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大戦期に就業保証を訴えたFRB幹部:エマニュエル・ゴールデンワイザー(1944年5月4日)

調査統計部長を20年務めたこの人物は、連邦準備制度理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)での公式発言(1944年5月4日)で、就業保証(job guarantee)を提案した。かつてFRBにそのような時代があったなんてとても信じられない。

ネイサン・タンカスのX(旧Twitter)での投稿

 3月1日、MMTコミュニティでも有名な金融ライターのネイサン・タンカスは、FRBの委員会で就業保証が提案されるような時代があったとして、該当する議事録の抜粋を紹介しているところ、概要は以下のとおり(番号と太字はこちらで付したもの)。

以下、1994年5月4日に行われた連邦準備制度理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)での、エマニュエル・ゴールデンワイザー調査統計部長(当時)の発言。

【仮訳】
1 ......第10のポイントも労働を扱っており、このプログラムの重要なポイントである。政府は、仕事を必要とするすべての人を雇用する用意がなければならない。これは、国際労働局に提案されたばかりのアメリカン・プランの最初のポイントであり、大統領(フランクリン・ルーズベルト)が議会への最後のメッセージ(1944年1月の一般教書演説)に盛り込んだ(第二の)権利章典の最初のポイントでもある。

2 しかし、このことがこれまで明確に認識されたことはなかった。私自身は、もしこれが実現すれば、不況が本格化することはなくなり、長期的には政府雇用に対する大きな需要はなくなるだろうと感じている。直接的であれ間接的であれ、何らかの形でこのような保証がなければ、継続的で安定した経済は実現できない。

3 つまり、政府は社会的に有用で非競争的なプロジェクトのセットを用意し、そこで就業希望者を雇用できるようにしなければならない。政府支出を増やせば、資金の調達先や使い道にはあまりこだわらずに物事を成し遂げられると考える学派は、豊富な貨幣供給さえあればよいと考える古い学派と同様、間違っていると思う。

4 私たちは、貨幣が潤沢に供給されていても不況は起こりうるし、貨幣がはるかに少なくても繁栄は起こりうることを発見した。同様に、国民所得が大きくても、それが十分に分配されなければ、繁栄は実現し得ないと私は確信している。

5 仕事を必要とする労働者に所得を配分することは、所得を最も有益なところに配分することである。不必要な応募を最小限に抑える方法は、給与を市場水準以下にすることである。この点については賛否両論あるだろうが、私はこれが最もシンプルで直接的な方法だと考えている。


 タンカスは、学位を持たないが、そのニュースレターが金融関係者の必読になっている若手の論客として一時期話題になったこともある(以下の記事)。

 記事にもあるとおり、高校時代の時点でミンスキーの金融不安定性説や現代貨幣理論(MMT)に出会っている。最近はアメリカ国立公文書管理局のサイトで財務省やFRBの記録を読み漁っているようであり、今回の議事録もその一環で紹介されたもの。

 ゴールデンワイザーは、1883年ウクライナ・キエフ生まれ。アメリカへ渡りコロンビア大学で学士号、コーネル大学で修士号、博士号を取得し、米国移民委員会、国勢調査局、農務省勤務を経て、残りのキャリアをFRBで築く。20年近くFRBの調査統計部長を務め、米国の金融政策や銀行政策の発展に大きな影響を与えた。1953年没。

 上記議事録に書かれているゴールデンワイザーの提案には、いくつもの就業保証の論点が確認でき、ルーズベルトが第二の権利章典を唱えた当時はこのような認識は一般的だったかもしれない。

 ケチを付けるとすれば、「不必要な応募を最小限に抑える方法は、給与を市場水準以下にすることである」の箇所だろうか。現代の就業保証の提言では、水準はあくまでその国・時代における生活賃金であり、またその賃金水準はフロアーとなるものだ。

 「市場水準以下」(below the market level)というのはややもするとその賃金だけで生活できる水準ではないかもしれないし、「以下」という表現では「フロアー」のニュアンスがなくいくらでも切り下げられてしまいそうだ。

 他方で、「不必要な応募を最小限に抑える方法」は民間との「非競争」の観点から重要であり、経済が安定化すればむしろ「政府雇用に対する大きな需要はなくなる」というのは、恐らく自動安定化装置のようなイメージを持っていたであろうと推察される。

 「政府支出を増やせば、資金の調達先や使い道にはあまりこだわらずに物事を成し遂げられると考える学派」との批判は、「資金の調達先」という部分を除けば、現代の一部の「反緊縮」論者やBI論者に当てはまるだろうし、「豊富な貨幣供給さえあればよいと考える古い学派」はリフレ派を思わせる記述だ。働く人に直接「的を定めた」支出をすべきという訴えは、MMTと共鳴するものがある。

以上

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