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人はいつから大人になるのだろう

「ヘリに丸太を埋めたながい階段を、小さな女の子が母親に手をひかれてのぼってくるのがみえた。四歳くらいだろうか。ー 私もあんなふうだったのだ、と綾は思った。ー いまだって、あのころとさして変わりはないのに、誰もそうは思ってくれないのだ、と、思った。」(江國香織『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』より)


「どこからが大人で、どこまでが子どもなんだろう」

大人と子どもの境界線について、20回目の誕生日を迎えても、未だ答えが出せずにいる。

義務教育を終えたら大人。選挙権を得たら大人。20歳を迎えたら大人。働き始めたら大人。独り立ちしたら大人。
果たして、誰もが納得する答えを持っている人はいるのだろうか。

小学生の頃は、高学年のお兄さんお姉さんが。中学生、高校生になったばかりの頃は、学校の先輩たちが、とても大人に見えた。

先輩たちは皆、自分の知らない世界をなんでも知っているように見えて、自分もいつかそうなるのだと信じて疑わなかった。

でも、あの時大人に見えた中学生、高校生、どの学年になってみても自分は自分のままだった。周りも周りのままだった。

いつになればあの先輩たちのような大人になれるんだろう。そう思っているうちに、いつの間にか成人式を迎えていた。

大人として扱われる訳では無いのに
「もう君たちは子どもではありません」
背伸びすれば
「まだ子どもなんだから」
そう言われていた頃は、なんとも微妙な気持ちになっていた。
きっと言っている側の人たちも、微妙な立ち位置の私たちの扱いは難しかったのだと、今は思う。
大人でも子どもでも無い、あの頃は。



この間、気分転換に行ったことのない近所の美容院を予約した。
オーナーを含むスタイリストさんが3人と、1人のアシスタントさんで営業している小さなサロンだった。

忙しくしているスタイリストさんに指示をあおぎ、まだ動きがぎこちないアシスタントの方に洗髪していただいた。
洗髪が終わり、スタイリストさんに髪を切ってもらっている時に聞いた。

アシスタントの彼は、私と同い年らしい。

その時思った。

「あぁ、同い年の人達がもう社会に進出しているのも自然なのか」

まだ大学生の私には、まだまだ社会の輪郭はぼやけている。
視界の隅で、懸命に雑用をこなすアシスタントの彼の姿は、心做しか私よりもひと回り大人に見えた。

年齢としては、もう「成人」の部類に入っている。
これは世間一般でいう大人なのだと思う。
大人になれば喫煙も飲酒も認められて、できることと同時に、責任が一気に増える。

それでも私は、特にまだお酒の味が美味しいと思ったことは無いし、タバコを吸いたいと思うことも無い。

大人になっても、見た目はそこまで変わらないし。頭が良くなっているわけでもない。
中身が急に大人になるわけでもない。

年齢に置いてけぼりにされている気分だ。

それでも、皆一生懸命胸を張って年齢を追いかけて、大人になろうとするんだと思う。
そうしていくうちに大人という生き物になっていくのだ。

慣れない環境でも、知らない人たちの中でも。
自分の足で立って、地面を踏みしめて生きていけるように。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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