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【オーストリアXJGP】世界初の無条件での就業保証プログラムを導入(パイロット研究)

 今回もJGP関連で世界の実例を紹介していきます。今月1日にメディアの記事で『オーストリアで世界初の無条件の就業保証プログラム(JGP)が試される』(インディペンデント紙)と題して報じられています。
 JGPの実例自体は遡ればアメリカのニュー・ディール、スウェーデン、オーストラリア、アルゼンチン、インド等が挙げられていますが、「無条件」でのJGPのパイロット研究が行われるのは「世界初」とのことです。
 そしてオーストリアの試験的導入は、対象をニーダーエスターライヒ州(下オーストリア州)のマリエンタールという町に限定して行います。
 短い記事であり、今後の進展を見ていかないことにはまだ何とも言えませんが、計上された予算の具体的な数字も示され、JGPが注目される理由、実施の意義も語られている上に、今回は参加者の一人から生の声(JGPへの期待)も寄せられており、示唆に富む内容であると思います。

※本記事はあくまで学習目的の範囲内でのご利用に止めていただきますようお願いいたします。

(原文リンク:https://www.independent.co.uk/news/uk/politics/unconditional-job-guarantee-trial-austria-marienthal-oxford-universal-basic-income-b1451788.html)

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『オーストリアで世界初の無条件の就業保証プログラム(JGP)が試される』(2020年11月1日、インディペンデント紙)

筆者:ジョン・ストーン特派員| @joncstone

 国が失業に対処する方法を変える可能性のある新しい試験的政策の一環として、オーストリアの失業中の人々に有給の仕事が保証される。
 マリエンタールの町での長期的失業を実質的に一晩で解消するパイロット研究は、ニーダーエスターライヒ州の労働部門の要請により、オックスフォード大学のエコノミストらによって設計された。
 町のすべての長期失業者、推定150人が育児、園芸、住宅改修などの分野で働き、全額の賃金が支払われた。
 エコノミストらは、無条件の就業保証(JG)が失業を管理する方法として経済的に意味があると長い間提唱してきたが、大規模なプランが試行されたのは、マリエンタールの実験が初となる。
 このアプローチに対する国際的な関心が高まる中、世界中の政策立案者は今後3年間の調査結果を注意深く見守っている。JGの支持者には、元米国大統領候補のバーニー・サンダースやスコットランド労働党の指導者リチャード・レオナルドが含まれ、この政策はコロナ禍からの経済回復を円滑にすることができると主張している。
 オックスフォード大学のエコノミストの1人でパイロット研究を設計し、その結果を分析するルーカス・レーナー氏は、次のように述べている。
 「多くの職がすでに失われ、失業の波が間近に迫っていることが警告されている状況であり、普遍的な就業保証というアイデアが関心を集めていることは理解できる。」
 研究の場所としてマリエンタールを選択したことは実に象徴的である。1930年代のマリエンタールは、地元の繊維工場の閉鎖による大量解雇が、社会の崩壊と市民生活への損害をどのように引き起こしたかについての画期的な社会調査研究の場所だった。
 当時の研究者たちは、失業の影響は経済的困難をはるかに超えており、当事者に深刻な心理的影響を及ぼし、また地域社会にも幅広い影響を与える可能性があることを立証した。新しいパイロット研究は、その反対の事象を測定することを望んでいる。つまり、保証された仕事が、どのようにコミュニティとその中にいる個人の幸福に寄与することができるかについての研究である。さらにこの象徴的な繁栄の中で、今回の就業保証制度に関与している機関の1つは、現在も残っている工場の使われなくなった建物の1つに事務所を開設することを予定している。
 マリエンタール周辺は、1980年代から増加し続ける長期的な構造的失業に苦しんでいる。8月末には、マリエンタール町のあるニーダーエスターライヒ州の失業者のうち、約5人に1人が1年以上求職中という状況だった。

バーニー・サンダースは、米国での就業保証の著名な支持者の1人。(アレックス・ウォング/ ゲッティ)

 新しいパイロット・プログラムの下で、町の自治体で1年以上失業している人々が招待され、1対1のトレーニングと、必要とする人にはカウンセリングと医療サポートへのアクセスが付いた2ヶ月の準備コースが与えられる。
 その後、参加者は民間部門で助成を受けた仕事を選択するか、もしくは得られそうな仕事がない場合は、スキルやコミュニティのニーズに関する知識に基づいて仕事を生み出す形で就労支援を得ることが可能だ。
 これまでのところ、このプログラムは町で好評を博しているようだ。ジェニファー(43歳)は2011年から失業しており、パイロットの参加者の1人になる予定だ。
 「私は家を出たくありませんでした。自分がうまくいっていないことを他の人に知らせたくなかった」と彼女は言った。 「このプロジェクトに参加することは、夢が叶ったように感じます。仕事がないと前向きに考えることができない。仕事があれば前向きになれる。それが私にとって最も重要なことです。前向きにさえなれれば、他のことはみな何とかなる。」
 パイロットの費用は比較的控えめに見積もって740万ユーロ(約9.12億円)と見込まれており、ニーダーエスターライヒ州の公的雇用サービスから資金提供を受ける。研究者によると、これは参加者1人あたり29,841ユーロ(約367万円)の費用に相当し、1年間における失業者1人あたり30,000ユーロ(約370万円)の社会費用にほぼ等しい。プロジェクトの雇用活動も約383,000ユーロ(約4,720万円)の収益を生み出すと見込まれている。
 今回のパイロット・プロジェクトは、フィンランドで行われたユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)の給付とその影響を調査し、世界中から大きな関心が寄せられたパイロット研究の後に続く形となる。失業に対処するためのより良いアプローチが就業保証なのかベーシックインカムなのかという問題は、一部のエコノミストの間で議論の的となっており、ニーダーエスターライヒ州のパイロットは貴重なエビデンスを提供することが期待されている。
 マリエンタールの実験を観察するエコノミストは、オックスフォード大学オックスフォード・マーティン・スクールのニュー・エコノミック・シンキング研究所に所属している。パイロットの共同設計者であるマクシミラン・ケーシー教授は、次のように述べている。「特に参加が任意であり、提供される仕事に意味がある場合、就業保証プログラム(JGP)は、社会的セーフティネットを提供するツールキットに加わえられる重要なアイデアです。このようなJGPの史上初の厳格で透明性のある、独立した評価に参加できることを嬉しく思います。」(以上)

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