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『君が見たのは誰の夢? Whose Dream Did You See?』/森博嗣 の感想

『君が見たのは誰の夢? Whose Dream Did You See?』/森博嗣

の感想である。

Introduction

本作は、ミステリ小説家の森博嗣によるSF連作、WWシリーズの7作目である。
前身となるWシリーズも含めると17作目となり、だいぶ大規模になってきた(真賀田四季をハブとする森博嗣ワールドの一部でもあるので今さらな気もするが)。

本シリーズの舞台は現代から二百年ほど先の未来社会。ウォーカロンと呼ばれる人造人間と、人工細胞により半ば不死となった人類、そして電子世界に生きる人工知能たちが共存しようともがいている。
その過程で摩擦や衝突が発生し、社会・個人の両レベルで変化が起き、新しいものが生まれては消える。そんな過渡期の物語。

メインキャラクターは楽器職人を仮の姿とする研究者のグアトと、日本の情報局なる組織のエージェント(半分引退ぎみ)のロジの2人。
グアトとロジは夫婦のような関係で、Wシリーズでのすったもんだを経て、いまはドイツで隠居している。ようなそうでもないような。

以下あらすじ

ドイツで受けた精密検査でロジに不具合が見つかった。詳しく調べるため、グアトと共に日本へ帰国。情報局本部に近い病院へ入院した。そのロジの診断データが、外部に漏洩しているという。
ロジは、まったく未知の新種ウィルスに感染している可能性があり、何者かがその情報を探っていると思われた。ロジを心配して病院へ向かうグアトは、そこでロジの姉と称する女性と出会うが。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000374504

なつかしの少女マンガ風味

濃厚接触……………

にわか知識だから間違ってるかもしれませんが、森博嗣はマンガを描いていた人らしい。特に少女マンガ、というか萩尾望都に思い入れがあるようで、たとえば萩尾望都のギムナジウムものとして名高い『トーマの心臓』のノベライズをしたりしている。
理系ミステリなどと呼ばれたS&Mシリーズも、「これはちょっと古めの少女マンガである」という感覚で読めば、もうするすると流れるように読める。

ゆえに森博嗣のラブコメっぽいものは全部少女マンガでしょ、と雑に思っているのだが、本作はそんな感じの描写がふんだんに盛り込まれていたので余はたいへん満足である。

登場人物たちは年齢の束縛をほとんど受けていないので、恋愛や結婚生活においてどのように振舞うのかあまり予想できない。
グアトとロジは若い新婚カップルなのだろうか、それとも熟年夫婦なのだろうか?
いや、そういった枠組みを当てはめることをこのシリーズの社会は要求しないのだろう。技術の発展に引きずられて気が付けばそういう社会になっていました、という印象を感じる。

そして個人主義の高まりも感じる。グアトはロジの親族を知らないし、出会う以前に何をしていたのかも知らない。積極的に知りたいとも思ってないようだ。これは逆もまたしかり。
(しかしロジは情報局の人間なのでグアトのそういった情報に触れたことはありそうだ。単に気にしていないのかもしれない)
そういった関係性を想像すると寂しさや不安定感、「根付いていない」感覚を覚えちゃうのですが、こういったものは本質的でないということなのか?

しかしそれでも今回、ロジの「姉」が登場する。この人物はなんですか? S&Mシリーズの西之園萌絵の叔母か? 懐かしい過去が返ってきてるのか?

もはや欠点はない。ではいずこへ?

今作で現在の人類の抱えていた大きな問題の一つが、ほとんど解決されたといっても過言ではない。これで人類はまた一歩「神」に近づいたのだろう。
ここでいう「神」はグアトの友人のヴォッシュという科学者が言っていたもので、おそらく「子供から大人へ」といった人間の成長の先にある超人、というような意味合いだと思う。演算能力では人工知能にまったく勝てないので全知全能ということではすくなくともないはず。

これは時間さえかければ人類はどんな問題でも解決できる、という楽観主義の一種なのだろう。
実際に人間の寿命が延びて大人になってからの時間が長くなると「大人の次は何になればいいんだ?」ということになるのかもしれない。老人になったり死んだりできないので。
そうなると、お話のなかの英雄や神を人間の進歩の先の理想像に置くことにもなろう。そういうレトリックとしての「神」へと、本シリーズの人類はなりつつある。

さて、今回解決の兆しを見せた問題は本シリーズの主題の一つだった。それが解消されつつある今、次に向かうべき問題はいったい何か?

まずはウォーカロン。
第一作が『彼女は一人で歩くのか?』であるからにはウォーカロンの扱いを決着させてほしい。けれどこれはもう決まっているようなもので、いずれ人間と区別できなくなるということなのだと思う。人工知能やトランスファも同じく。もしかしたら何かもう一捻りあるかもしれない。

次がマガタシキ、共通思考あたりですが、これは落着しなくても、まあ、という感じではある。ちゃんとやると百年シリーズのような幻想的な描写になりそうな気もするし……。
しかしこれがあることで、ロジとマガタシキ(共通思考)の間でゆれるグアト、という構図ができるわけですよね。萌絵と四季の間の犀川と同型で感慨深い。

個人的に気がかりなのが、サエバ・ミチル、ロイディ、クジ・アキラあたり。特にクジ・アキラの情報がもうちょっとほしい。俺、なんだかクジ・アキラのこと好きになってきちゃったよ……いっつも死んでるから、アイツ……。

Conclusion

とりあえず、続けられるだけ続けてほしい。
あとなんかうまいことアニメ化とかして、ヒットしたりしてくれ。
アクションもロマンスもあるしいいと思うのだが。

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