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食育

家にいる時間が増え、家庭菜園を始めてみようと思い、自分がよく食べるもので比較的簡単に育てられるものはと考えたときにパクチーが真っ先に出てきた。スーパーにはあんまりないし、安いものでもないので我ながらいいアイデアが出てきて、育てようと決心したが、一人暮らしのベランダは小さいし、洗濯物に臭いや虫がつくのはではないかと心配になってきた。そんなことを考え出すと買いたくなくなってしまい、何かを育てたいという気持ちだけがワンルームの部屋に漂った。そんな気持ちと同居し続けるのはどうも気分が悪い。代わりとしてプチトマトや唐辛子といったものが思いついたが、パクチー以上の心持ちにはどうしてもなれない。

いろいろ調べてみると、椎茸が家でも育てられるということだった。椎茸は好きだったし、安いものでもない、しかも今後の話題に使えそうだということで原木をネットで注文した。家に届き、いざ開けてみると生々しい原木が出てきた。お世辞にも好きになれるような見た目ではなかったが、せっかく買ったので育て方を見ると、室内で育てることができ、一日一回霧吹きで水をかけるだけでよく、三日くらいで収穫可能ということだった。

しかし、三日経っても収穫できるような育ち方ではなかった。毎日水もかけるし、換気もしている。自分の行動のどこが悪いのかと思い返した時に部屋でタバコを吸っていて、その副流煙が育ちに影響をしているのではないかと不安になり、ベランダでタバコを吸い、しかもその時は窓を閉めるようにした。つまり、自分の部屋を椎茸のための部屋にしたのだ。その甲斐があったのかはわからないが、朝起きると子ども椎茸が大人椎茸まで成長していた。こんなにも椎茸菌は活発に働くのかと、部屋のどこかに椎茸が生えているのではないかと心配になったが、もちろんそんなことはなかった。ようやく収穫できると、ハサミを持ち、切ろうとした瞬間、急に愛着が湧いてきた。この椎茸たちは痛みを感じてしまうのではないか、本当はもっと成長したいのではないかとハサミを動かす手が止まってしまう。それでも自分は食べるために育てていたし、この子たちもそうしてくれることが本望であるはずだと自分に鞭を打った。そして、大家族でも食べきれない量の椎茸が収穫でき、最初は美味しく食べていたが、それを使い切れるほどの椎茸のレパートリーもないし、これ以上食べてしまうと今の、そしてこれからのこの子たちを嫌いになってしまうとのではないかと怖くなった。干し椎茸にして消費期限を伸ばそうと思ったが、そうしたところで本当に自分は食べるのか、ただひたすらに寿命を延ばすだけになるのではないかと、ごめんなと呟きながらゴミ箱に捨てた。

自分が子供を作るのはもっと大人になってからの方がいいかもしれない。

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