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霧雨と苦い過去

久しぶりの雨。

朝、傘をさして旦那さんと散歩する。

サラサラと細かい雨が風に煽られる。


「霧雨って結構濡れるんだよね」

そんな台詞があった。

私がまだ若い頃に客演した芝居。

今でも何が悪かったのかわからない。

それまで、自分の劇団も含めてそこまで個人で集中的にダメ出しをされたことはなかった。

自分で考えて役作りをして稽古に臨む。

気の強い、キャリアウーマンの役だった。

私が台詞を一言しゃべると演出家に手を叩いて止められる。

「そうじゃない。そこはこういう風に」

少し前からやり直す。

言われたように少し言い方や動きを変えてみる。

パン!

また手を叩いて止められる。

「だから!そうじゃなくて!」

私が出ているシーンばかり時間が掛かる。

他の役者にも申し訳なくて稽古の後で謝る。

その繰り返し。

私が考えた役作りは根本から否定された。

混乱する。

稽古に行くのが苦痛で仕方なかった。

それでも客演だったので、ここで私がやめたらうちの劇団の看板背負って行っているからやめられない。

もうそれだけだった。

私は自分で考えて役作りをするのをやめた。

心を空っぽにして、演出家に言われた通りにただただ演じた。

早く本番が終わればいい。

そう思った芝居は初めてだった。

その芝居がようやく千秋楽を迎えた。

打ち上げに私は参加しなかった。


大丈夫。

随分遠くまできた。

もう霧雨は私を苦しめたりしない。

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