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人と地域を元気にする地産地消の給食改革!【第1弾=岡山県笠岡市④】

地産地消で病院食が美味しい!④

【この連載について】
この連載は、総務省地域力創造アドバイザー/食環境ジャーナリストの金丸弘美さんが、地産地消の給食に取り組む日本全国の画期的な事例を取材したルポルタージュです。
第1弾は、岡山県笠岡市の医療法人緑十字会笠岡中央病院で取り組む給食を
全4回でまとめていきます。
第1回   /   第2回   /   第3回

▼お医者さんも栄養士も委託事業者も患者さんも大きな変化が生まれる

 国産食材利用は、関係者に大きな変化をもたらした。
 病院のお医者さんから好評だった。ドクターは検食をいつも食べる。反応はとてもよかった。美味しい食をだしていると給食を任せて大丈夫と栄養課への信頼もました。ドクターは改善前の輸入冷凍カット野菜も食べていたことから食材の変更からの味わいの向上を体感してもらえることとなった。
 管理栄養士の意識も変わった。
 地元食材を使うとなると献立が難しいと思われていた。しかし発想が変わった。
 素材を活かし旬の新鮮な食材を使用すれば美味しい献立ができる。
 使いたいときに地場食材がない。旬の食材から献立を考えれば食材探しに苦労することはない。
 地場食材使用率をあげたい。食材の背景がわからないと県内食材の寄せ集めになり、地場食材使用率100%の献立を提供しても喫食者には全く喜んでもらえない。食材の背景や生産者の思いを伝えることで地場食材の使用率は高まる。このため生産者の現場や顔などの写真、マップなどを丁寧につくり毎回紹介をしている。
 これらの活動から食べた人たちから購入方法の問い合わせも増えた。地域に繋がる活動へと広がることとなった。

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写真:病院食を食べる患者、スタッフ向けに作成された「地産地消MAP」

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写真:院内に展示コーナーをつくり活動を紹介する

▼地場産食材の扱いを業務委託事業者とこまやかに意見交換

 業務委託事業者との意見交換も熱心に行い改善に取り組んでもらった。
 地場食材を月に1度使うといっても、これまでに使用した経験がないからだ。

 ・野菜の下処理が大変(たけのこ・ふき・ゆず等)
 下処理がある食材は重ならないように献立作成時に配慮。当日納品ではなく下処理を考慮し2日前納品も可とする。

・珍しい食材は取り扱いがわからない(まこもたけ、パパイヤ、スイスチャード、桑の葉茶等)
 → 献立作成担当栄養士が取り扱いの写真つきで資料を作成。

・納品時間がバラバラで対応が大変
 → 事前に生産者から配達時間の目安を教えてもらい、献立担当栄養士が検収(納品の品物が発注どおりか検査して受け取る)を担当。

・野菜の形が不揃いで取り扱いにくい
 → 生産者への料理名や調理方法を伝え、可能であれば調理しやすい大きさや形の野菜を納品していただく。

 調理をする現場の人たちと生産者とこまやかな対応を行い、給食が豊かになることが行われた。また栄養士と給食委託事業者との半年に一度は確認の会議が実施され、それぞれの課題、解決策などを出し合いワークシェアを行うことをしている。
 「『地産地消御膳』は3か月前から動かないといけない。負担にならいないように調整して話し合いマニュアル化しています。チェックリストを作っています。
 3か月前に献立を考える、2か月前に全体会議で献立を発表する。1か月前に使用可能な食材を報告する。レシピ、盛り付けイメージも用意する。各施設に発注表を配布する。初旬には生産者に発注する。お品書きのデータを創る。その前に、日清医療食品に予算と生産者一覧表も提出しています」(粟村さん)
 笠岡中央病院の活動は農水省の目にとまり「民間病院で日清医療食品と協働で地産地消活動をしているケースは珍しい、全国に活動を発信してほしい」と依頼される。
 こうして笠岡中央病院の取組は2017年、農水省「地産地消給食等メニューコンテスト」の中国四国エリアで中国四国農政局長賞を受賞した。
 また農水省「地産地消コーディネーター事業」に応募して受講する側だったのが、今度は、講師と現地実践の視察先としても認定され、セミナーの講師としても登壇した。このことによって、全国の関係者に広く知られることとなる。
 管理栄養士・粟村三枝さんは、「地産地消コーディネーター派遣事業 専門家登録リスト」に登録され、今度はアドバイザーに回ることとなった。

