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やはり父には敵わないなあと思った話

家族について書くということはなんらかの羞恥心をちくちく刺されるような不思議な居心地の悪さのあるものである。

けれど、今日は少し私の父について書いてみたい。

世のお父さんたちの様子をひと家庭ひと家庭ドアを開けてじっくり観察してきたわけではないけれど、私の父は少し、いやかなり、一般の50代男性とは、ずれたところがあると思う。

・料理が好き
・掃除が好き
・お酒が大好きで、晩酌の後に突然すっくと立ちあがってものすごい勢いで家事をはじめる

そんな父のことを、母はときたまこんな風に表現する。

「外では場を盛り上げるためにいつも明るくふるまっているのに、家では寡黙。本当のことを誰も知らないのよ。」

私は父に似て、外の様子と家の様子が全く違うらしい。心当たりがないことはないし、それは私にとって後ろ指をさされているようでありながらそこまで不快に響くわけでもない。


そんな父と私は最近ローテーションで夕食作りを担当している。

父はいつも通り週末の食卓を。私はリモートワークで大変そうな母に代わって平日の食卓を。大学の授業がオンライン実施になったのをいいことに、我が家の台所も食費もフル活用していままで食べてみたかったものを作っては食べている。

トマトピューレを使ったハッシュドビーフだとか、

デパ地下に売ってそうなカラフルなサラダだとか、

じっくり煮込んだビーフシチューだとか。

おいしいものを自分で作って食べるという、日常のちょっと特別でささやかな幸せを謳歌しているのだ。


しかし、たまには面倒になってしまう日もある。

そんな日はカレーを作る。

簡単で、おいしくて、ほっとする、定番のポークカレー。
セロリをスライスしてレタスをちぎってミニトマトをのせて、簡単なサラダも添える。

なんてこともない、ふつうの夕食だ。安心はするけど、安心する以上に得られるものがなにかあるかと言われれば見当たらない。


そんな"妥協"のカレーの翌朝。

いい匂いに誘われて起きだすと、父が朝食の支度をしていた。

「スープ、どうかな」

「なあに」

そこにはコンソメスープの素を溶かした片手鍋に細切りの玉ねぎ、輪切りにしたソーセージ、昨日使い残したセロリの葉っぱ。

衝撃。

ここにカレーを入れるというのか!想像しただけでもなんとも美味しそうなスープ。

父は淡々とこしらえていく。

隣の鍋から昨日の残ったカレーを2すくい。

味見のひとくちに思わず「おいしい」と我ながら直球な感想。横顔を思わず覗き込む。やさしい目と手つきの満足げな笑みが、マグにスープを注いでいく。

あたりまえの”安心”が、朝の10分でちょっとした”特別”に。
大げさだけど、魔法がかかったかのように。


私は父に似ているらしい。

それでも、やはり父には敵わない。

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