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【経営とビジネスのヒント】自己資本比率と食塩水

財務規律の中で、自己資本比率は安全性と言う観点から見ると1番優先順位が低いと言うことを述べました。

ただ、財務規律の中で自己資本比率ほど攻めと守りのバランサーとして機能する指標はありません。


自己資本比率を食塩水で例えてみる

皆さんは小学生時代に食塩水の問題を解いたことがあると思います。これは企業経営における自己資本比率の考え方と全く同じであるといえます。

自己資本比率を食塩水に例えたときには、自己資本は塩です。そして借入金等の負債は水です。つまり全体の水の中における食塩水の濃度のことが自己資本比率であると言えるのです。

自己資本比率が薄まるときはどうなのかと考えると以下の2つのパターンがあります。

①、自己資本(塩)が減少する時。
自己資本が減少すると言う事はどういうことかと言うと、利益がマイナスになることによって利益剰余金が減少するような場合。または年間で生み出した利益以上の配当をすることによって自己資本がマイナスになるような場合。
このような場合には、純粋に食塩量自体が減少するため自己資本比率が減少することになります。

②、債務・借入(水)が増加する時。
また自己資本比率が減少するもう一つの状況としては、債務・借入(水)が増える場合です。これは使用は一切増えずに水だけが増える場合のことを指します。当然ながら塩の量が変わらずに水の量が増えれば濃度が下がります。具体的に言えば借入金をする場合です。何かの事業投資をする場合において借入金が増えるとそれは自己資本比率の低下を意味するのです。


自己資本比率を投資判断の際に活用してみる

では、投資判断の際に自己資本比率を活用する考え方を具体的に見ていきましょう。

前提として、現預金の額及び流動比率は財務規律における最低限度の水準であるとしましょう。
この会社が、新たに事業投資を行う場面を考えます。そうするとその事業投資をする金額を手持ちの現金で支払う事は手元流動性比率の低下を意味するため難しいことになります。
そのため資金調達をして投資をする必要があるわけですが、借り入れによって投資をする場合においても、短期借入金での資金調達となると流動負債が増加するため事業投資に振り向けた瞬間に流動比率が下限を突破してしまいます。

つまりこの状態で求められる資金調達は、増資等による自己資本の増加によるものか、または長期借入金によるもの以外は考えられません。

長期借り入れによって資金調達をした場合に、当然食塩水の理論で言えば水だけが入ってくるため自己資本比率が下がります。


【例題】

仮に40%の自己資本比率があったとして、総資産が10億円だとしましょう。この会社が例えば5億円の投資をする場合には

・自己資本比率は何%になるでしょうか。

・その投資は実行しても大丈夫でしょうか、それともだめでしょうか。

まず、長期借入金で5億円を調達した場合の自己資本比率について回答すると、自己資本4億円÷総資産15億円= 26.6% となります。

次にその投資を実行しても大丈夫かどうかということについては、実はこの情報だけでは答えが出ません。何が必要かと言うと以下の2つの論点です。

①、その事業投資は5億円と言う投資額に見合う投資であるかどうか

②、5億円の投資をした後の自社の財務上の健全性は保てるかどうか

上記①については、俗に言う投資におけるバリュエーション(価値算定)の問題になります。企業価値算定をM&Aの際に行うことなどは、その投資額に対してその会社や内容が妥当かどうかと言うものを検証するためのものです。
一方でこれだけでは圧倒的に欠けている視点があるのです。

それがこの例題の財務規律の視点です。今回のこの例題における回答については自己資本比率についての下限をどのようにするかによって投資の可否判断が異なります。

仮に自己資本比率について、30%を下限とする安全性の基準を設けている場合には、この投資をするべきではないでしょう。一方でそれが25%であればこの資金調達と投資は実行可能ということになります。


まとめ

・財務規律の中で自己資本比率は経営の攻めと守りのバランサーとして機能する。

・投資判断は、投資対象の価値が価格に妥当かだけではなく、投資後の自社の財務健全性と合わせて判断する。

・短期的安全性(手元流動性比率、流動比率)を維持するからこそ、自己資本比率がバランサーとして機能する。自己資本比率だけで考えることのないように。

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