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写真:全国栄養士大会ポスター発表の粟村さん

 取り組みは、さまざまな効果と反響をもたらすこととなった。
 日常の食材を国産に切り替え、月1回の地産地消御膳の取り組みは、地場食材の利用率を引き上げ、残菜率を下げた。

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 給食の食材費用は670円(1日3食)。地産地消御膳は1食あたり平均97円仕入れコストが削減された。

▼多くのメディアに取り上げられて職員のモチベーションがあがる

 多くのメディアに取り上げられて栄養部門や日清医療食品の活動が大きく評価され職員のモチベーションがあがった。
 他院からの視察、研修会、講演会の依頼が来るようになった。外来患者対象の病院食体験会の企画もあり反響が広がった。

病院食体験会

写真:病院食体験会

 地元での福祉大会、市の活動紹介などにも呼ばれ地域の人の理解が深まった。
 栄養士が市の新規就農支援のワークショップにも参加し、より地域の農業や食材の理解が深まった。
 ただ課題がないこともない。日本全体の課題として今後高齢化と人口減少がある。このために病院・介護施設の給食運営が人手不足で厳しい局面に立たされているという指摘があることだ。
このための行政の支援体制や、より健康であるための食の活動が求められる。健康であれば病院の回転率もあがり経済的に寄与するということも言われている。
 健康が広がれば行政の医療負担も減ることとなる。軽減分を食育・地産地消に回してもらえることができれば理想だろう。
 同時に食と農の現場が、持続経済に繋がる若者への、行政・大学・金融機関連携の起業支援を行い、より地域が豊かになる仕組みが必要だ。すでに高知県、和歌山県田辺市などが実施している。
 今後の活動として、笠岡中央病院の栄養士さんたちは、つぎの3点をあげている。
 ①近隣給食施設への地産地消献立の公開。
 ②地産地消給食が高齢者の栄養管理にもたらす効果の研究
 ③地域の食文化を次世代へ繋げる食育活動の発展。

 もうひとつは、笠岡市の笠岡諸島が、すぐ近くであることから、島の食材も取り入れたいというのが願いだ。島は、日本建築に寄与した石材を切り出した丁場や暮らし、環境、文化が残っていることから日本遺産になっている。これらと連携し、島の周遊、自然体験、漁業、農業体験、島の人との交流、地産地消の食、民家をリノベーションした宿泊施設などができれば、地産地消は、大きな文化活動として、観光と食という、さらに切り離せない、独自の体験文化に発展するに違いない。

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写真:笠岡中央病院の病院食にかかわるスタッフ

*関連リンク
 医療法人緑十字会笠岡中央病院  http://www.midorijujikai.or.jp/
 笠岡中央病院栄養課blog http://ameblo.jp/midorijujikai/

(参考資料には、『地産地消コーディネーター育成研修会(岡山会場)現地視察 研修資料』2019・12・19 制作・粟村三枝が使われています)

プロフィール
金丸 弘美   総務省地域力創造アドバイザー/内閣官房地域活性化応援隊地域活性化伝道師/食環境ジャーナリストとして、自治体の定住、新規起業支援、就農支援、観光支援、プロモーション事業などを手掛ける。著書に『ゆらしぃ島のスローライフ』(学研)、『田舎力 ヒト・物・カネが集まる5つの法則』(NHK生活人新書)、『里山産業論 「食の戦略」が六次産業を超える』(角川新書)、『田舎の力が 未来をつくる!:ヒト・カネ・コトが持続するローカルからの変革』(合同出版)など多数。
 最新刊に『食にまつわる55の不都合な真実 』(ディスカヴァー携書)、『地域の食をブランドにする!食のテキストを作ろう〈岩波ブックレット〉』(岩波書店)がある。
*ホームページ http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/home/index.php 

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