『スーパーメトロイド』のおどろき体験について思ったこと
惑星ゼーベス在住のみなさん、こんにちは。
はじめに少し注意事項をお伝えすると……
この記事はスーパーメトロイドのネタバレをしまくっているので、スーパーメトロイドを未プレイのかたは、いますぐに回れ右してお帰りください。そしてスーパーメトロイドを遊びなさい。超絶面白いよ。
スーパーメトロイドはおもに【探索】と【おどろき】と【ひらめき】の三つが大きな魅力だと僕は思っている。以前、探索については少し語ったので、今回はおどろき体験について語る。ひらめき体験に関しては、ネット上に少しでもネタバレの可能性を置きたくないのでおそらく今後書くことはない(と言いつつ一本だけ書いちゃったけど)。
で、スーパーメトロイドのおどろき体験についてだ。
どういうときに人はおどろくのか
そもそも人間ってどういうときにおどろくのだろう。
…もったいぶってもしょうがないので、さっさと言っちゃうと、
【予想と違ったとき】に人間はおどろく。
→予想(こうなるだろうな~)
→現実「違うぞ」
→!?
思ってたのと違う!ってときにおどろきが発生する。たぶん。
スーパーメトロイドを遊んでいると、大量の「思ってたのと違う!」に出くわす。とにかくおどろきに満ちたゲームなのだ。それをどうやって実現しているのか……
簡単に言うと【プレイヤーの思い込みを利用している】。
つまり、プレイヤーが「これはこうだろう」と決めつけるように仕向けて、そのうえでその予想とは違う反応を返すことでおどろきを形作っている。それをこれから個別に見ていく。
ちなみに、この記事の考察はあくまで僕の主観だ。別に独自に調査とか、関係者にインタビューとかしたわけではない。まして僕はゲームデザイナーでもなんでもないので、一応注意してほしい。まあそんなマジメに読む人いないと思うけど、一応ね。一応。
おどろき体験をザッと大別する
まずは、スーパーメトロイドにおけるおどろき体験をザッと大別してみる。
■ザッと大別
①パワーアップ関連
②ボス
③未知の生物
④隠しテクニック
⑤その他
だいたいこの五項目かな?なので、この記事では大きく分けてこの五項目について語っていくことにしよう。
さっそく①パワーアップ関連から。
①パワーアップ関連
パワーアップは、入手前も入手後もおどろきに満ちた設計になっている。
パワーアップ入手前のおどろき
いくつかのパワーアップを例に取り上げて考えてみる。
◆モーフボール+ミサイル
さらわれたベビーメトロイドを追って惑星ゼーベスに降り立つサムス。地表には激しい雷雨が降り注いでいる。生き物の気配がまったくしない地表の【クレテリア】を独り静かに地下へ降りていく。
地下深くにあった【モーフボール】を手に入れると、壁に設置されている石像の目が怪しく光る。地上への道を戻ると、無人だったハズの通路に【スペースパイレーツ】の姿が!
→生物の気配がまったくしない内部を進む
→パワーアップ
→戻るといなかったハズの敵が!
というおどろき体験になっている
◆スーパーミサイル
→ボス倒したのに行き止まりかよ!
→ん?このブロック、乗ったら消え……うおおおお
→どこまで落ちるんだ…!?
