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イノセンスしか見てない。

映画はそんなに詳しくない。量を見れない。既存の映像作品を見始めると、大抵途中で止まる。しんどいから。

たまたま見終われた映像を、リピートしがち。松屋しか美味いものを知らないから、松屋にしか行かないのと同じである。慣れたもので済ませがちなのである。

俺が大学生時代、たまたま攻殻機動隊を見る機会があった。先輩が攻殻機動隊厨で、その人の話についていこうとして見たのである。俺はそんなにアニメに詳しくない。オタクじゃない。だけど、何か知らないものがあれば、それを知らなきゃと思うのだ。なら、ワンピース早く読めや俺、どんだけ面倒くさがってんだ。

話が逸れる。とにかく、攻殻機動隊を見た時期があったのだ。アライズまだ見れてないが、とりあえずゴーストインザシェル、テレビアニメシリーズ、最近出たネットフリックスオリジナルのやつを見た。どれも、1回見たきりだ。だが、ひとつだけ、数十回見返しているものがある。

それが、イノセンス。

なんでやねん。

イノセンスは、攻殻機動隊の主要キャラクター・草薙素子の失踪後の話である。ガイノイド(少女型アンドロイド)による連続殺人事件が起こり、それをバトー&トグサが捜査する内容。最終的には、素子がインストールされたガイノイドがバトーにヒントを与えたり、助けたりして、事件の真相が分かる。
そして、この作品に通底しているテーマは「人と人形」。
序盤に登場するアンドロイド分解おばさん、ミス・ハラウェイ。ハラウェイは、人形と人間の境界があまりに曖昧であること、完璧に近い人形を作ることが人間の古来からの夢であることなどを語る。以下のようにも言うのだ。

子育ては人造人間を作るという人間古来の夢を手っ取り早く実現する方法だったとは言えないかしら。

人間臭さ故に親近感を感じさせるキャラクター・トグサは、ハラウェイの発言に対し反論する。

子供は、人形じゃない!

バトーだって、そう思っているはずだ。しかし、ここでデカルトを引用したバトーは、まるでハラウェイの主張を補完するかのように振る舞う。

後半にはハッカーのむかつくハゲも、ゴタゴタ言う。
彼の言っていたのは要するに、人形と人間が何ら変わらず、むしろ人形の方が存在的に優れているという発言だ。違うかもな。ごめんな。
精巧にできた人形は、我々に不思議な不気味さを感じさせる。それは「わからないから」ではなく「わかりやすいから」である。人形は人間を模して作られているが、その実は計算可能性の塊である。信号と部品によって論理的に組み上げられた人形。そんな人形が、我々人間と似て来れば来るほど、我々は恐怖を覚える。

その恐怖は、我々人間が、機械と変わらない、単純な部品の集合体に過ぎないのではないかと言う恐怖。人形が恐ろしいのではない。人形とさほど変わらないのではないかという、人間それ自体の単純さに対する恐怖。
我々自身の、かけがえのなさが、幻想に過ぎないという恐怖。

ここまでの文脈があって、攻殻機動隊に受け継がれる、あの台詞が胸を熱くさせる。

「ささやくのよ/さ、私/俺のghostが」
我々が自我、自分、意思(ghost)のささやきに耳を傾けている限りにおいて、我々は「かけがえのなさ」をなんとか防衛することができる。

この作品には、頻繁に引用が出てくる。
引用があまりに多く、それだけで台詞が構成されているんじゃないかと思うくらいだ。

疲れている時の俺なら、この引用部分だけ聞いて、頭良くなった気分になって寝る。

「孤独に歩め。悪をなさず、求めるところは少なく。林の中の象のように。」

イノセンスにしばしば出てくる、ブッダの言葉である。宮沢賢治みたいなこと言うね。
この一節から伝わってくる泰然自若チックな香りを、香水がわりにして日々を生きていく糧にすることもある。

マジで疲れてる時は、
「18世紀の人間機械論は再び蘇る」という言葉に期待をよせたりする。
蘇ってくれ、管理してくれ、ドラッグ・ゲーミフィケーション・メタバース・機械化&メンテナンスで成立する、美しい純正機械文明になってくれ。
もう、予測不可能性に溢れた人生はたくさんだって具合にね。

生まれたこと自体が苦しみ。
その苦しみの総量と幸せの量を比較すれば、
生まれること自体なくなっていい。
反出生主義は、苦しみと幸福を計算可能という前提から無意識に出発している。


身体・感情どちらも、機械と計算という近代精神に明け渡す。人形として、皆が生きる世界。そして、感情を持つ限りにおいて、人形としてすら存在したくない。そう皆が叫ぶ世界。感情なき、白銀の自動社会ができあがる。それを見て、美しいとアイロニカルに笑うことすら、誰もしなくなる。みんな「しずかにわらつている」。

完全な機械世界の誘惑に負けず、日々自分の人生を必死に生きている。自分のしたいことをして、自分のつけたい能力をつけて、綺麗だなと思う人との、幸福な未来を夢見る。苦しみがいくつあっても、それは幸せに至るまでの、美味しい苦味であると楽しめ。

そう、ささやいてるのか、俺のゴーストは?

俺、がんばれているか?

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