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人と地域を元気にする地産地消の給食改革! 【第2弾=新潟県新潟市③】

給食を提供する株式会社の発展的な事業展開モデル③


【この連載について】
この連載は、総務省地域力創造アドバイザー/食環境ジャーナリストの金丸弘美さんが、地産地消の給食に取り組む日本全国の画期的な事例を取材したルポルタージュです。
第2弾は、新潟県新潟市で給食サービスを中心に多彩な事業展開を行っている株式会社総合フードサービスを全4回でまとめていきます。
     第1回       第2回       第4回

▼設備が行政もちの給食センターの現状

 旧来の町村も人口減もあり、今から7,8年前より調理業務だけを民間に委託する形になりつつある。新潟の郊外にある葛塚給食センターは行政が建てたもので、そこで総合フードサービスが約1200食を調理している。
 葛塚給食センターには行政の栄養士とセンター長がいる。献立の作成・発注までは行政の栄養士が行い、調理・配達・食器洗浄は民間委託となっている。
 長嶋さんは給食の委託業務について次のように語る。
「学校給食の場合、基本的には設備は行政もちなんです。献立の作成や仕入れは行政の栄養士がします。そうすると仕入れして調理して配達する部分だけ民間委託ですので、そこの部分だけ行政は払えばいいということになります。ただ、3年に1回入札ですので希望する業者が、3年分いくらと価格をいれる。委託は安い方に決まってしまう。3年というのはあっというまに過ぎてしまいます」
 委託を受けて行うと、入札があるために3年ごとに見直しが必要になる。人件費もおいそれと上げられない。設備投資もなかなかしづらいというジレンマがある。
 現在、新潟市周辺は、ほとんど民間委託になっているという。また新潟市の小学校についても3分1は民間に変わった。毎年、2、3校を民間に移している。最終的に全部調理業務は民間になる予定だ。

▼地産地消で野菜を使うために農業を始める

 総合フードサービスでは農業を行う「株式会社健幸食品」をもっている。農家から耕作放棄地を借りて作り始めたもので、栽培面積は、現在1.7ヘクタール。ハウス5棟がある。ジャガイモ、長ネギ、キャベツ、大根、通年でハウスで小松菜を栽培する。社員が2名。パートが2名。若干名のアルバイトが作業を行う。2011年からスタートした。
栽培した野菜は自社の給食センターや幼稚園等で使われている。足りないものは知っている農家から調達も行っている。
 きっかけを長嶋さんは次のように話す。
「給食の委託の依頼後3年くらいして市から学校給食の「地産地消」をしようと会議があったんです。2年くらい会議があった。出席者は中学・小学の校長、栄養士、JA、市場、八百屋、流通関係などの人たち。主に野菜について会議をしたのですが、まとまらなかったんですよ。
 というのは、ひとつ例をとりますとキウイフルーツがでるとした場合、当時、新潟市の中学生が1万2000人いた。市場の方では1万2000個集められない。時間があれば集められるが硬いの柔らかいのが出てくるという話しになる。そうすると栄養士や学校は『それは困ります。みんなが一緒でないと』となる。
「地産地消」ですので新潟産にしたい。しかしそれだけの数が確保できるのかとなってしまう。
 JAは集めるけど配達はしません。市場は集めることはできるけど地域限定はできません。栄養士は、地産地消なので地域でできたものをもってきてくれませんかと。みんなそれぞれ事情があって、結局まとまらない。会議は2年ほどしたのですが自然消滅のようになった」


▼耕作放棄地を使って会社で農業をスタートさせる

 会議に出席していたJAの赤塚地区の課長がいたことと、赤塚地区に農家が多いこと、赤塚中学に給食をだしていたことから農家から直に仕入れたら「地産地消」になるのではという話しになった。
 農産物というのは農家、JA、市場、仲卸、八百屋と経由して、一般には仲卸や八百屋から農産物が届く仕組みだ。総合フードサービスも注文すれば、仲卸や八百屋が届けてくれる。しかし、生産者から直となると、どの農家がなにを栽培して、いつどんなものができるか把握をした上で集荷もしなければならない。そこで間をとりもつ「株式会社健幸食品」を作ることとなった。
 「「地産地消」をするための集荷販売をする会社なんです。けれど農家から直接わけてもらうということが初めてで農家の知り合いがいない(笑)。困って赤塚の商工会に行って農家を紹介してほしいと頼んだ。たまたま商工会の会長が、当社の取引のある肉屋さんの社長だった。事情を話し、農家4、5軒を紹介してもらった。紹介して農家に集まってもらい学校給食に使いたいと話をしたんです。ところが農家に話してもうまく話が伝わらない。話がまとまるのに半年くらいかかった。最終的に、小松菜やニンジン等の野菜の調達は、商工会の脇にコンテナをおいて、そこへもってきてもらうこととなった。このようにして「地産地消」を始めたんです」

