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人と地域を元気にする地産地消の給食改革!【第1弾=岡山県笠岡市③】

地産地消で病院食が美味しい!③

【この連載について】
この連載は、総務省地域力創造アドバイザー/食環境ジャーナリストの金丸弘美さんが、地産地消の給食に取り組む日本全国の画期的な事例を取材したルポルタージュです。
第1弾は、岡山県笠岡市の医療法人緑十字会笠岡中央病院で取り組む給食を
全4回でまとめていきます。
   第1回    /    第2回    /    第4回


▼国の人材派遣事業を利用して専門家のアドバイスを受ける

 地元食材を使うと言っても、最初はどう取り組んでいいかわからなかった。そこでインターネットで調べて農水省「地産地消コーディネーター事業」(運営・まちむら機構)を見つけた。実践者による事例が発表紹介されるセミナー、現地視察をする研修会、専門家を無料で派遣してもらえる人材派遣制度などがあることがわかった。
 人材派遣では「地産地消コーディネーター派遣事業 専門家登録リスト
があり、栄養教諭、大学教授、給食調理会社、直売所運営者、農産加工会社、料理家、調理器具会社など、57名が登録されている。
 人材派遣事業の申請を行った。派遣に関しては、とくに要望をしなかった。派遣されたのは、新潟県新潟市・ 株式会社総合フードサービス代表取締役社長・長嶋 信司さんだった。
 長嶋さんの会社は、幼稚園、中学校の給食、企業向けの給食を始め、農業も手掛け、地産地消を実践している。受託される側、受託をする側、流通の事情も詳しいということで派遣が決まった。
 派遣事業の会議では、農水省中国四国農政局の職員も参加。そこから笠岡市役所にも協力を得られた。農政局と市役所と病院で3回の会議が行われた。

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写真:農水省・市役所との会議

 粟村さんは次のように話す。
 「かなり具体的に指導していただいて、ひとつひとつ解決をしていったら、今の形になりました。
 当時悩んでいたのが仕入れ方法でした。日清医療食品さんは指定の商品で冷凍のカットの野菜を優先している。ここをどうしたらいいのか。長嶋さんは『受託側と委託側が話し合ってみてください』と言われ話しあいました。
 野菜の流通経路というのを、当時、私たちはあまりよく知らなかった。『生産者、JA、市場、仲卸、八百屋、消費者と届いているんだよ』と、『生産者から直接仕入れればいいじゃない』と教えていただいた。『でも生産者は作るのが専門で、給食の現場に売るという方法がわからないんだよ』とも教えてもらって、じゃあこっちから、問い合わせてみたらいいかなということで、笠岡市役所・産業部農政水産課の守屋基範さんを紹介してもらって、直接、購入できるように生産者さんとの伝手を創っていただいた。
 生産者の方には、もちろんやりたくないというかたもなかにはいました。理由は、やったことないしめんどくさいし、人もいないから配達できないとか、いうものでした」
 笠岡市役所・守屋基範さんの協力を得て生産者を訪ねるツアーを組んでもらい紹介してもらうことができた。そこからJA、直売所、シイタケ農家、製麺所、ハム工房、野菜栽培の農家と、どんどん広がっていった。
 そして配達をしてもいいというところがいくつも生まれ、毎月の「地産地消御膳」は形になった。

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写真:緑十字会で開拓した地元食材とその生産者・販売者をまとめたリスト

▼粟村さんたち栄養士は、地場食材仕入れ時の確認ポイントをまとめた

 生産者との出会いから、地場産食材の利用のために、どうしたらできるのかを、お互いにすりあわせて、それらをリストアップしてマニュアル化した。

【生産者からの声】
 ①納品時の手間が面倒(領収書、現金のやり取り、食材の振り分け)
 ②配達はできない、納品時間が確約できない
 ③Kg単位の発注ではなく、〇株や〇玉でしてほしい
 ④Faxがない、忙しい時間は電話対応できない
 ⑤天候で生育状況が変化するため、納品を確約できない

