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テープカッターで生を実感した

テープカッター。セロハンテープホルダーの先っぽについているギザギザの刃物。

ふとデスクに置いてあるそれに、右中指の関節部分をぶつけてしまった。

卓上に置いてあっても刃物は刃物。呆気なく私の皮膚には0.3mm程度の傷が付き、時差でぷっくりと血が出た。

指がじんじんと脈打つ感覚から、自分が怪我をしたことを実感する。


怪我とはいえ小さな小さな傷だ。出血量も痛みも大したことない。

だが私はいわれもない恐怖に駆られた。

テープカッターが怖いのでは無い。

ただこんな日用品に軽くぶつけただけで皮膚が抉られ、血を流す人間に脆弱さに恐怖したのだ。


思えば人間の脆弱性は幼い頃からわかっていたはずだ。

友達とかけっこをしていて転べば脚を擦りむき血が出ていたし、机の中に乱雑に入れていたホチキスに誤って手を挟んでぷっくりとした出血が2つ並んでいたこともある。

しかしいつしか大人になるにつれて私達は、その小さなリスクを避けるようになっていた。

友達とかけっこもしなければ、危険物の取り扱いは慎重に、怪我をしないように気をつけた。

安全に過ごすあまり怪我をすることは稀になり、人間の脆弱性を実感する機会も減った。


だからだろうか。テープカッターでついたこの小さな傷が大きな驚異に見えてしまう。

こんなにか弱い人間の肌なんて包丁をつき刺せば呆気なく貫通し、銃弾を打ち込めば風穴が空く。

その時は人間は簡単に死んでしまうことだろう。

またここまで大層な事件が起こらなくても、ちょっとした作業でミスをすれば指を失うくらいはいつでも起こりかねないのだ。

生態系の頂点に立ち、法律によって危険を排除しているため死を実感する機会が少ないだけで、人間は弱くすぐに血を流す生き物なのだ。


傷口から垂れる少量の血液とともに、私の額からは冷や汗が流れた。

バクバクとなにかに怯えて忙しなく動く心臓で、私は生きているのだと実感した。

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