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「普通」の人が追いかけたくなる無数の「欲望のかたち - 娼年 callboy 石田衣良 -

なんだ発情期か?と思われてもおかしくないラインナップになってしまいましたが、
最低。 (角川文庫)の次に読んだのは
娼年 (集英社文庫)

20歳の浮つきを微塵も感じさせない大学生・リョウくんが主人公。

どれくらい浮ついていないかというと、プロローグが終わり、本編開始から数ページで

「そうだね、女なんてつまらない」
女性だけではなかった。大学も友人も家族も、世の中すべてつまらない。
そのころぼくは二十歳だった。二十歳は退屈な年だ。若いというのはすくなく、にがく、うつろなことだ。

と言ってしまう。

ストーリーは、ある程度読書量のある人ならまぁ想像がつくような展開だ。

・ひょんなことから娼夫の道を歩む主人公。
・最初は最低ランクだが、様々な女性の欲望を知り、
・一心不乱にのめりこんでいたらいつの間にかトップにたっていた。
・そんな主人公が本当に好きなのはオーナーで、思いを告げるも彼女には秘密があり.....

こんな紹介文で表現できてしまうような。
では、17年くらい前の小説がなぜ今映画化され、こんなに騒がれるのか。


性産業には関わったことがないので素人の肌感覚でしかありませんが、
ここ3年ほどで多様な性欲の形がクローズアップされることに慣れてきたからなのではないかなと捉えています。

本作ではたくさんの欲望を持つ女性が登場します。
主人公・リョウ と同様に、読者もきっとそのバリエーションに驚かされます。

おそらく、15年前の日本人は、他人の性趣味を覗き見ることに大きな抵抗を持つ人がとても多かったと思います。口に出してはいけない、タブー視する風潮。

けれど2018年現在は、AV女優からセクシー女優へと呼び名が変わるなど、
性にまつわるタブー感は格段に減ったように思います。
だからこそ、舞台という小さい枠の中からはみ出した、映画化に至ることができたのでしょう。

(画像は 映画『娼年』公式 twitter より。以下、小説「娼年」の話が続きます)


「(略)ぼくの場合は単純に快感を送る線と苦痛を送る線が混線しているんだって」

と自分のことをあっさりと語る、クラブで1,2位を争うトップクラスの人気を誇るアズマ。
初対面でリョウのことを売れっ子になると見抜いた彼は
そう見抜いた理由を「普通だから」と端的に表現します。

そんな「普通」のリョウと同じように「普通」な私たちにも、際限のない欲望の一部を覗き見させてくれる。
そんな本でした。



アズマのことをもっと追いかけたいから、私はきっと、続編も読むのでしょう。


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