見出し画像

朝の音/詩と朗読 poetry night 第81夜

夢の中で私はいつも小学生だ 
天気は晴れ 
父は銀行員 
庭の花がうららかな風に揺れていて
(「朝の音」より)

🌿「詩と朗読 poetry night」 第81夜は「朝の音」。スキマ時間に聴いていただければ幸いです。↓

*****
「朝の音」

階下で動き回る気配に
目を開けた
洗濯機を回す音
味噌汁の匂い
母が昨夜の残りを温め直している

タンスの扉を
父が開け閉めする
掛けてあるベルトが扉にあたって 
カランカラン 
ネクタイを締めて 
背広をはおって 
カバンを肩に掛けたら
もう出勤だ 

玄関のドアを開けると
家中の空気がどん、と動く
 
もうすぐ階段の下から
母が私たちを呼ぶのだろう 
「早苗~、真理子~、起きなさい~!」 
二人部屋の
向こうの端のベッドで寝ている姉は 
もう起きただろうか 
「お姉ちゃん…?」

声に出したら本当に目が覚めた 

ときどきそんな朝を迎えている
ちゃんとした大人になりたくて 
父の勢力下から逃れたくて 
一人暮らしを始めたのは
十五年前 
それから結婚もした 
四〇も越えたのに―

夢の中で私はいつも小学生だ 
天気は晴れ 
父は銀行員 
庭の花がうららかな風に揺れていて

家族の朝の音 

大切な一日の始まりを 
あまりに当たり前のものとして
過ごしてきた
もう戻っては来ない
永遠の朝の音 
胸に抱いて 
さあ 
今の私の一日を始めねば。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?