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全体最適③ TOCにおける全体最適

こんにちは、ゴール・システム・コンサルティングです。当社CCSO(チーフ・カスタマーサクセス・オフィサー)渡辺薫による連載をお届けします。今回は全体最適についての考察の3回目です。最終回となる今回は、これまでの2回でお伝えしてきた前提に基づき、TOCにおける全体最適とはどういうことを指しているのかを考察していきます。

TOC(制約理論)や、教育のためのTOC(TOCfE)を学んだり活用している方や、「全体最適」という言葉をよく使う方の参考になれば幸いです!

渡辺薫のこれまでのコラムは、以下のマガジンからご覧いただけます。

全体最適と個別最適

ここまで、ザ・ゴールにおける最適化の「環境」「目的」「範囲」「選択肢」について整理してきました。この整理をもとにすると、全体最適と個別最適を明確に区別できるようになります。
まずは、TOC以前(アレックスが取組を始める前の状態)で記述します。

全体最適③

クッキー生産システムでは以下の2種類の全体最適と個別最適に組合せが存在します。

● 生産サブシステムを個別最適の単位とする
全体最適:クッキー生産システムで「業績を向上する」
個別最適:サブシステム(焼成サブシステム等)ごとに「財務会計上の利益を向上する」

● 製品を個別最適の範囲とする

全体最適:クッキー生産システムで「業績を向上する」
個別最適:商品シリーズごとに「財務会計上の利益を向上する」

また、この図からわかるように、全体最適&個別最適という関係は階層構造を持ちます。
「クッキー原料板生産サブシステム」が独立した工場を有していると考えると、「クッキー原料板工場生産サブシステム」で「業績を向上する」ことが全体最適であり、「原料混錬サブサブシステム」や「原料延板サブサブシステム」で「財務会計上の利益を向上する」ことが個別最適ということになります。

また、このクッキー会社が、3つの工場(北海道工場、関東工場、九州工場)を持っており、それぞれの工場がクッキー生産システムを有している状況を想定すると、
全体最適:クッキー会社で「業績を向上する」
個別最適:工場の生産システムで「財務会計上の利益を向上する」
と考えることもできます。

ここまでの整理で分かるように「全体最適」を考える際には、どの範囲(レイヤーもしくはレベルと呼んでも良いかもしれません)を全体とみなすか、という設定も重要になります。また、繰り返しになりますが、ザ・ゴールにおいては最適化するための範囲は「生産マネジメント」であり、選択肢は「生産計画・実行管理」「製造リソースの追加」「製品ポートフォリオの変更」です。

全体最適の実現

TOCの手法の根拠となる、客観的法則性(再現性が検証された因果関係)の一つが全体最適と個別最適に関する以下の記述です。こうしたTOCが準拠している客観的法則性は、TOCではInsightもしくはTheorem と呼ばれることが多いようです。(「再現性が検証された因果関係」とはなにかについては、別の機会に解説したいと思います。)
本稿ではSanjeev Guptaの表現に準拠してTheoremという用語を採用します。

Theorem 1:
以下の特徴を有する生産システムの場合、
・リソース(生産のためのヒト・モノ・カネ)が有限である
・複数のサブシステムから構成されており、サブシステム間に順序性・依存関係がある
・需要およびリソースのキャパシティ・稼働状況に変動性やバラつきがある

●個別最適の範囲を生産サブシステムとする場合
個別最適(それぞれのサブシステムにおいて、財務会計上の利益を向上する)の積み重ねが、全体最適(生産システム全体で業績を向上する)を実現するとは限らない。
(これは自然科学の領域における客観的法則性に該当すると思います)

●個別最適の範囲を製品とする場合
個別最適(製品ごとに、財務会計上の利益を向上する)の積み重ねが、全体最適(生産システム全体で業績を向上する)を実現するとは限らない。

これが、TOCが最も重視している客観的法則性です。
TOC以前は、「生産システム全体の業績を向上するためには、(全体を一元的に管理することは難しいから)サブシステム単位もしくは製品単位に分解し、それぞれに財務会計上の利益を管理する(財務会計上の利益を向上する取組を行う)マネジメントを行う」ことが主流でした。

TOCは、その従来のマネジメント手法は「客観的法則」に反するので、十分な成果を上げることはできないと主張したのです。

そして、TOCでは、このTheorem 1の環境において全体最適(生産システム全体で業績を向上する)を実現するための二つの手法(技術)を開発しました。「スループット会計」と「5 Focusing Steps」です。この手法について『(技術)』と表記した背景については、「TOCは理論か」の回で説明した通りです。

なお、最適化の目標に関しては、上述のような「●●の向上」という表現と「●●を最大化する」という2種類の表現が可能です。前者の場合「従来」と「最適化後」の利●●を比較することで目的を達成できたかどうかが判断できますが、後者を採用すると「最適化によって実現した●●が、この生産システムにとって本当に最大の値なのか」という非常に困難な問いに答える必要が出てきます。学者にとっては、この問いも重要かもしれませんが、実務家にとっては「●●を向上する」するという工夫を積み重ねる継続的改善の方が自然な姿と思われますので、本稿では目的の表現として「●●の向上」を採用することとします。

次回以降で、「スループット会計」と「5 Focusing Steps」と「スループット会計」について説明していきます。

以下の2つは、TOCが(すなわちゴールドラット博士が)世界で初めて発見したわけではありません。
ゴールドラット博士自身も「巨人の肩に乗った」のです。

✔  個別最適(それぞれのサブシステムにおいて、財務会計上の利益を向上する)の積み重ねが、全体最適(生産システム全体で業績を向上する)を実現するとは限らない。

✔ 個別最適(製品ごとに、財務会計上の利益を向上する)の積み重ねが、全体最適(生産システム全体で業績を向上する)を実現するとは限らない。

製造業では、以前から多くの経営者がこの事実に着目し、全体最適を目指したマネジメントを実行してきましたが、個別の会社での取組にとどまっているものがほとんどであったと思います。TOC(ゴールドラット博士)の業績は1984年という時期に、この原理に基づく「『ジョブショップ型ディスクリート製造業』で広範に適用可能な、実践的な『全体最適のための生産マネジメント手法』」を体系化し、段階的に適用範囲を拡大していったことにあると、私は思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
渡辺薫の次のコラムでは、TOCで意識されることが多い5種類の全体最適について、さらに書き進めて行きます。どうぞお楽しみに!

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