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三脚とランバ・ラル

三脚。3本の足を持つ台である。
ここでは、カメラ用の三脚の話をする。

大学に入学する際に、事前に配付された資料でも、入学式の日のガイダンスでも、「三脚を必ず用意するように」と念を押された。
スクーリングにも持参するように。貸し出しはしない、と。

正直なところ、これまで写真を撮っていて、三脚が必要になったことがなかった。
ずっと手持ちで撮ってきた。
現在の相棒は、OM  SYSTEMS(旧オリンパス)のOM-1。レンズは12-100mm。7段以上の強力な手ぶれ補正機能を備えている。7段がどれくらい凄いかというと、3年前、開発者がインタビューで「これ以上は地球の自転が影響する」という意味のことを述べているくらいである。

だから、三脚の必要性が、ピンとこなかった。
それでも、買えと言われたから、某社のトレッキング用のカーボン三脚をネット通販で購入した。2万円台。軽さ重視の選択だった。

最初の課題は、その三脚で、何とかクリアした。
だが、使っているうちに、違和感を覚えた。
三脚が安定しない。強い風が吹くと、揺れる。カメラの操作をしようとちょっと触れただけで揺れる。
こういうものなのだろうか? それとも、もしかして、選択をミスったか?
雲台を別のものに交換すればあるいは、と思って、やってみた。さほどの違いは見られなかった。

次の課題は、同じ構図で、絞りやシャッタースピードを、いろいろ変えて撮りなさい、という内容である。
「三脚必須」とある。
……この三脚では無理かもしれない。
そう思っているうちに、スクーリングの日が来た。

スクーリングのテーマは、画角を変えずに複数枚の写真を撮ること。
先生によると、わたしの写真は、「画角が動いている」とのことだった。
他の学生たちの写真は、画角が動いていないのが、素人目にも分かった。

……長く感じたスクーリングがようやく終わった。
大学前のバス停には、スクーリングを終えた学生たちの長蛇の列ができていた。
急ぐことはない。1台か2台やりすごそうと、列には並ばず、ベンチに腰を下ろした。

脳内で、ファーストガンダムの、ランバ・ラルの声が響いた。

「自分の力で勝ったのではないぞ。
そのモビルスーツ(=ガンダム)の性能のおかげだということを忘れるな」

アムロ・レイの乗るガンダムに敗れて、爆発するグフから脱出する時の捨て台詞だ。

アムロは最初は反発する。でも、後で冷静になって考えてみると、確かにそのとおりなのだ。
アムロは16歳。軍人としての教育は受けていない。何ヶ月か前、ジオン公国軍の攻撃のどさくさに紛れてガンダムに乗りこんで、そのままパイロットを務めている。
それにひきかえランバ・ラルは30代。ジオン公国がモビルスーツを開発した際にテスト・パイロットを務めた……などという経歴はアムロは知らないだろう。でも、軍人としての技量も、人間としての器も、ランバ・ラルの方が上であることを思い知る。

OM-1がガンダム並みかどうかについては異論もあろう。
でも、OM-1でしか写真が撮れないのでは困る。大学で写真を学ぶというのは、きっとそういうことなのだろう。
そう、理解した。

帰宅して、PCを開いた。
新しい三脚を購入するためである。

何ヶ月か前に最初の三脚を購入した時と、基準はさほど変わっていない。
中型のトラベル三脚。公共交通機関で移動するので、大型では運べない。
カーボン製。アルミ製のもあるけれど、カーボンの方がやや軽い。
耐荷重は一番重要な数字。といっても、測定方法や表示方法には業界での統一基準がないらしい。OM-1と12-100mmは合わせて1kg強。ミラーレスとしては大型であろうか。
欲を言えば雲台はアルカスイス互換。

翌々日、注文した三脚が届いた。
バンガード社の「VEO 3T 265HCBP」である。
重さは1.91kg。耐荷重12kg。これくらいあれば大丈夫だろう。

さっそく、植物園にかついでいった。
……カメラが動かない。しっかり止まる。
これなら課題もクリアできそう。あとはわたしが三脚の扱いに慣れるだけだ。

夜、その日撮った写真を見直してみて、花しょうぶ園に行かなかったことに気づいた。
花菖蒲は今が見ごろのはず。撮らないと。

翌日、三脚をかついで、再び植物園に行った。
花しょうぶ園に直行する。よさそうな場所を見つけて、三脚をセットする。
……最後に、カメラを設置しようとして、ようやく気づいた。
クイックシューがない。どこかに落としたらしい。

ちゃんちゃん♪

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