→着地したら目の前に鳥人像(うおお
「ボスを倒したんだからなにかイイモノが貰えるハズ」というプレイヤーの思い込みを利用して、予想を外す。そして大落下のおどろきを与えてから、着地させて目の前に鳥人像。
◆スピードブースター
これはかなり壮大な物語になっている。まず、スピードブースターを入手するまでの道中で【溶岩がせりあがってくる】という展開を何度か経験する。
一度目はいきなりの大きな画面揺れに焦るが、実はそこまで溶岩がせりあがってこないので、「なーんだ」という安心にかわる。そう思わせておいて、二度目はしっかり全身が浸かるくらいの高さまで上がってくるので「ヤバいヤバい」と焦る。
そして三度目、スピードブースターを入手した直後に画面が揺れ出し、溶岩がせりあがってくる。これまでは【部屋を入った直後】に溶岩がせりあがる体験を二度経てきている。ここで【パワーアップ直後】という意表を突いてくる。
溶岩から逃げようと、慌てて走り出したところでプレイヤーはスピードブースターの能力を体験するわけだ。
余談だが、こうしたチュートリアルを“ただの操作説明”にせず、“体験”にまで昇華しているのがスーパーメトロイドのズバ抜けたスゴさの一つだと思う。
◆チャージビーム
パワーアップ入手は基本的に個別の部屋で行われる。鳥人像が鎮座していて、専用のミステリアスなBGMが流れていて…………という流れをカンペキに裏切ってそのへんの道の隠し通路にポンと置かれているのがチャージビームだ。いやそんなんアリかよ!?
いくつか例を挙げたが、このようにほとんどのパワーアップ入手前におどろきをもたらす【ドラマ】が用意されている。
パワーアップ入手後のおどろき
パワーアップは入手後もその機能についておどろく。
「え!そんな機能あったの!?」
これもプレイヤーの思い込みを利用している。最初に「このパワーアップの機能はこういうものだ」と思わせてから、実は第二第三の機能をプレイヤー自らに気付かせることによって、おどろきをもたらしている。
と簡単に説明できるが、実際にやるのはそう簡単なことではない。スーパーメトロイドでは、以下のような前提条件をしっかりとクリアしている。
①パワーアップで【できるようになったこと】を一切説明しない
②パワーアップに【二つ以上の役割・機能】をもたせる
③プレイヤーが【最適なタイミングで隠された機能に気付ける】ように、【地形・敵配置を完全にコントロールする】
これら条件によって、まずプレイヤーは【なにができるようになったのか?】を自分で調べる。そして【この能力はこういう機能があるんだな】と発見する。だが実際には二つ以上の役割・機能があり、プレイヤーが知った機能は一面にすぎない。そしてコントロールされた地形や敵配置によって、隠された機能の存在を最適なタイミングで知り、おどろくわけだ。
いくつか例を挙げてみる。
◆アイスビーム
入手時にまず、
アイスってことは敵を凍らせるのかな?
と予想する。入手した部屋を出るとすぐに地形を這う敵が何体かうろついているので、まとめて凍らせる。さらに、壁から炎を吐いてくる敵も凍らせる。これで道をラクに進める。
と、「ここでアイスビームは敵を凍らせるビームだ」と納得する。
が、その次の部屋で、
実は凍らせた敵を足場にすることができる
ことが判明する。ここでおどろく。てっきり敵を凍らせるだけのビームだと思い込むからだ。
◆スピードブースター
入手直後のシーンで「一定時間ダッシュしていると超加速する」能力だと思う。その後、>型のブロックを壊せる能力にも見当が付く、もしくは実際に壊して確信をする。
だがそのあとで超加速状態でジャンプすることでものスゴい距離を大ジャンプできることに気付く。さらに、長い縦穴に突然落ちてしまって、ダチョウのような生き物に隠しテクニックの【シャインスパーク】について教えてもらう。
大ジャンプとシャインスパークは、地形をコントロールしてその存在に気付くタイミングを完全に制御している。
◆プラズマビーム
入手前に【どうやっても倒せないゼーベス星人】と戦う体験をする。そのあと、倒せないゼーベス星人が大量にいる部屋に閉じ込められる。ピンチになりつつもプラズマビームを入手して、一気に逆襲する。ここで、プラズマビームは【倒せなかったゼーベス星人が倒せるようになるビーム】だと思い込む。
