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夢のはなし 第二夜『スライス・オブ・ライフ』

わたしはバレー部の「居るだけ」部員である。
必ず部活に在籍しなければいけない学校のルールがあったので、なんとなくバレー部に所属だけはしているが、運動神経も悪い方だし、頭で考えてすぐ体を動かすことなんてどう考えてもできない。今までもこれからもこんな感じだから上手くなるとかはきっとできないし、考えてもいない。
部員は少なく競争率などほぼないのだが、いつも大会選抜から外れて、しかし悔しがることも絶望することもなく、ぼーっと「居ること」を続けていた。それも心の奥底の、所属しているからにはその場にいなくてはいけないという良く分からない生真面目さから来るものであり、特にバレー部に対するこだわりや愛着は持ち合わせてはいなかった。

ある新学期に、新しく別の学年の担任に赴任したと集会で紹介されていた、おそらく30代前半くらいだろうという見た目の男性教師にバレー部顧問が変わった。
短髪で、頑固な、信念を曲げるのがなにより嫌いとでも言いそうな感じの見た目と話し方をする教師である。

部員と関係性ができる前から厳しい言動と練習ばかりを指導してくる、運動部顧問を絵に描いたようなそのお堅い新顧問は、学生にはとっつきにくくて、すぐにわかりやすく嫌われ始めた。
その様子は、新しい環境で頑張りすぎて空回りしているように見えて、私はそんな雰囲気が透けて見えるような不器用そうな大人の存在はなんとなくありだと思う質なので邪険にしようという気はあまり起こらなかった。
良くも悪くも人に関心があって、同時に関心のない私はそれなりに新顧問ともつかず離れず嫌わずといった感じでうまくやっていたと思う。

ある日私は、部活の道具の運搬のために学校の使われていない車を車庫から出しに行くと新顧問が言うのでそれを手伝うことになった。

つづく

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