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↑ ハウスでの小松菜栽培 ↓

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 間を取りもつのもなかなか思うようにいかない。そんなときJAから言われのが、「耕作放棄地が多くある。それで自分たちで栽培したら」というものだった。こうして、「地産地消」は、自らが農業を始めるということとなった。
 ちなみに耕作放棄地は年々増えていて新潟市の2005年統計で786haもある。新潟県全体では10500ha。放棄率は7.7%(2015年)だ。
「野菜は私たちが独自に仕入れていています。仕入れは順番があって、まずは、当社の畑、それに知り合いの農家。たとえば、キャベツ100kgを当社の健幸食品に用意してくれと頼むわけですね。当社で作っている野菜は週2回集荷します。農家も廻ります。それで足りないとJA、それから市場。その他は八百屋さん。
 野菜以外の食品は決まっている業者がいます。調味料、冷凍食品、魚類、肉類は固定した学校給食の専用問屋さんがいる。普通の問屋が扱っていないようなものをもっている。そこから入れています」(長嶋さん)

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大根畑

▼若い人たちの就労サポート支援も行う

 総合フードサービスでは障害者の雇用も実施している。
本社、給食センター、関連会社の健幸食品と加工品や弁当を作る叶味家で、知的障害、発達障害、精神障害、グレーゾーン含めて16名が働いている。このなかには、自分で生活をして独立して働いている人も2名いる。
 社員食堂の盛り付け、食器洗い、炊飯の手伝い、すし飯の加工などさまざまな仕事を手掛けている。
「今、世の中をみてみると仕事ができる人ばかりに求人がいっている。グレーゾーンといわれている人たちも仕事ができる。農業だと8割くらいできるんですよね。
 発達障害の人もいろんなタイプがいて、こだわりをもっている人は、そのこだわりの部分の仕事というのもあるんですよ。これをほっておくのはもったいない。彼らもせっかく生まれてきたのだから世の中のためにならないとだめだろうと。そういうことで、できる仕事があればしてもらおうよというわけですね」(長嶋さん)
  長嶋さん自身も一般就労できない若者の就活の支援活動を行っている。
  一つが「若者サポートステーション」、
  一つが「新潟市障がい者雇用支援企業ネットワーク“みつばち”」、
  一つが、ニート、引きこもりの支援をする団体で代表にもなっている「NPO法人にいがた若者自立支援ネットワーク・伴走舎」だ。
「イベントの企画を若者にやってもらう。たとえば、ジャガイモの収穫時期にみんなで収穫してカレーを作って食べるとか。11月末、12月に大根をとって豚汁を作って食べるとかするんです。
 希望する若者に集まってもらう。10人くらいが集まって運営会議をしてもらう。彼らが食材はどうする、調達は誰に頼む、料理はだれがする、運営や案内はどうする、とみんなが決めて、計画をしたとおり実行し参加を呼びかけて食べてもらう。そうすると福祉関係の人とか中小企業同友会等のメンバーがきてわいわいやって話をしたなかでコミュケーションが生まれる。それが若者の就職につながる。そんなことをやっている」
 人と人とが交わる、実際の活動をみてもらう、そこから交流が生まれ、適正な仕事につながるという仕組みだ。

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ネギ畑


*関連リンク
「株式会社総合フードサービス」(代表取締役・長嶋信司)
http://www.sogo-food.com/
「株式会社健幸食品」
http://www.sogo-food.com/kenkou/
「若者サポートステーション」
http://saposute-niigata.net/
「新潟市障がい者雇用支援企業ネットワーク“みつばち”」
https://www.city.niigata.lg.jp/smph/iryo/shofuku/shuro_koyo/shuro_koyo/mitsubachi-plate/networkmitsubachi.html
「NPO法人にいがた若者自立支援ネットワーク・伴走舎」
https://banso-sha.jimdofree.com/伴走舎-について/法人概要/


プロフィール
金丸 弘美   総務省地域力創造アドバイザー/内閣官房地域活性化応援隊地域活性化伝道師/食環境ジャーナリストとして、自治体の定住、新規起業支援、就農支援、観光支援、プロモーション事業などを手掛ける。著書に『ゆらしぃ島のスローライフ』(学研)、『田舎力 ヒト・物・カネが集まる5つの法則』(NHK生活人新書)、『里山産業論 「食の戦略」が六次産業を超える』(角川新書)、『田舎の力が 未来をつくる!:ヒト・カネ・コトが持続するローカルからの変革』(合同出版)など多数。
 最新刊に『食にまつわる55の不都合な真実 』(ディスカヴァー携書)、『地域の食をブランドにする!食のテキストを作ろう〈岩波ブックレット〉』(岩波書店)がある。
*ホームページ http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/home/index.php


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