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「ステージゲート法」とは?──新規事業における開発プロセスのマネジメントを解説

「ステージゲート法」とは新規事業開発などにおいて、アイデア創出から市場投入までをマネジメントするフレームワークの一つです。

ステージゲート法の全体像

ステージゲート法では、開発プロセスを複数の「ステージ」に分割し、次のステージに進むにあたり、一定の要件がクリアできているかを評価する「ゲート」を設置します。最終的に、ゲートを通過した製品を市場へと投入するのです。

下図はアイデアから市場投入までを全6ステージに分解した例です。

ロバート・G・クーパー著、浪江一公訳「ステージゲート法 製造業のためのイノベーション・マネジメント」をもとに制作

ステージゲート法の特徴

ステージゲート法の特徴は次の3つです。

1.継続的な市場との対話

ステージゲートを導入すると、各ステージではさまざまな視点で顧客や市場への調査、価値検証をすることが前提となります。つまり、プロセス全体を通じて、継続的に市場からのフィードバックや評価を得ながら開発を進められるのです。これにより、新規事業の不確実性を低減することができます。

2.フロントローディング

多くの企業では、R&D(研究開発)領域で確立した技術を、事業として市場投入するためにビジネスモデルを検討します。しかしステージゲート法では、「仮説」段階から事業性を評価し、事業化に向けた計画を作ります。

これは研究開発担当者の抵抗を生みやすい一方で、事業性の観点を重視しながら段階的な開発、技術の確立が可能になるのです。

3.社内外の知を集める

ステージごとに評価領域を変えることで、さまざまな専門家や知見を持つ人材を巻き込みながら開発や事業評価を進めることができます。革新的なアイデアや技術に対して複合的に評価できるのもステージゲート法の特徴の一つです。

参考:参考:浪江 一公「イノベーションを生む研究開発マネジメントとは ~ステージゲートプロセスを活用して~」

ステージゲートの段階制を進める際のポイント

北米の製造業では、7割以上が取り入れているとされるステージゲート法ですが、日本国内における導入事例は大手企業を中心に数100社程度にとどまっています。

ステージゲートを取り入れる際のポイントは次の4つです。

1.ステージごとの段階的投資

初期のステージでは大きな投資はせず、少額の予算で活動することが重要です。ステージを進むにつれて投資額を増やすことで、リスクマネジメントしながら事業化を進めることができます。

2.アイデアの多産多死をいとわない

初期のアイデア創出段階では、アイデアの不確実性が高く、洗練されていないために、それが成功する事業となるかどうかの評価は困難です。そうした玉石混交のアイデアも、ステージゲートのプロセスに投入して一定の事業検討を行うことで、そのアイデアが持つポテンシャルの予測確度が高まります。ですから“多産多死”をいとわないようにしましょう。

3.評価の段階的精緻化

初期段階のゲートでは、評価するための情報が十分ではないこともあるでしょう。ですから初期は抽象的、定性的な評価で判断します。ステージが進むにつれてアイデアの検証や調査も進むため、評価の基準を段階的に、具体的、定量的なものにしていきましょう。

4.迷ったら前に進める

1で指摘した通り、初期のステージで投入する経営資源は小規模に抑えなければなりません。これはリスクマネジメントにも効果的ですが、それに加え、「迷ったら承認」が実行しやす苦なる、という利点もあるのです。

参考:浪江 一公「イノベーションを生む研究開発マネジメントとは ~ステージゲートプロセスを活用して~」

ステージゲートの流れ──各ステージ、ゲートでの検証例

新規事業開発においてステージゲート法を導入した場合の、各ステージの具体的な検証例です。

内平直志「研究開発プロジェクトマネジメントの知識継承」をもとに制作、編集

また、各ゲート通過のための判断基準の一例がこちら。


内平直志「研究開発プロジェクトマネジメントの知識継承」をもとに制作、編集

ステージゲート法の課題

ステージゲート法を運用するためには、以下のポイントに注意が必要です。

1.評価指標が曖昧になりやすい

ステージゲート法の運用には適切な評価指標を設定しなければいけません。そのためには、新規事業開発に対する正しい理解、自社の成長戦略や事業ポートフォリオの把握、人事的視点によるヒューマンマネジメントなどの観点が不可欠です。

定量的、定性的な評価の組み合わせ、ステージごとの評価指標の切り替えが必要となるため、指標が曖昧になりやすい点に注意しましょう。

2.ウォーターフォール型の色合いが強くなる

ステージゲートのプロセスでは、臨機応変な変化や前の工程に戻って再検討を行うなどの対応がしにくくなります。また段階的な検討やウォーターフォール型の開発(開発工程を1つずつ進める手法で、後戻りしにくい)を厳密に管理しようとすると、開発進捗の遅延を招き、他社との開発競争に遅れをとりかねません。

3.飛躍したアイデアが初期でふるい落とされやすい

多人数での評価や、あくまでも既存の指標での評価となるため、非連続的なソリューションや、まだ市場が立ち上がっていない飛躍したアイデアは初期にふるい落とされやすくなります。

参考:内平直志「研究開発プロジェクトマネジメントの知識継承」

新規事業における「ステージゲート法」の導入──10ステージに分解した「高解像度新規事業開発プロセス」

GOB Incubation Partners(GOB)でも、プロジェクトを進める上で、ステージゲート的な考え方を取り入れて開発プロセスをマネジメントしています。

前段で紹介した通り、新規事業開発でステージゲートを機能させるためには、あらかじめ開発に必要なプロセスや要件を明らかにする必要がありますが、GOBでは、それを「高解像度新規事業開発プロセス」として10のステージと34のステップに分解しました。

高解像度新規事業開発プロセスについてはこちらの記事で詳しく解説しています。合わせて参照ください。

ステージゲート的なアプローチを取り入れた、GOBのプロジェクト(一部)

・新機能・新サービス提案制度「METEO(メテオ)」(×リクルートコミュニケーションズ)

リクルートコミュニケーションズの新機能・新サービス提案制度「METEO」の企画・運営を実施。「史上最低の参加ハードル」をコンセプトに、提案に挑戦しやすい仕組みを開発した。2017年度GOOD DESIGN賞を受賞。

・社内新規事業提案制度「HOT BIZ」(×凸版印刷)

凸版印刷の社内新規事業提案制度「HOT BIZ」の運営をサポート。社内講演やアイデアワークショップを重ね、アイデアの創出・ブラッシュアップを支援した。

本記事の内容はスライドでもまとめています。閲覧、ダウンロードはこちら>