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全体最適②『ザ・ゴール』における最適とは?

こんにちは、ゴール・システム・コンサルティングです。当社CCSO(チーフ・カスタマーサクセス・オフィサー)渡辺薫による連載をお届けします。今回は全体最適についての考察の2回目です。前回では、「最適」かどうか判断するためには「環境」「目的」「範囲」「選択肢」をセットにする必要があるということを見て行きました。今回は、この考え方を『ザ・ゴール』に当てはめて、さらに考察を進めていきます。

TOC(制約理論)や、教育のためのTOC(TOCfE)を学んだり活用している方や、「全体最適」という言葉をよく使う方の参考になれば幸いです!

渡辺薫のこれまでのコラムは、以下のマガジンからご覧いただけます。

ザ・ゴールにおける最適化(サマリー)

まず、ザ・ゴールに書かれているユニコ社の最適化を上記の4項目で整理してみましょう。

1,環境(シチュエーション)
ユニコ社という機械メーカー。ジョブショップ方式の組み立て型工場である。
2,目的
お金を稼ぎつづけること
3,範囲
生産マネジメント
4,選択肢(オプション)
生産スケジューリングおよび生産リソース(キャパシティ)の追加

ということになります。

ザ・ゴールにおける最適化の構造的な整理

ザ・ゴールは小説ですので、読者がイメージしやすいよう、TOCの考え方を「個別的かつ具体的な一連のストーリー(構文的な記述)」として説明しています。ザ・ゴールで語られた最適化のストーリーを構造的に記述すると以下のようになります。
*「構文的な記述」と「構造的な記述」については、いつか改めて書きたいと思っています。

1,環境

以下の特徴を有する生産システムである。

・リソース(生産のためのヒト・モノ・カネ)が有限である
・複数のサブシステムから構成されており、サブシステム間に順序性・依存関係がある
・需要およびリソースのキャパシティ・稼働状況に変動性やバラつきがある

ここで生産システムというのは「コンピュータシステム」のことではなく、「生産活動を通じて価値を生み出すしくみ」のことです。複数のサブシステムから構成されており、サブシステム間に順序性、依存関係があるというのが、どういう状態かをクッキー工場を例に図示してみましょう。
ここでは、クッキーの製造工程が以下の4工程で構成されるとしています。

1)小麦粉、砂糖、ミルク、バター等を混ぜ合わせた生地をつくる
2)上記の生地を板状にする
3)板から型抜きしてクッキーの形状にする
4)焼成する

クッキー生産システム

個別最適と全体最適を考えるうえでは、対象がこの図のように階層構造(サブシステム構造)を持っていることを認識することが重要です。階層構造(サブシステム構造)が記述できないということは「そのシステムを個別要素に分解できない」ということなので、個別最適を考えることはできない、という意味です。

また、この例における生産システムでA、B、C、D、Eの5つのシリーズのクッキーを生産していると想定します。この場合、Aシリーズ、Bシリーズ等の製品を「個別最適」の範囲とする、という考え方もあります。
クッキー工場においては、それぞれの製品シリーズがバリエーションを有していることも十分に考えられるので、製品も階層構造を有していると認識しておきましょう。


2,目的

ザ・ゴールにおいて企業の目的は、「お金を稼ぎ続けること」とされています。実際にお金を稼いだかどうかについて、財務会計の世界では「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」の3種類の成績表(業績指標)によって評価されます。

そして、目的の評価方法については以下のように考えることが一般的です。

✔ 会社全体(もしくは工場全体)が目的を達成したかを評価する際には「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」の3つの指標全体で評価する。

✔  生産システムの中の「サブシステム」もしくは「商品(Aシリーズ等)」が目的を達成したかに関しては「財務会計上の利益(損益計算書と同じ方法で計算)」で評価する。

「サブシステム」「商品」の評価の際に「財務会計上の利益」を使うことが一般的になっている理由は、「サブシステム」「商品」単位で、貸借対照表およびキャッシュフロー計算書を(財務会計のルールで)作成することが非常に難しい(現実的には不可能)からです。

3,範囲

範囲は生産マネジメントです。
生産マネジメントとは、製品の量産のための仕組みです。製造販売する製品を変える、新製品を投入する、製品の製造レシピを変更する、というようなことは範囲に含まれません。生産マネジメントは「リソースマネジメント」「S&OP(製販計画)」「生産計画・実行管理」「品質マネジメント」等から構成される複合的な仕事です。


4,選択肢(オプション)

TOCの生産マネジメントにおける選択肢は、以下の三つです。

1)「生産計画・実行管理」
2)「リソースマネジメント」のうち、製造リソース(キャパシティ)の追加
3)「S&OP(製販計画)」のうち、プロダクトポートフォリオの変更

実際の工場においては、業績向上のために、この選択肢以外に(生産マネジメントの範囲においても)「品質管理」「加工リソースのメンテナンス」「人材のスキル向上」等、多くの工夫や改善が行われています。また生産マネジメントの範囲を超える様々な改善活動も継続しています。しかしながらTOC(少なくとも、ザ・ゴールで説明されている範囲)においては、こうした工夫や改善は対象とされておりませんので、十分な注意が必要です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
今回行った『ザ・ゴール』における最適化の「環境」「目的」「範囲」「選択肢」についての整理をもとにして、次回はいよいよ「全体最適」と「個別最適」について考えていきます。どうぞお楽しみに!

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