Glycine

欧州生活の長い50代です。これまで言えなかったことを書き残しておきたい。追憶、時事問題…

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欧州生活の長い50代です。これまで言えなかったことを書き残しておきたい。追憶、時事問題、家族、カルチャー、スポーツ、文学、映画・・・あちこち話が飛びますが、お気に召せばどうぞお付き合いください。

最近の記事

一年前の今日、過去を辿る旅

早くも4月が終わるんだなと考えていると、ちょうど一年前の今日、過去を辿る旅に出たことに気付く。 30年以上も昔、初めての留学生活を送ったフランスの小さな街。8ヶ月の語学講座を終えるとすぐにパリに引っ越して以来、一度も足を踏み入れていなかった。 なぜ30年以上もあの街に戻らなかったのか。いくらでも機会はあったが、「いつでも行ける」と思っているうちにこれほどの年月が経ってしまった。 当時の日記を見つけることがなければ、実際に行こうという気にはなれなかっただろう。 その日記

    • 藤の季節

      藤の季節がきた。 薄紫の色も、自然の恵みを感じさせるぶどうの房のような形状も好きだが、何よりもあの甘く爽やかな香りに恍惚とする。 小学校に見事な藤棚があった。校庭の片隅で、そこだけ違う時間が流れているような不思議な空間。中に入るとフッと暗くなり、見上げると棚を埋め尽くした緑の葉から豊かな花の房がいくつもこぼれ落ちている。友だちがみんな家に帰っても、暗くなるまでぼーっと匂いを嗅いでいた。それがおそらく私にとって最も古い香りの記憶。 欧州の各地でも、桜の葉の色が瑞々しい緑に

      • 「ありがたいことに、私たちは皆どう死ぬべきかを知っている」

        どこもかしこもコロナの話題で埋まったネットメディアで、興味深い記事を読んだ。 元記事のイスラエル誌も読んでみた。 スイスの哲学者アラン・ド・ボットは、ストア哲学の観点から、常に最悪の事態に備えることが心の平安を保つ手段だ、という。 先の見えない状況の中では、「うまくいけば夏には収束しているだろう」などという楽観主義から現実に突き落とされるよりは、「最低でも2年は続く」と覚悟を決める方がダメージは少ない。 特に共感したのは哲学者の死生観だ。 the good news

        • 「バリー・リンドン」とシューベルト

          久方ぶりに「バリー・リンドン」を観た。もう3、4回は観たはずだが、たまたまテレビをつけていたら始まって、たちまち画面から目が離せなくなっていた。 3時間以上の大作だが、毎回まったく長さは感じないどころか、ずっと観続けていたくなる。なんという光と色。計算され尽くした絵画的な構図。奇跡のような作品だとあらためて実感する。 何よりも、登場人物に対するキューブリックの絶妙な距離感が好きだ。波乱に満ちた、と同時にこの上なく平凡で退屈とも言える主人公の不思議な人生を、突き離すでもなく

        一年前の今日、過去を辿る旅

          言えなかったこと

          雪を戴く山々に囲まれた欧州の小さな街に住んでいる。 ここでもウィルスの脅威は免れない。 すでに50年以上生きてきた。疫病であっという間に死んでも文句は言えないくらいは生きてきた。 引きこもり生活を余儀なくされた今が良い機会だ。これまで言えなかったことを綴っていきたい。

          言えなかったこと