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「逃げる男/イザナミとイザナギ、黄泉比良坂の別れ」詩と朗読 poetory night 第84夜

.   不意に蘇る
 遠い遠い記憶
 あのとき黄泉比良坂(ヨモツヒラサカ)で
 あなたはやはり
 怯えて逃げた
 私の中に蠢くものから

💎詩と朗読 poetry night 第84夜は「逃げる男/イザナミとイザナギ、黄泉比良坂の別れ」。スキマ時間に聴いていただければ幸いです。↓

「逃げる男」

追いつめてはいけない
男には逃げ道をひとつ
残しておいてあげなくては

と言われたので
そのようにしたら

本当に逃げていってしまった

 不意に蘇る
 遠い遠い記憶
 あのとき黄泉比良坂で
 あなたはやはり
 怯えて逃げた
 私の中に蠢くものから
  髪飾りの蔓草
   爪櫛の歯
    長剣
     桃の実
      そして
      千引きの岩
追いすがる私を
何度も何度も捨てた男
「どんな君でも愛する」
甘い睦言も
まっすぐな眼差しも
みんな嘘―

逃げていくような男なんて
いっそのこと

見捨ててしまえ

と言われたのだが
そのようにできず

つくるばかりで
責(せめ)をとらない子供ばかりを
次々と受け入れた
千人も

いつかまた逢える
疲れた者は
皆ここへ還ってくるのだもの

好きなだけ逃げればいい

女は待つ
闇く温かい混沌の中で


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