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いいご近所づくり大会議ダイジェストVol.1『 結果を出す食支援の理論編 』

はじめに

平成30年4月22日(日)、在宅食支援・生活支援をテーマにしたシンポジウム「いいご近所づくり大会議2018 “食べる”と“笑う”を支える摂食嚥下の専門家に学ぶ1 日」が開催されました。

「いいご近所づくり会議」(主催:一般社団法人グッドネイバーズカンパニー)は、地域医療の先進的取り組みを実践しているゲストを招き、これからの地域ケアの在り方や、健康的なまちづくりについて考える、不定期開催のイベントです。

この日のゲストは、リハ栄養の第一人者の若林秀隆先生、歯科の摂食嚥下リハ分野を牽引する戸原 玄先生、石巻から全国へ男性介護者支援を広げ、地域食支援連携を進める河瀬聡一朗先生という、食支援のフロントランナー!高齢化が進む中で、ますますニーズが増している「地域での食支援」を広げ、高齢者の生活改善につなげるための理論・実例が熱く語り合われました。

今回はシンポジウムのレポートとして、登壇者のトークダイジェストを『結果を出す食支援の理論編』『食支援を広げるヒント編』に分けて紹介します。

*記事は取材参加した記者の要約です。
 実際の講話内容と一致してはおりません(本文中敬称略)。

患者のQOLを上げるPDCA循環を! 若林秀隆先生

定期的に在宅へのリハ往診に従事されている若林先生。普段は入院患者さんを対象にしたご講演が多い中、今回は“在宅におけるリハ栄養の実践”をテーマにお話が進みました。在宅へのリハ往診では、同行のセラピスト職達と共に患者をアセスメントし、ICFの視点で療養生活の中の医療的ケアを見直して、必要に応じては住宅改修の提案なども行っているとのこと。食支援に限らず、ケアの基本的な在り方を熱心に呼びかけ、患者のQOLに大きく影響する「食べる」「歩く」を改善する「リハ栄養」に焦点を当て、理解を促すものでした。

最終的なアウトカムは患者さんのQOLやADLの改善にあります。患者さんごとの症状や疾患に加えて、背景や生活環境も含めたアセスメントを行い、具体的な改善目標と達成期限を決定する。臨床現場でよく見受けられるのが、この目標設定で止まってしまうこと。“攻めのケア&振り返り”でPDCAサイクルを回しましょう!

とくにサルコペニアは原因疾患のほか、背景となっている要因を丁寧に精査しなければなりません。高齢者のサルコペニアなら『加齢・活動・栄養・疾患』のどの要素が大きいか、2職種以上で話し合い、上記のPDCAサイクルを回すことが重要です。

単独では職種バイアスがかかり、原因を見誤る可能性があるので、複数の視点でアセスメントする必要があります。職種バイアスとは、専門職それぞれが持っている知識や経験によって見立てが変わることで、医師・看護師は疾患に原因があると判断し、管理栄養士は栄養の問題ととらえ、歯科医療に携わる人は義歯の不具合や、嚥下機能低下だと考えがち、ということです。

もうひとつ重要な視点は、低栄養の評価。サルコペニアを起こし、リハが必要な人の多くは、十分に食べられない状況で低栄養状態にあります。皆さんも、日頃のケアで実感しておられるのではないですか?

そのような方には、「リハから見た栄養管理」と「栄養管理から見たリハ」の両方が必要で、それを「リハ栄養」という言葉で提唱しています。加齢以外を原因とするサルコペニアは可逆性があります!改善目標を具体的に定め、達成する “攻めのリハ栄養”で予防や回復が可能で、そのための原因を見極めることが本当に大切。

繰り返しになりますが、リハ栄養によってQOLやADLがどのように改善したか、ケアの評価・見直しを繰り返して、ICFの「機能(口腔機能障害、栄養障害など)」「活動(歩く、食べるなど)」「参加(社会参加、役割)」を最大限高めるプロセスを多職種で繰り返しましょう。そして、リハ栄養は食べるための口腔機能が欠かせないので「リハ・栄養・口腔は三位一体」です。さらに昨今はポリファーマシーの影響も大きいため「リハ薬剤」の視点も必要と考えています。ぜひ、こうした職種でのチームケアの実現を!

