで崎陽軒の弁当と缶ビールを持っているという状況はなんともいえない不思議な気持ちだった。

数年ぶりの旅行。宿の予約も新幹線の予約もスマホからできるように変わっていた。みどりの窓口に並ばないで新幹線に乗れるなんてと時代に取り残された気持ちと少しの違和感があったが、とにかくありがたい話である。

仕事とプライベートのドタバタが3ヶ月続いた。
そんなときに息抜きに友人に声をかけられ飲みに行く機会があった。今の状況を説明すると、

「いや、まとまった休みとれって。」

と言われて1ヶ月。やっと4日間の休みを取った。仕事の調整は面倒だったが、新幹線の改札を通った瞬間に疲れていた気持ちがふわっと緩む感覚があり、今休んで良かったんだなと感じている。

新幹線の中には仕事中であろう男性たちが、眉間にシワを寄せて銀色のノートパソコンを叩いている。うん。昨日まで自分もこうだったんだよね。と思うと恐ろしい気持ちになる。

崎陽軒のシウマイ弁当を開くと、5つの焼売と俵型のごはん、色とりどりのおかずが出てくる。

さて。と小さくつぶやく。

弁当はパズルだ。おかずとごはんの食べ終わる瞬間をいかに揃えるか。

まずは、シウマイに醤油をかける。そして一口。すかさずごはん。
マグロの漬焼きとからあげのタイミングはとても重要だ。ごはんは8つの俵に区切られている。単純計算で考えれば、5つのシウマイと、唐揚げ、魚で何つの俵を消費する。それでは、そうすると一つの俵が残る。
ここで、たけのこの煮物、梅干し、漬物、卵焼きの立ち位置が重要になってくる。彼らの存在と、缶ビール。これがストーリーを作る上でとても重要なキーパーソンになる。

シウマイはつまみにもなる。そして鮪の漬焼きはかなり塩気が強い。そこで、ごはんの調整をする。

ビール、たけのこ、漬物、おかず、ごはん。
小さなステップを積み重ねて最高の食事のストーリを作る。
そして最後に杏を頬張り、エンディングを迎える。

眼の前の弁当とビールから顔を上げ、窓の外を見ると岸壁と海が広がっていた。なぜか伊豆の海は物悲しい。ブルースっぽい。昔、付き合っていた彼女が「伊豆って、不倫じゃなくても不倫みたいな景色だよね」といっていたことを思い出す。ホントすぐ男は「名前をつけて保存」する。と自分に突っ込みながら、ブルージーな海を見つめる。

熱海の駅前は金曜の夕方ということもあり、賑わっている。海外の方も多く駅前の足湯は満席だ。

いくつか気になる喫茶店をマークしていたが、まずはチェックインということで街を歩く。

これぞ仲見世という駅前の商店街には食べ物からお土産品までたくさんのものが店の前に並んでいる。来宮神社の仲見世という意味なのだろうか?と考えながら、The お土産という、おまんじゅうや家に帰ったらなんで買ったんだろう?とわからなくなりそうな品々を見ながら宿に向かう。

とはいえ、熱海という街は、若者にも目を向けている。プリンなどスイーツを推しているお店も多い。

夕方だというのに、若いカップルが並んで写真を撮っていた。経済も時代も循環することは素敵だなーとおじさんは缶ビール片手に熱海銀座に向けて歩く。

今回の宿はゲストハウス。古い映画館を改装し、内装も当時のものを活かしている。映画というより銀幕という言葉が似合う宿だ。

ここにも、どこか物憂げなブルースを感じる。情緒を刺激する街なのだろう。
宿に荷物を置いてまずは温泉ということで近くの日帰り温泉へ。

夕暮れの熱海はエモかった。エモいという言葉は便利で、語彙力を失わせる言葉だが、どうも魅力的だ。

温泉の前にコンビニに寄りスポーツドリンクを買う。

温泉につかり、サウナに入り、水風呂に入り、外気浴。3回繰り返し、ロッカールームでスポーツドリンク。最高のコンボだ。

途中、サウナの中で、フランスから観光に来た方たちといっしょになり、英語でサウナの使い方について質問された。適当なボディランゲージと英語でサウナマットと、ロウリュの使い方を説明する。すると、「ありがとう。ロウリュかけてもいい?熱くない?」と声をかけてくれた。もちろん。と答えて一緒にサウナを楽しんだ。

今回のゲストハウスには、バルが併設されている。温泉から宿に戻った瞬間にビールが飲める。

カウンターが数席。入口は大きなガラスの引き戸で熱海の街を歩く人たちの姿が見える。

サバのリエットをつまみに地ビール

「熱海ははじめてですか?」

ふわっとしたシフォン地のワンピースに黒いエプロンをつけたスタッフの女性が話しかけてくれた。

「6年前に一度泊まって、来よう来ようと思っててやっと来れました」

彼女はいろんなゲストハウスで働きながら、デザインなどの仕事をしているそうだ。明るく元気。でも冷静な視点で店の中をよく見ながらテキパキと仕事をされていた。

そのまま彼女と旅行トークで盛り上がる。

「最近行ってよかった所とかありますか?」

「行ったというか四国に移住してたんだ。」

「そうなんだ!私、瀬戸芸のスタッフやってました!」

縁というのは本当に不思議なもので、いろんなばしょで旅をしてその土地の人と話すようになってから同じような経験、場所を訪れた人に必ず出会うようになった。

「近くに四国の方がやっているBARがあるんですよ!」

ビールをそこそこ飲んだ僕はそのBARに向かった。

入口は絶対にわからない。そもそもやっているかもわからない真っ暗な扉。

でも看板だけは小さく照らされていた。

店内は大正モダンと天井桟敷の世界観が合わさったようなインテリア。バックバーにはボトルと一緒に昭和初期の本や雑貨が並び、今にも文豪が集まって来そうな雰囲気だった。

マスターは四国で住んでた家のご近所さんだった。さらに当時の取引先まで同じだった。

途中、僕らは、仕事の話や音楽の話で盛り上がり、途中で入ってきたお客さんもロック好きでさらに盛り上がる。ハイボールがパカパカと空いていく。久しぶりに洋楽ロックの話で盛り上がる幸せな時間。

そのまま数時間たち、カウンターに座りながら「あ、もう限界だ」と思い、急いで挨拶と会計を済ませ、宿に戻る。限界をカウンターで感じたのは久しぶりだったのでものすごく焦った。

宿に着くと、とりあえず風呂に行く前に買っておいたスポーツドリンクをがぶ飲みして、そのまま寝た。

そして、翌朝、起きたら案の定の二日酔いだった。

つづく。



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