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より少なく。機嫌よく。

冷蔵庫の中の常備菜であるとか、あるいはまたスティーブ・ジョブズの黒いタートルネックであるとか、身の回りのすべてについて、自分にとってのコレ!という定番がある生活は好ましい。そういった暮らしにあこがれる。


言うまでもなく、あこがれるということはつまり現実にはそんな暮らしとは程遠いということである。


だが、なにもミニマルな暮らしをめざそうというわけではない。タイパがどうとか言うつもりもない。


ただ、より少ないもので機嫌よく過ごしたいだけなのだ。


卑近な例では、おやつのとき口にするビスケットがある。

近ごろ買うことが多いのは、《プチ・ブール》というフランスのビスケット。《カルディ》でかんたんに手に入る。


長方形をしたレモンイエローの簡素なパッケージには、薄いビスケットが6枚ずつ4列きっちり詰まっている。


口にした瞬間ふわりと香るバターの風味が心地いいし、コーヒーとの相性もすばらしい。


おやつといわず、夜、台所の片隅で本を読みながら齧ることもある(ネズミのように)。


そしてそのごくあたりまえのたたずまいは、なにより自分らしく感じられる。コーヒーとともに誰かに供すれば、そのビスケットが自分の名刺代わりにもなってくれるのではないか、というほどに。


であればこそ、《定番》は誰かの真似とか背伸びをしてかろうじて手が届くといったものではなく、じぶんの内面から零(こぼ)れ落ちてくるのでなきゃダメなのだ、たぶん。

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