来た道を戻るとき、通路に【変なブヨブヨした白い敵】が積み重なって配置されている。プラズマビームを入手する前に通ったとき、この鏡餅みたいな敵集団は、殲滅するのにビームを何発も撃つ必要があった。プラズマビームならこの鏡餅をものの二発ほどで葬ることができる。ここで実は【敵を貫通する】というプラズマビームの隠された機能におどろく。
当然、ビーム入手部屋のゼーベス星人を相手取る際には、貫通機能に気付きにくい敵配置になっている。
以上、いくつかの例を挙げた。驚異的なのは、ほぼすべてのパワーアップで二つ以上の機能・役割が存在する点だ。これを構築するのは並大抵ではない。
また、やはり巧妙なのが一切の説明がない点。これによってプレイヤーは自分でパワーアップの内容を理解していく。その探索と発見が楽しいのはもちろんのこと、自ら発見したからこそ【この能力はこういうものだ】と固定観念を作りやすい。その結果、隠された機能に気付いたときにおどろきやすくなるわけだ。
パワーアップのおどろき体験はこんなところだ。
②ボス
ボスもおどろきだらけだ。最初のボス、鳥人族からしてびっくりする。パワーアップを手に入れたと思いきや部屋に閉じ込められ、恐ろしげなBGMと共に鳥人像が崩れだし、中からボスが登場する。これも【鳥人像のある部屋はパワーアップを入手するだけ】、という思い込みを利用した見せかただ。
これもいくつか例を紹介する。
◆スポア・スポーン
まず、扉をくぐるといきなりボス戦が始まるというのがおどろきポイント。倒すと緑が枯れて、【ボスの死体に乗って上に行けるようになる】のが意外なところだ。ボスは倒したら消滅するという思い込みを利用している。
◆クロコマイアー
こいつも扉をくぐるといきなりボス。さらに、押し相撲のような独自のバトルシステムになっている戦闘。極めつけは撃破シーン。酸に押し込まれ溶けたハズが、骨だけの状態で襲いかかってくる! あわや、というところでついに骨も崩れだし力尽きる。倒したハズの敵が襲い掛かってくるのは、シンプルにおどろく。
さらにこのシーンがスゴいのは、【ボスを倒した後に壁が崩れて進めるようになる】というゲーム的都合を、【倒したボスが骨だけになって襲い掛かってくる】という体験に置き換えているところだ。
◆ファントゥーン
これはボス、というよりは難破船エリア全体のハナシだが……
これまで何度も使ってきた【セーブポイント】が使えない。【マップ】も取得できない。ここに至るまでに当然のように利用してきた施設がいきなり使えない。これにおどろく。
そしてボスを倒すと、電力が復帰し、これら施設が使えるようになっただけでなく、施設に存在する機械全般が稼働してまったく別のエリアのような様相を呈する。
◆黄金の鳥人族
スーパーミサイルを掴んで投げ返してくる。ありえない。なんだそれ。
【最初のボスと同じ姿】、というのが思い込みポイント。これで「大したことないだろう」とあなどらせるように仕向けている。そこでいきなりミサイルを避ける+スーパーミサイルを掴んで投げ返す。ビビるわ。
と、ボスのおどろきについていくつか例を挙げた。ボスもやはりそのほとんどにおどろく要素を仕込んである。唯一それが見当たらないと感じたのが【ボツーン】というボス。あいつだけボスの面汚しだと思う(無慈悲)。
いくつかのボスには【ボスを倒して先に進めるようになる】というゲーム的都合を、【ボスの華々しい死に様】として見せるようなところもあるのが素晴らしい。
③未知の生物
スーパーメトロイドは、未知の惑星をたった独りで探索するゲームだ。そんな中で出会う未知の生物にはおどろく。ここで言う【未知の生物】はおもに【特定の部屋にしかいない生物】を指している。ていうかほとんど【マリーディア】にいる。
未知の生物は、【アクションゲームに出てくる生物はだいたい敵】という思い込みを利用している。【攻撃してくるようでしてこない、でもやっぱりしてくる?】みたいな、よくわからない動きでプレイヤーに接してくる。プレイヤーへの積極的な害意を感じない。
