日本酒の夏酒の問題点
一気に気温が上がった感じがしています。
夏は目前。ただその前に、風景の色がくっきりする美しい梅雨が来ます。
雨が多いのは鬱陶しいですが、雨のある景色は好きなんです。
お酒のご紹介です。
文佳人(ぶんかじん)
高知県香美市にありますアリサワ酒造。
創業は1877年。現在は五代目当主である有澤浩輔氏が杜氏を務めていらっしゃいますが、若女将のほうが有名かもしれません。
今回のお酒はラベルのかわいらしさが目を引く商品。
飲んでみましょう。
上立ち香はしっとりしたバナナのような香り。
口に含むと、舌先にピリッとした炭酸ガスと甘みが感じられ、舌の上にじんわりと広がった矢先、サイドから果実味のある酸が出てきます。
中間はチリチリしたガスとともにボリュームのある旨みがしっかりと。青リンゴを思わせる含み香が、果実味しっかりで爽やかです。
酸を置いてキュッと締める後口は比較的長めの余韻。
ラベル情報を記載しておきます。
純米吟醸 夏純吟
原料米:米(国産)・米麹(国産米)
精米歩合:50%
アルコール分:16.5度
製造年月:2.5.
価格は1.8Lで3,080円。
購入ははせがわ酒店です。
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日本酒には夏酒というジャンルがあります。
いつから始まったのか調べていませんが、私が日本酒を飲み始めたころにはすでにあったので、歴史自体はそこそこ長いのではないかなと思います。
いわゆる夏酒に共通する特徴、それが「清涼感」です。
例えば透明瓶や青瓶を使用して爽やかさを演出したり、炭酸ガスを注入してすっきりと飲めるように調整したりされています。
もちろんそういう売り方は素晴らしいと思いますが、個人的には夏酒には問題点も感じています。
その問題点とは、大きく分けて二つ。
一つ目は、出荷時期です。
夏酒が出荷され始めるのは、例年4月~6月ごろ。
世間は春真っ盛りです。
夏酒に限らないことですが、日本酒は旬の酒を売るタイミングが全部早い。
花見向けの酒と言って2月に出荷、夏酒と謳って4月に出荷、秋上がりと言って9月(早ければ8月ということも)に出荷。
そしていざ花見の時期に買おうとしても花見酒は売ってない。
夏真っ盛りのときには夏酒は売り切れ。
秋上がり(ひやおろし)だけはずっと残ってたりしますが……(これはまた別の理由があると思っています)
それならばと売り切れる前に春に出荷された夏酒を買って、夏に飲もうと夏まで自宅保管する。
そうなると、抜栓時にはおそらく酒蔵が狙った味とは違ったものが出来上がってきます。
酒蔵や酒販店の事情もきっとあるのでしょうが、飲み手としてはせっかく購入した季語の入ったお酒は、その旬に飲みたい、と思っているはず。
その時季に酒屋に行けばちゃんと手に入るよう、出荷時期を調整してほしいんです。
そしてもう一つの問題点ですが、味のコンセプトが日本酒に向いてないことが多い点です。
日本酒は基本的に冬に醸造されます。
夏に飲むということは、半年ほど熟成されてから出荷されるということです。
日本酒は熟成が進むと甘みや旨みが乗り、熟成香も出て艶のある味わいになりますが、夏酒にはそれに逆行したような味を目指したものが多い。
傾向としては旨みを減らし甘みを減らし、香りも抑える。
その結果、いわゆる「水っぽい」お酒が多くなります。
また熟成香は薄まると甘い香りが消えて渋い香りだけが残りがちなので、「味が薄くて香りが渋い」お酒が出来上がってくる。
味が薄いせいか、気温変化にも弱い気がします。
夏に飲もうとしても、気温変化に耐えられないお酒が多い気がするんです。
個人的には、こういうお酒は美味しいとは思えないんですよね。
最初に夏酒の特徴として清涼感がある、と書きました。
しかし、日本酒が味わいの面で清涼感を追究したところで、他の清涼感のイメージのあるお酒(ビール、サワー、ハイボール)には敵わないと思います。
清涼感が欲しいときに日本酒を飲もう、とはならないんです。
気温が一気に上昇する夏に、日本酒を飲んでもらうこと。
その夏酒の存在意義には大いに賛同しますが、いざ飲んでみると期待外れの商品が多いように思います。
つまり、これぞ夏の定番!として飲んでもらえるようになるには、まだまだ伸びしろのあるカテゴリだと思います。
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夏酒について思うところを書きました。
間違っている部分、賛同できない部分もあると思いますが、あくまでいち酒飲みの個人的な主張ということで、ご容赦いただければと思います。
またすべての夏酒が問題点を抱えているわけでもありません。あくまでそういう傾向があるよね、ということで。
たとえば今回の主張に当てはまらないのが今回ご紹介の文佳人・夏純吟。
前述したような夏酒っぽい味のぼやけは感じず、しっかりと安定した酒質ながら夏に飲みたいと思わせる風貌。
5月出荷と時季としては早いのと、人気の季節商品のため毎年あっという間に売り切れてしまいますが、もし運よく見かけることがあれば、ぜひ飲んでみてください。
「暗がりで光るよ!」と、ラベルに施された仕掛けも楽しいですよ。
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