見出し画像

note感想🌟 共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」①



病院祭。


当日になってもスペシャルゲストは教えられず、開場時間になっても来ない。とても不安だ。誰かもわからない人物は、本当に来るのだろうか。


スペシャルゲスト。

三浦さんに内緒にされてる理由がこの後、明かされる……



作業療法の作品展示ブースでは、一際大きな油彩画が人目を引いていた。多くのスタッフや患者、家族がその作品を観て感嘆の息を漏らしていた。
 山本さんの、岩の絵だ。
 実物は物凄い迫力である。この世に生まれる苦しさ、悲しさ、不思議、美しさ。そのすべてが詰まっているような気がする。



岩に籠められた山本さんの魂。

岩の重さは、魂の重さ。

圧倒されるのは、そこに深い想いが宿っているから。



山本さんの家族から、佐々木さんを経由してこの作品を渡してもらい、初めてタイトルを知った。
「命とは」である。
 そのとき、気がついた。岩があって、その隅に雑草が生えているのではない。彼女はきっと、雑草の存在、生命を描くために岩を描いたのだ。



ねえ、この隅っこに小さな雑草があるでしょう。これが私なんだ


雑草のようにあるという山本さん。

山本さんの存在、生命を描くために、岩を描いた。

小さな雑草を岩は語ってくれている。



継ぎ接ぎだらけの絵。

その後ろにあった言葉。


「三浦先生と描いたデッサン。絶望の淵にいた私の一縷の光だった」


三浦さんとの時間は、山本さんの心を暗闇を照らす灯台のように照らしていた。




◇◇◇


吾を呼ぶ言葉拙き初湯かな


歳の初めの湯は、たどたどしく、つながりのぬくもりを教える。


石膏の貌に睛眸なき余寒


無表情で瞳もない無愛想な寒さの残りよ。


太陽の子等発光す夏の川


夏の眩しい太陽は、川に子を散らして遊ばせている。


あなたなる風まじりけり滝の中


滝の中にはあなたがいる。風とまじりながら。



父となり父と眺むる螢かな


私は父になった。父と共に螢を見ている。子どもだったときと同じように。


端居して句帖に空を挟み込む


  

涼しいところで空をはさんで詠んだ歌。

 

去る家の鍵に秋日の差しにけり


家に鍵をかけて出かけていく。家に残る人を気にかけながら。


川縁に子等のこゑ澄む玉兎かな


川沿いで、子どもたちが玉のような澄んだ兎の声を響かせるように遊んでいる。


行く秋や齢を競ふ巨樹と父


秋が過ぎゆく中で、自然に育つ巨大な樹と父親が年齢を競っているよ。



一枚の落葉に宿る天つ日よ


一枚の落葉にも太陽の光は分け隔てなく神秘を与える。



俳句の解釈はリートンを参考にしました↓


♢♢♢



絵の方は、山本さんの似顔絵はやはり飾ることができなかった。本人に確認できないこと、そして、彼女のために描いたものを、本人が見ていないのに展示することが僕にはできなかったのである。


三浦さんにとっても、山本さんとの大切な思い出なんですね。




「この絵、三浦さんでしょう? 見たら胸がいっぱいになっちゃって」

 ただ何となくスケッチした、男女二人組の映画俳優たちの姿だった。

「……これは俺じゃないよ」

「いや、他にモデルがいるのかもだけど、これは三浦さんだよ。対象を何となく書いているうちに、三浦さんの思い出が詰まっていったんだろうな、と思う」


紗良さんは、超能力者のように読み取ってしまうから。

なにも隠せない。


「なんか絵を見ていたら、守りたい人がいたけど守れなかった、っていう気持ちが伝わってきてね……。絵の中の彼女は微笑んでるけど、幸せな一瞬を切り取って胸に閉まった、そんな感じがする。……三浦さんにも幸せになってほしいし、三浦さんが幸せにしたかった彼女にも幸せでいてほしい、って心から思うよ。何度でも言うけど、注いだ愛は絶対に無駄じゃないからね。自信を持って、前に進んでね」


これは三浦さんの思い出だから。

振り返ってばかりじゃ、ダメなのかな。



突然現れた若い男性がギターを運び、セッティングを始めた。僕は、その使い古されたOvationのギターを知っている。
 なぜ、ここにあのギターがあるのだろう。あれは……まさか。いや、そんなはずはないだろう。
 僕の鼓動は高鳴った。手に汗を握る。少し震えていた。もう二度と会えないと思っていた。今の自分を見られたくないと思っていた。あの人だけには。


時計の針を進めるんだよ。

止まった時が動き出すように。



Seijiの歌。


刺々しくも繊細で儚い声。
 まるで愛しい人に会った帰り道、見上げた夜空に浮かぶ星の光のように。
 どこまでも柔らかなナイフのように。
 この胸を突き刺す歌。
 そこにいる皆が、彼の歌に吸い込まれ、心を奪われているようだった。


ナイフのように尖っているのに、優しい。

突き刺されても、にじむのは優しさ。

胸に迫るのは、壊れそうな美しさ。


「三浦さん、私もっと近くで観たい。連れてって」
 
 彼女は、喜びや興奮を隠せずに、笑みがこぼれている。車椅子を押して、ステージの近くに行く。Seijiさんを目の前した彼女の横顔が、あまりにも美しかった。


紗良さんの笑顔を見るためにがんばってきたんですよね。



「今日ここに来たのは、ある女の子から手紙をもらったことがきっかけだったんだ。『私の人生の終わりが近づく今、最期のお願いがあります』って。そんなこと言われちゃ断れないだろう? でさ、この病院にレンがいるって聞いてね。おい、ちょっと出てこいよ」


三浦さん、出番です。 



上野さん。
僕を見ていてほしい。
君に贈る歌があるんだ。

僕は、歩き始めた。


過去を乗り越えて。



ステージから、驚いたような様子でSeijiさんと僕を観ている人々が見える。
 その中に、上野さんを見つけた。
 泣いている。
 涙を流しながら喜んでいる。
 ああ、この姿が見たかった。
 
 上野さん。


やっと、三浦さんの歌を聞かせられたね。



そのとき………紗良さんが……





🌸この記事は仲川光さんの企画参加記事です🌸


#白い春


#創作大賞感想










よろしければサポートお願いします。いただいたサポートはnote活動費に使わせていただきます。