入院前、嚥下障害はなく常食を食べていたのに、退院する頃には約4人に1人が嚥下障害を起こしてしまう。現状、フレイル状態にある高齢者は、入院するとQOLやADLを著しく低下させ、寝たきりになってしまう場合が多いです。そのような医原性と言えるサルコペニアを断固無くしていきましょう。

食べる口を診る前に、食べる人をよく見よう 戸原 玄先生

複数の人の顔写真を紹介しながらスタートした戸原先生の講演。先生が伝えたかったのは「対面したときに受ける印象」の重要性でした。在宅ではとくに、患者と会った瞬間の印象や、生活環境などから感じることが、ケアに重要な情報だというのです。専門職だけに、まずは口を診て、造影を診てと考えがちではありませんか?でも、その前にスルーしてはいけないこととして、元気そう、元気がなさそうといった印象の背景にある理由を多様にイメージすることの大切さが説かれました。

訪問診療で出会うのは、嚥下に関する筋肉が麻痺してしまった、典型的なイメージの嚥下障害の人ばかりではありません。食べられない原因は、「食べる機能」と「栄養摂取方法・食形態」が合っていないこと。また、食事(栄養)は胃ろうからでも、薬だけは口から飲んでいて、口の中に残った薬が激しいむせを招いているケースに遭遇したこともあります。患者さんの元気がなかったら、いろんな可能性を疑ってみるべきです。

そして、患者さんを元気にするケアをして差し上げたいですよね。口腔ケアや嚥下訓練は患者さんの健康被害になることはないものとして、“安全最優先で”というより、患者さんの生活上の“快(安心、快適、自由)を感じ、優先して”取り組みたい。プロフェッショナルな評価・技術を基礎に、チャレンジングスピリットが必要です!

摂食嚥下医療資源マップ」に嚥下調整食対応可能なレストラン情報を追加しているのも同様の気持ちから、とのこと。食べる機能が回復し、食を楽しめるようになった後、しばらくして嚥下調整食に飽き、“もっと楽しみたい”という気持ちが出るのも自然なこと。そこで、外食の提案などもしたいと考えたそうです。世界一有名な夢の国や有名温泉旅館も掲載されています。「食べられない」で困ったとき、「誰に相談をしたらいいのか分からない」という問題を解消する「摂食嚥下医療資源マップ」。戸原先生は「嚥下障害がある人も食べることが楽しめる機会を増やしていきたい。食支援の連携にも役立ててほしい」と話しました。

患者さんの中には、この人はもう食べられない人と判断され、そのままになっている人がたくさんいます。「患者さんのために何かできないか?」と思う人がいないと、その先はありません。私はとくにプラットホームのような機関はもっておらず、主に人の縁で訪問診療をしていて、「嚥下障害」ではなく「障害のある人」を見る感性をもっている、感じのいい人とつながっています。

患者さんが食べたくなる、訓練してみようかという気になるには、ときには口を診るより、気分転換してもらう工夫をするほうがいい場合もある。
“一発芸”のひとつもやって、気持ちをほぐしてもらう。医療者としてというより、関わった人として一肌脱ぐ気持ちでケアに当たる仲間と共に仕事ができています。地域連携をつくっていきたいときには、自らなぜ、どうしたいのか、自分は何ができるか発信し、人としての関わりを求めていくことが必要かもしれませんね。

そして連携でもうひとつ大切なことは、タイミングを逃さないスピード感です。職種がそろうことが目的ではないのだから、「多職種」にこだわることはない。少数から、信頼し合えるチームになっていけばいいでしょう。

*登壇者プロフィール
● 若林 秀隆 医師・医学博士
リハビリテーション科目専門医。リハ栄養の第一人者として、数多くの研究報告を執筆。昨今、課題視されるサルコペニア、フレイルに対して、コメディカルでも実践できるリハ栄養の評価・介入方法を提言。医原性サルコペニアの廃絶を提唱している。

● 戸原 玄 歯科医師・歯学博士
専門は高齢者歯科、特に歯科における摂食嚥下リハビリテーション分野を牽引。長寿科学研究開発事業の業務主任者を担当し、「摂食嚥下医療資源マップ」を作成。在宅診療から地域連携まで、多方面から食支援に携わっている。

(まとめ・文 フリー編集者・ライター 下平貴子)


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