マーケティングは下品である。

前置き

最初に注意書きをしておくと、マーケティングは本来、製品開発から販促までの一連のプロセスを担当するものである。このnoteはマーケティングの販促の部分に注目をして書いたものなので、全てのプロセスに当てはまるとは限らない。しかし、「広める」という行為だけ見れば、まさに「人を人として見ていたら出来ない下品な仕事」だと私は考える。

本文

とある大学で開かれたマーケティング講座で飛び出した「生娘を薬漬け状態にするようなもの」という言葉が世間を騒がせた。

確かに酷い発言だ。しかし、「マーケティング」という文脈で見た時に、この言葉は必ずしも間違っているのだろうか？

話は変わるが、皆さんは就職活動でグループディスカッション、又はインターンシップに参加した事はあるだろうか？

大抵、テーマは売上向上施策だとか、新規事業の立案だ。就活あるあるとしては、まず前提の擦り合わせをして、次に意見を出して評価をして…といった流れで進めていくだろう。

皆さんは、意識していないかもしれないが、話の中で「こうすれば、人はこう動く」と無意識に断定して喋っていないだろうか。

例えば、「SNSを使えば若者に認知される」などは典型的な例といえよう。実際にそれが間違っている訳ではなく、こう動けばこうなるというのは実際にある程度、「見て聞いて」出した結論だと思うので特に反論は挟まない。

もう少し攻めた話をしてみよう。

甘いものを地面に落とすと、蟻がワッと集まる現象を見たことはあるだろうか？もし人間も同じ現象を起こすと言ったら、あなたは怒るだろうか？

もう一度、就職活動で例を挙げる。

就職活動では「WEBテスト解答集」なるものが存在する。この解答集とやらを使うとWEBテストが対策できるらしいが、誰が作ったのかも定かではないし、解答が合っている保証もない。

とある就活生が巷でよく使われているエクセルに解答がずらっと載っている画像を使いながら「WEBテスト解答集あげます！」とツイートした。
ちなみに画像の隅には「解答集を使うやつは馬鹿」と書いてあった。

この情報だけ出すと、まさかとは思うかもしれないが、それでもツイートは拡散されて「欲しい！」という声がずらっと並んだのだ。

ツイートを見た瞬間に、もう欲しいという気持ちが先行して手が動いたのだろう。

他にも、Twitterを見ていればリテラシーがある人が歯痒くなるような事例が枚挙にいとまがない。

現実世界でも、こういった現象はよく起きている。例えば携帯電話の宣伝内容と実際のプラン内容があまりにも違い、それでも高齢者の方が分からないまま契約をしてしまうので社会問題になったり。

よく読めば分かるものや、比較検討すればそれが良いとは必ずしも思わないようなものも、見た瞬間に即決してしまう人がいる。

広める側は、そうした現象が起こる事をある種確信犯的に狙っているのだろう。

はっきり言うが、「広める」という行為は下品だと思っている。

同時に、その下品さを理解していなければ、何かを宣伝する事なんて出来やしないとも思う。

過去の事例や研究から、人間がどういう認知のもとに行動して、どういう条件で購買に至るのかデータを元に販促を行う。行動経済学を利用して、こういう状態になると人は興奮するとか、逆にこの状態で買わないと損した気持ちになるとか、そういった心理を突いてくる。

どんなに綺麗な言葉で言い換えようと、認知をハックして依存させるという本質は決して変わらないだろう。

マーケティングだけではなく、広告も同じだ。ルッキズムバリバリで、綺麗な俳優を使って高級感を出してみたり、ジャンクなWEB広告はニキビや肥満を利用してクリック数を稼いだり。

これってやっぱり下品だよね。下品だけど、それが続けられているという事は、本質的には間違っていないという事だよね。

もし、このnoteだけで判断出来ないなら書籍を読むと良い。『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』とか『影響力の武器』とか『予想通りに不合理』とか。人の認知がいくらでもハックできるし、依存状態にも出来ることは多くの書籍で述べられている。

ところで、私は何故くどくどとこのような文章を書いているのだろうか。

確かに現代社会では一発NGな言動だという事は認識している。しかし、その思考こそが、講師がマーケティングにおいて伝えたかった重要なエッセンスである事もまた理解している。

言葉だけを批判すれば思考を認める事になるし、言葉も思考も批判すればマーケティングそのものへの批判にもなる。

マーケティングへの批判は多いに結構だし、どんどんするべきだとも思う。

ただ、あいつの思考回路はけしからんが、マーケティングは良いものだという詭弁は通用しない。

良いものも悪いものも広めて売りつけるという事は多くの企業がやっている事だろう。そのために人の認知を利用している事も事実だ。

私たちはそういった行動に操作されたり、逆に誰かを操作している事がある。

もっと自覚的になるべきだ。