【管理栄養士の対応】
 ①納品時の手間については、初回訪問時に資料を渡し説明する
 ②配達ができない場合は、直売所に集めて直売所スタッフが配達。
  配達時間は指定せず、生産者の都合に合わせる。
 ③生産者と直接連絡がとれるため、野菜の規格を随時確認しながら
  生産者が納品しやすい単位で発注する
 ④Faxがない場合は、メールやline等で発注書の写真を送る。
  忙しい時期は電話連絡をしないよう配慮する
 ⑤1か月前から生産者と情報交換し、食材の確保が難しそうな場合は
  JAや仲卸を通して県内産食材を探す

▼月々に地元にどんな食材があるか12か月のカレンダーにしてまとめる

 地域の生産者で協力してもらえるところと何を生産しているかをリストアップし、12か月で、どの時期になにがあるのかをカレンダーにした。地域食材の価格表も一覧を作成した。

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写真:地域でどんな食材が生産されているかを示す
「地場食材使用月日目安表」

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写真:生産者・食材・価格・使用月を一覧にまとめた「地場食材価格表」

 こうして理解してもらえた生産者との付き合いが生まれた。
 地産地消をするために、町の情報を活用して協力者を探し、試食会を開いて生産者を呼んでの交流会が開かれた。農林水産省「地産地消優良活動表彰事例」があることを知り、その事例を参考に料理の試みも行った。また、農林水産省主催の給食事例を紹介する全国研修会にも参加した。
 生産者との交流会は、これまで5回開催。年に一度実施されている。毎回の参加農家は2人から3人。生産者とは別に役場の職員も招いている。

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写真:生産者を招いての試食会

「病院としては初めての取組。市役所の方は喜んでくださった。最初は守屋さんだったんですが、そのうち長寿支援課の方もきてくださり『噂はきいてますよ、楽しみにしてました』と言われて嬉しかったです。生産者は魚も肉も配達してもらえるところを探しました。
 探す時間は一人では大変なので熱意あるものが交替でやった。マニュアル化し皆で取り組めるようになりました」(粟村さん)
 しかし、病院では、なにもかもが初の試み。最初に県が取り組む「地産地消」の話をした当の理事・相談役の池田美郎さんから「お金にもならんし、手間ばっかりかかる。しょうもないことやっとるなあ」と言われる始末だった。
 ところが病院の取り組みが地元の新聞に大きく取り上げられた。
「そこから、まわりの見る目が変わってきているというのは感じていました」(粟村さん)
 実は、地元のメディアへは粟村さんが自ら売り込みをした。
 取り組みを岡山県にも紹介した。すると「岡山県知事認定・おかやま地産地消協力施設」として登録された。医療施設の登録は初めてだった。そののち活動が知られるようになると、さまざまなメディアが取り上げるようになり広く知られるようになる。

*関連リンク
 医療法人緑十字会笠岡中央病院  http://www.midorijujikai.or.jp/
 地産地消コーディネーター派遣事業 専門家登録リスト https://www.kouryu.or.jp/service/pdf/R0209chisanchisho_list.pdf
 株式会社総合フードサービス http://www.sogo-food.com/

(参考資料には、『地産地消コーディネーター育成研修会(岡山会場)現地視察 研修資料』2019・12・19 制作・粟村三枝が使われています)

プロフィール
金丸 弘美   総務省地域力創造アドバイザー/内閣官房地域活性化応援隊地域活性化伝道師/食環境ジャーナリストとして、自治体の定住、新規起業支援、就農支援、観光支援、プロモーション事業などを手掛ける。著書に『ゆらしぃ島のスローライフ』(学研)、『田舎力 ヒト・物・カネが集まる5つの法則』(NHK生活人新書)、『里山産業論 「食の戦略」が六次産業を超える』(角川新書)、『田舎の力が 未来をつくる!:ヒト・カネ・コトが持続するローカルからの変革』(合同出版)など多数。
 最新刊に『食にまつわる55の不都合な真実 』(ディスカヴァー携書)、『地域の食をブランドにする!食のテキストを作ろう〈岩波ブックレット〉』(岩波書店)がある。
*ホームページ http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/home/index.php 

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