単純な自分⇔敵という対立関係だけにとどまらず、第三陣営のような存在が現れることで、単なるゲームではなくなっていく。惑星ゼーベスが本当に実在するような感覚をもたらしてくれる。
オウムガイみたいなヤツら、マジでなんなんだあいつら
④隠しテクニック
隠しテクニックはそのすべてが【存在しない】と予想・思い込んでいる状態なため、【実は存在する】でおどろく。
傾向としてはパワーアップの隠された機能に気付くのとほぼ同じ。両者の違いはこの記事では結構適当に扱う。一応、ここで言う【隠しテクニック】は、クリアに必須ではないけど用意されている要素として考えるつもりだ。あと、感覚としては「これ明らかに気付かせるつもりないよな?」と個人的に感じたモノだ。もちろん、バグとは区別する。
例によって、いくつか例を挙げる。
◆壁キック・シャインスパーク
どちらも共通しているのは【覚えないとそのエリアから出られない】+【未知の生物に教えてもらう】ところ。何度も言うが、“ただの操作説明”にとどまらせず、未知の生物に教えてもらう“体験”にまで昇華しているところがスゴい。
◆ドレイゴンの隠し撃破方法
「こんなん気付くわけねえだろ」と思いつつも、明かされたときに「たしかにそんなことができてもおかしくない」と思わされるのが凄まじい。表現に納得感がある。
◆装備の付け外しによる特殊ビーム
せっかく強化されたビームをわざわざ外すプレイヤーはなかなかいないと思う。なんのメリットがあると言うのか。しかし隠し挙動のようなものを仕込んでいるのである。頭がおかしい(褒め言葉)。
いくつか例を挙げたが、どれも「そんなん気付くわけねえだろ」と思いつつも「たしかにそれができても不思議ではない」と納得させられるのがスゴいところ。
⑤その他
その他。①~④以外のところでのおどろきポイント。
いくつか取り上げる。ちょっとだけ。
◆オープニング
→職員が死んでいる……
→ベビーメトロイドだけいる……
→暗闇の中で瞳が光ってリドリー登場
→いきなり自爆装置作動で脱出
何度でも言ってしまうが、ここまでドラマチックな展開でゲーム的には【基本操作のチュートリアル】という位置づけなのがスゴい。一作目のメトロイドでは最後に来るハズの脱出シーケンスをいきなり最初に持ってくるのがおどろきだ。
◆スーパーミサイルが炸裂すると、地形を這うタイプの敵が落ちる
この仕様、スーパーミサイル入手後の部屋でプレイヤーをおどろかせるためだけに付けたフシが見られる。頭がおかしい(褒め言葉)
◆マリーディアのメトロイド(モドキ)チラ見せ
もともとベビーメトロイドを追って惑星ゼーベスに降り立っているので、いきなりメトロイドを見せられるとおどろく。ここでは「どうすればあそこに行けるんだ?」と探索意欲を促進する機能がある。
◆ベビーメトロイドの強さの見せかた
ツーリアン深部で成長したベビーメトロイドと再会する。が、その前に生命エネルギーを吸い取られて干からびた生物の死体がいくつか転がっている。この死体の中に鳥人族が出てくる。ボスとして二度ほど登場しているため、プレイヤーは鳥人族の脅威を正しく理解している。そのため、その鳥人族をカラカラに絞り取っている様子におどろく。
◆各種ひらめき体験
詳細は語らないが、ひらめいたときの興奮は凄まじい。ちゃんと自力でひらめけるように密かなヒントを用意してあるのも素晴らしい。
まとめ
とまあ、ザーッと考えてみたのが以上だ。
プレイヤーに「これはこういうものだ」と思わせて、くつがえす。パワーアップで、ボスで、未知の生物で、隠しテクニックで、ゲーム中のあらゆるところにおどろき体験が満ちている。
【パターン化】は、脳の負担を軽くして物事を効率よく処理するための手法だが、スーパーメトロイドはそれを許さない。常にプレイヤーをおどろかせることによって、プレイヤーにとって興味の対象でありつづける。
だからこのゲームは面白い。
あと一回きりの演出とか、特定の部屋にしかいない未知の生物とか、一回きりの要素が大量に用意されてるの頭おかしいよ(褒め言葉)
おわり
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