夢のはなし第三夜『捜索依頼』③

▽1話目はこちら


SNSで依頼主へ赤ちゃんが見つけられなかったことを報告すると、見つからなければそれで結構。という感じであっけなく依頼達成となってしまった。
ただし、この依頼は口外しないこと・これ以上詮索しないこととのことだった。

不思議な依頼だったなあとか、見つかるまでほかの場所も探さなくてよかったのかなあとかもやもやした考えがよぎったが、詮索しないでほしいとのことなのでもうこれ以上は考えなくてもいいし、考えない方が良いと思うようにした。

依頼も達成し展示も十分満喫したので、友人とバスに乗りこんで夕食を食べるため移動することにした。
席を確保し、やけに携帯電話の通知が来るなあと思い画面を開こうとすると、ついに充電が切れてしまった。
なんだか今日は忙しくて家を出るときに充電が少なかったことを忘れていた。がっかりだ。

携帯もなく、ぼーっと静かな車内を眺めながらバスが目的地に到着するのを待っていると、急に左斜め前の席に座っていたおばさんが鋭い口調で前の席の男の人にこそこそと話しかける様子が目についた。
ふと目をやると、そのおばさんが私の受けたのとは違う赤ちゃんの写真だがよく似た依頼のチラシを持っているのが見えた。
友人も気づいたのか、驚いた様子で私の腕にそっと触れてきた。

なぜ同じような依頼のチラシを持っているのか。
なぜ違う赤ちゃんの捜索依頼が同じ日に出ているのか。偶然なのか?

おばさんは、男の人の持っている本格的なカメラを指さし「見せて頂戴。」と怒ったような口調で言う。声はひそめているが、静かな車内なので丸聞こえだ。
男の人は戸惑いながらも写真を見せようとしてカメラを差し出すと、おばさんはそのカメラをひったくって自分の席に深く腰掛けなおし、必死になって何かを探し始めた。

きっと一緒の依頼だと思った。
さっきの私と一緒で赤ちゃんを探していて、おばさんは写真を手掛かりにと思ったのだろう。

ただでさえ不思議な依頼だったのに別でも同じような依頼がされているのか。なんだか怖くなって、友人と私はその光景から目をそらして、バスの外の景色を静かに見送っていた。

おわり

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