山卸を廃止したら飲み手は嬉しいのかという話
相変わらず在宅ワークの日々が続いています。
運動不足なのが否めないので、最近はラジオ体操を行うようにしています。第一は慣れているのですが、第二は難しい！いくつかのパートがまるで覚えられないし、リズムもつかみづらい。
継続はきっと力なり、と信じてしばらく練習したいと思います。
お酒のご紹介です。
田酒（でんしゅ）
青森市にあります西田酒造店。創業は明治11年。
現杜氏の安達香氏は同じ青森県内で「六根」「松緑」を醸す松緑酒造から移籍された経歴の持ち主で、平成30酒造年度から杜氏を務めていらっしゃいます。
飲んでみましょう。
上立ち香はほんのりマスカット。
口に含むと、舌の上にふわっと旨みが広がり、舌先にピリッとガスが感じられます。
果実味のある含み香とほんのり高級アルコール。中間から酸もしっかり出てきますが、甘みもあるのでジューシィなバランス。
後口は酸と苦み。いきなり甘みが消えてなくなります。栗のような香りを少しおいて、余韻は比較的短めです。
正直、かなり驚きました。
なぜなら数年前に飲んだ田酒 山廃特純の記憶とまるで結びつかない酒質だからです。
こちらの商品、2年前から一回火入れに変わったそうですが（それまでは二回火入れ）、それだけが原因とはとても思えません。
ただ、田酒のハイクラスの商品は全体的に果実味のある吟醸香のお酒が多いため、そちらにシフトしたのかなと思いました。
いずれにせよ、昔からのファンには賛否両論ありそうな仕上がりです。
裏ラベルを記載しておきます。
特別純米酒
山廃仕込
アルコール分：16度
原材料名：米（国産）米麹（国産米）
精米歩合：55％
製造年月：2020.01
購入は大阪のかどや酒店。カ・ド・ヤ・に・決めた！
（……にしてもかどやさんで買いすぎやな）
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日本酒にはいくつか日本酒関連でしか使わない用語があります。いわば日本酒専門用語ですね。しかし、個人的にはそのほとんどがひどいネーミングセンスだと思っています。
今回ご紹介のお酒は山廃仕込と肩ラベルに記載されています。
山廃（やまはい）とは生酛（きもと）造りにおける酛摺りの作業（山卸＝重労働）を省いた酒造法で、「山卸廃止」を略して山廃と呼ばれます。
そもそも、「何かを廃止したもの」という名付け方は、そのベース（山廃の場合は生酛）に対する認知が広く浸透しており、かつ忌まれているという土台あってのものです。
ですが単に字面だけ見ると、山廃より生酛のほうが美味そうなんです。
こちらの記事にも書きましたが、生というワードに日本人は強く惹かれるため、生酛は日本酒専門用語の中では数少ない魅力的な単語です。
「生酛造り」って書いてあったら、その意味を知らなくても、なんか美味そう！って思うのではないでしょうか。
その生酛に対して、「生酛のデメリットである山卸を廃止した」という改良版（？）に名付けるなら、「山卸廃止酛」では完全に力負け。
商品に与える魅力は基本的に加算方式なのです。「〇〇増量」とか「〇〇プラスでうまさ倍増」とかは魅力的ですが、「〇〇廃止！」は美味そうじゃないのです。
もともとは明治政府の先導で広島県の国立醸造試験所が明治42年に開発した山卸廃止酛ですが、その翌年である明治43年、同じく国立醸造試験所で速醸酛が考案されています。
この速醸という単語も（山廃に比べればいくぶんマシですが）首をかしげざるを得ない。
「速く醸す」と名付けられた速醸という単語。
飲み手には何の魅力も与えません。
「山卸廃止酛」も「速醸酛」も、造り手からの目線で名付けられたのでしょう。どちらもその単語が示すアピールポイントは、造り手に訴求するものだからです。
ですが飲み手にとっては「山卸を省ける山廃」も「速く醸せる速醸」も、いわばコストを落とすことに成功した名称であって、商品そのものの魅力を高めることには成功していない。
だいたいさ、山廃。普通に読めば「さんぱい」です。「産廃」です。
「やまはい」なんて訓読みと音読みがごっちゃになった言葉で、まず馴染みません。
山廃にせよ速醸にせよ、生酛とは明らかに異なる味わいになるのです。
明治の技術革新の最中でならまだしも、開発されてから100年以上も経った今、飲み手にアピールするために肩ラベルに入れる単語としては適当ではないでしょう。もっと他にあるでしょ？って思っちゃいます。
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今回いただいた田酒の山廃特純。
これ、山廃仕込みだとはまるで気づけない酒質です。
私個人としてはとても美味しいお酒でしたが、少しの残念さもありますね。
上の論調とは矛盾するかもしれませんが、山廃には山廃の良さがあるんですよね。
これぞ山廃！というお酒も、残っていってほしいなとは思います。
いただいたサポートは、モチベーションの維持および酒購入費に充てさせていただきます!!