「常識」「人間力」の重要性 熱意が空回りするとどうなるか

オレが学生時代に3人目に組んだ漫才の元相方は、違う大学に通う人だったが漫才に対する熱意はあったため、遠くから会いに来てくれてネタ合わせを真剣に取り組んでくれた。

ネタ作りは最初オレがやったが、そのネタに色々意見を出してくれて修正を加えながら、ある日のネタ練習時には、約200回練習したこともあるくらい熱意がある人だった。

仙台のお笑いライブでそのたくさん練習を重ねた漫才を披露するもお客さんからは笑いをあまり得られずではあった。

だがこの相方となら将来的に面白い漫才を磨けそうだと希望が持てて、オレにとってかなり収穫となった。

だが、後日それを裏切られることはその時点では知る由も無かった。


次のお笑いライブに向けて2つ目のネタを作って相方に見せた。

そしたら一通り台本を読んでくれて「ちょっとこれ預かってもいいか?」とオレに聞く。

理由を尋ねると「ちょっとね」とだけ答えてその日はネタ練習とかせず終わる。

後日、なんと相方はオレの作った台本を持ってきたと同時に、もう1つの紙を持ってきた。

もう1つの紙が何かを尋ねると「オレが作ったネタだ」と話す。

読ませてもらうと、M-1グランプリで優勝したことがあるコンビのネタをかなりパクったネタが書かれてあった。

続けて、相方はオレに向かってとんでもないことを言い放つ。


「オレの作ったこのネタ帳とお前から借りてたこのネタ帳を、オレの友達10人に見せてどっちが面白いか聞いたら、10人ともオレの作ったネタの方が面白いって答えたから、次のお笑いライブではオレが作ったネタをやろうぜ」


オレは頭が一瞬真っ白になった。

オレは相方に向かっていくつか質問をした。

ネタを作ってきてくれっていつ頼んだのか?

ネタ帳を誰かに見せて良いとオレは許可を出したか?

その友達はオレのことを知らないし会ったことも無いんだから皆お前の作ったネタの方が面白いって言うのは当たり前じゃないのか?

んでこのネタよく読んだらM-1王者のネタじゃないか。

そりゃ10人の友達はお前の台本を選ぶに決まっているだろう、と。

「いや許可はもらってないけどこの間結局お前の書いたネタで滑ったワケだし、オレもこういうネタをやりてぇからさ、多数決取って多かったらこのネタやろうと思っただけだよ」と相方は言う。


オレは頭に来て言い返す。

やってみたいネタがあるならまず相方であるオレに相談するべき。

お前の友達のことはオレは会ったことが無いから知らないし、ネタはコンビで作っていくものだ。

コンビで作るからウケたときに喜びを得られるものだと思うから友達にネタの相談をするのは違う。

オレも魂込めてネタを作っているからお前以外の人に台本を読まれるのは絶対に嫌だ。

それに台本は無機質な文字の羅列で感情がこもっていないんだから、2つ見せて比較しろなんて無茶苦茶なことだ。

ましてやM-1王者のネタを、参考にしたボケやツッコミを目指したいならまだしもセリフとか構成まで色々真似るのは違う。

これだと劣化版だとかパクりだと言われて終わりだ。

等とオレは相方に言ってる途中で彼はオレに向かって「解散しよう」と告げてきた。

急に言われたので理由を尋ねると「そもそもオレとお前では笑いの価値観が違う。お前とやっていても希望が見えてこない。申し訳ないけどお前には笑いのセンスが無い」と睨み付けながら言われた。

オレは怒り心頭になった。

ああそうかよ、そもそもネタ帳を勝手に他人に見せたり人のネタを丸パクりするようなヤツはこっちから願い下げだ、笑いのセンスが無いだと、そっくりそのまま返してやるよ、2人で力を合わせて作って練習を重ねた漫才を披露してウケるからお笑いって面白いんじゃないか、お前は何もわかっていない、そんなヤツに漫才をやる資格なんか、

と、言ってる最中に遮るように、心のこもってない「今までありがとよ」を睨み付けながらオレに言い放ち彼はその場を去って行った。

後味の悪いコンビ解散となった。


オレは思った。

漫才の相方を探すのに、熱意ばかり追求するとこういうことになるんだと。

彼は完全に、お笑いに対する熱意が空回りしていた。

ネタ帳を勝手に知らない第三者に見せるなど非常識、言語道断。

それ以来オレは、漫才の相方に、ある程度の人間性と常識を求めるようにしなければまた同じことを繰り返すと感じた。

オレはネタ帳を相方以外に見られるのが嫌だったしネタ帳はコンビの絆、努力の証だと考えているためそう指摘しただけなのに、解散を告げてこられて尚且つ笑いのセンスまで否定されて、とてつもない怒りを覚えたのだった。


常識ってのはお笑いのみならず、何事においても大事なことだ。

それを相手が持っているかどうかを見極めなければならないと、勉強になったコンビ解散だった。

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