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顔がグチャグチャな話【禍話リライト】

子供会の行事で、近所の子供たちを集めて、少し離れたところにある青少年自然の家で2泊3日のキャンプをするというイベントがあった。
Aさんは、小学校中学年の時に、このキャンプに参加することになった。

その行きの道中でのことだ。
親の運転するバンに子どもたちが乗って、青少年自然の家へと向かう。
その道すがら、なぜだかわからないが、車中で怪談話が始まったのだそうだ。
内容そのものはほとんど覚えていないのだが、ある1人の女の子が、かなり怖い話をしたという記憶がある。
それに触発されてか、その話が終わった後、「俺も怖い話あるぜ!」と言って、二学年上のガキ大将のBくんが怪談を話し始めた。

ところが、このBくんの語った怪談というのが、全く要領得ない。

Bくんは絶望的に話下手だったのだ。

体験者の性別は多分男性らしいが、大人なのか子供なのかはわからない。
その怖い話の起きた場所も、たぶん林のなかなんだろうな…と推測するほかない。
話の展開も何がどうなったか、一切わからないのだが、最後は、顔がぐちゃぐちゃになった男が出てきてウギャア!と叫ぶような、そういう話だった。
そのため、Bくんが話終わった後も、車中はしらけた空気が漂ってしまった。
どうしたらいいかわからず皆でまばらに拍手をしたが、Bくん自身も勢い込んで話し始めたはいいが、結局自分の話が失敗していることに気づいて、しまいにはすっかりふさぎ込んでしまった。
このように、非常に微妙なムードのまま、子ども会の青少年自然の家でのイベントは、幕を開けたのだそうだ。


もっとも、いざ青少年自然の家に着いてみれば、いろいろな行事が目白押しで、そのどれもが楽しく、Aさんは心の底から楽しんでいた。
しかしBくんのほうはと言うと、行きの車中での失敗を引きずっているのか、目的地に着いてからもテンションが上がらないようだった。
Bくんは、いつも元気いっぱいで、みんなを引きずっていくようなタイプなのにもかかわらず、ふさぎ込みがちで、声をかけられてもあまりしゃべらないような状況で、周りの皆も少し腫れものに触るような扱いしかできなかった。


2日目の日中のこと。
子どもたち全員が参加するオリエンテーリング大会が開催されることになっていた。
その青少年自然の家の近くの様々なチェックポイントを回るもので、AさんはBくんとペアになった。
Aさんは、それが決まった時、正直に言って嫌だなぁと思ったという。
何せBくんは、二日目になったにもかかわらず、相変わらず口数も少なくテンションが低かったからだ。
それでもくじ引きで決まったものは仕方がない。
AさんはBくんとともに、オリエンテーリングに出発した。

その自然の家は、山中にあることもあって、林道やら何やらを歩いて目的地へ向かうことになる。

開始してしばらくたった時のこと。
とある場所で、Bくんが突然、「こっちだ!こっち!」と言って、薮の中のけもの道を進み始めた。
地図で示された目的地とは明らかに違う。
「え、そっちじゃないよ」、Aさんがそう異議を唱えると、「いやいや、こっちなんだって!俺、知ってるんだから」とBくん。
「こっちって、目的地から離れちゃうじゃん」と文句を言うが、Bくんは変わらずAさんの手を引いて、けもの道を住んでいく。

「いや、だからさぁ、こっちなんだよ」
「こっちって、何がさ?」
「だからぁ、昨日俺が話したろ。あれの場所だよ!」
「昨日の…?ああ、あの顔がぐちゃぐちゃの?!」

思わずAさんがそう言うと、Bくんは、「そうそう、その顔がぐちゃぐちゃの話。あの舞台ここなんだよ」と言う。

「そうなんだ!それが本当なら、昨日の話のめっちゃ怖い話じゃん」

これから行く自然の家が舞台の怪談なんて、考えただけでも恐ろしい。

何で昨日そう言わなかったんだろう?
本人は言ったつもりですっ飛ばしちゃってたのかな…

などと考えるうち、Aさんは急に怖くなってきた。
Bくんは「この話は俺も先輩から聞いて、すげー怖かったんだよ」などとしゃべり続けている。

え、まじなの?
じゃあこの先に、顔がぐちゃぐちゃの男が現れる現場があるってこと?
怖すぎる。

そう思ったAさんは、「ちょっと、やめてよ!ならなおさら行きたくないよ!そんな顔ぐちゃぐちゃの男、見たくないよ!」と言った。
しかしBくんは半ば興奮状態で、「いや、もう少しなんだからさぁ。一緒に行こうよ!」と言って、Aさんの腕を引っ張り続ける。
「いやだって!」渾身の力を込めて、Aさんは引っ張られていた腕を振り解いた。
その時だ。
ずっと道の向こうを向きながら、Aさんの腕を引っ張り続けていたBくんが、くるりとこちらを振り向いて、こう言った。

「あー、もうじゃあいいよ!戻るよ!!」


そう言ったBくんの顔は、中心が渦巻き状になり、目、鼻、口といった顔の様々なパーツが、円を描くように歪んで引き延ばされていた。


Aさんはそれを見たとたん、叫び声をあげ、もと来たけもの道をかけ戻った。
Bくんもすぐ後ろから、「おい、ちょっと待てよ!何だってんだよ!!なんで逃げんだよ!」と言いながら追いかけてくる。
しかしAさんは恐ろしくて、振り向くとことができずそのまま猛スピードで駆け下りていった。

なんとか下の遊歩道のところまで戻ってみると、ちょうどそこに別のグループ2人組と鉢合わせた。
「ちょっと、どうしたの??」2人組に声をかけられ、荒い息を吐きながらAさんは、「Bくんの顔がぐちゃぐちゃだ!」とだけ、2人に伝えた。
ちょうどそのタイミングで、けもの道からBくんが飛び出してくる。
思わず全員でその顔を凝視したが、Bくんの顔はいつもの通りに戻っていた。


その後、みんなのいる場所に戻ったAさんとBくんは、この話をみんなに語って聞かせた。
前日は、要領を得ない話を聞いてしらけていた皆も、この話にはひどく怖がって、キャーキャー言っていたのだそうだ。
その様子を見て、Bくんはだいぶ満足したらしく、すっかり上機嫌になって、そこからまた再びいつもの元気なガキ大将のBくんに戻ったのだそうだ。

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この記事は、「猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス」、「燈魂百物語 第四夜②」の怪談をリライトしたものです。原作は以下のリンク先をご参照ください。

燈魂百物語 第四夜② 
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/346634722
(3:50頃〜)

※本記事に関して、本リライトの著者は一切の二次創作著作者としての著作権を放棄します。従いましていかなる形態での三次利用の際も、当リライトの著者への連絡や記事へのリンクなどは必要ありません。この記事中の怪談の著作権の一切はツイキャス「禍話」ならびに語り手の「かぁなっき」様に帰属しておりますので、使用にあたっては必ず「禍話簡易まとめwiki」等でルールをご確認ください。

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