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研究者向け人材募集ポータルサイト「tayo.jp」は、“ポスドク問題”をどう解くか:tayo・熊谷洋平

調査によると、日本における大学院の博士課程への進学率は過去数十年で減少傾向にあります。これは世界の潮流とは逆を行く動きです(出典:学校基本統計(文部科学省)、科学技術・学術政策研究所)。

背景には「ポスドク問題」とも言われる、博士号取得後(Post Doctor)のキャリアや収入の不安定さが存在します。こうした大学院のイメージを一新しようと、研究者のキャリアパスを支援するプラットフォーム「tayo.jp」を運営しているのが株式会社tayo(タヨウ)代表取締役の熊谷洋平(くまがい・ようへい)さんです。

立ち上げの背景にあるアカデミア領域の社会課題と、サービス開発の裏側を聞きました。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

研究人材向け、人材募集のポータルサイト「tayo.jp」

tayo.jp

熊谷洋平:「tayo.jp」は、大学院への進学希望者や研究者のための人材募集のポータルサイトです。大学院の研究室をはじめとした研究機関が学生を募集したり、研究職を採用したい民間企業による求人募集を掲載したりしています。

こうした研究人材向けのポータルサイトを立ち上げたのは、この領域ならではの課題を感じていたからです。

その1つが大学院への進学に関する情報が分散していることにあります。大学へ進学する場合、多くの人はその大学のウェブサイトを見て進学に必要な情報を集めたと思います。しかし大学院への進学では、そう簡単にはいきません。

大学や大学院はそれぞれのウェブサイトを持っていますが、その下には研究科や専攻のサイトも存在します。さらには一番小さな単位として、全国に数万以上ある研究室が独自でサイトを開設しており、場合によっては研究室が大学付属の研究所に所属していることもあります。それぞれの場所に情報が分散しているため、受験案内や説明会、奨学金の情報、研究室の特徴など、本当に欲しい情報にたどり着くまでにかなりの時間と労力がかかってしまうのです。

tayo.jpでは、これら必要な情報を1つの場所で閲覧できるようにすることで、学生の困りごとを解決しました。

タイトルやサムネイルなど、ユニークで目を引く募集も多い

同様に、研究機関による人材採用でも情報へのアクセスのしにくさが課題になっています。中途採用の募集の多くが、エージェントを介したマッチングを利用しており、オープンになっている求人情報が少ないのです。

これまで求人情報がクローズドだったのは、研究機関の金銭的な事情が主な理由でした。求人広告ポータルサイトなどで、民間企業の採用情報を誰でも無料で閲覧できるのは、掲載企業が掲載料などの形でポータルサイトを運営する求人広告会社にお金を払っているためです。研究機関の場合、その掲載料を捻出するのが難しかったため、クローズドにならざるを得なかったのです。

そこでtayo.jpでは、研究職の人材を採用したい民間企業からの掲載料でマネタイズすることで、研究機関は無料で利用できるようにしています。

ポスドク問題に代表されるように、キャリアの先行きが見えず、閉塞感を抱える研究者も数多くいます。これまでのクローズドな求人のやりとりは、キャリアの不透明さを助長している側面があるようにも思います。

本来、研究者たちの世界はすごくオープンです。研究者たちは、人類の叡智のために、研究結果を論文として世界に公表しますし、大学のサイトを見れば、教授の連絡先だって載っています。今はアカデミアと一般社会との間に壁ができてしまっていますが、私たちがその間に立って、アカデミアの本来の魅力をもっと伝えていきたいですね。

tayoが運営しているオウンドメディア「tayo magazine」でも、アカデミアの面白さを発信している。記事では、科学的なテーマを身近な切り口から紹介している。

tayo経由で50人が応募、国立大学を中心に出稿が進む

サービスのローンチから2年ほどが経ちました。学生からは想定よりも多くの応募があり、すでに大学院への進学希望者50人以上がtayo.jp経由で大学院へ研究室の見学などを申し込んでています。この領域における情報へのアクセスのしにくさが、明確な困りごとであったことを裏付ける結果だと感じています。

一方で、研究室による募集の掲載数は想定を下回る数でした。tayoでは現在まで70以上の大学が170の募集を掲載していますが、博士学生が多いトップ層の国立大学に偏っています。大学院生を積極的に募集したい研究室や先生がそこまで多くはないのだと実感させられる結果となりました。

前向きに捉えれば、教育や研究に対するモチベーションが高い研究室の募集を掲載できているとも言えます。今後は「tayoに載っている研究室は信用できる」といった認知を広げることを戦略の1つとして考えています。その結果、多くの学生がtayoのファンになり、その人たちが採用側になったときにまたtayoを活用してくれるような循環を生み出すのが理想です。

「若手研究者の飲み会が暗すぎる」——アカデミア領域の“ペイン”を解決したい

tayo創業の背景には、私自身のアカデミックなバックボーンが大いに関係しています。

東京大学大気海洋研究所で環境学の博士号を取得した後、博士新卒でデジタルマーケティング領域での課題を解決するフリークアウト・ホールディングスで1年間データサイエンティストとして働きました。その後、海洋研究開発機構(JAMSTEC)で研究に従事しながら、tayoを創業しました。

前職のフリークアウトは起業文化のある会社で、社内でよく言われていたのが「ペインから始めよ」という言葉です。 つまり顧客のペイン(苦痛)を起点に事業を作れということですが、アカデミア業界はまさにペインだらけでした。

それを象徴するのが、若手研究者の飲み会です。もう雰囲気が暗すぎる! これにはやはり、キャリアの不透明性が大きく関係しているのではないかと考えています。。

若手研究者は、平均的には民間企業でも高い価値を発揮できる方が多いと思います。私のように一度企業に入ってからアカデミアに戻ってもいいし、大学院にいながら企業と共同研究をしてもいい。tayoのサービスを通じて、優秀な研究者たちが、多様なキャリアパスを描ける未来をつくっていきたいと思います。

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