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サッカード素人の相模原市民がアウェイ沼にハマった話

J2リーグ第36節、ギラヴァンツ北九州対SC相模原。
共に降格圏脱出を目指すチーム同士の、絶対に落とせない6ポイントマッチ。

飛行機と新幹線を乗り継ぎ、ミクニワールドスタジアム北九州まで行ってきた。

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小倉駅から徒歩圏内という恵まれた立地と、綺麗なスタンド・コンコース。バックスタンド裏はすぐそこが海になっており、クリアの際には海ポチャの可能性がある。
特徴的でワクワクする、おらが街のスタジアム。そんな印象を受けた。

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試合は前半から両軍共に、ボールを保持してビルドアップしていき、正攻法で相手の陣形を割ってゴールを目指そうとする姿勢が見て取れたが、スコアが動くことはなく0-0で折り返した。

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ハーフタイムにはビジターゴール裏の店の牛すじ大根煮を食べたが、これが本当に美味しかった。あれほど旨辛な味がしゅんでいる大根を初めて食べた。是非また食べに行きたい。

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ギラヴァンツと門司港レトロビールがコラボして作られたギラヴァイツェンというビールもフルーティで美味しかった。
土曜日のスタジアムで、ビールを飲める最高の日常が戻ってきたことに感謝した。



後半に入ると、前半よりも両軍やや前がかりに攻める姿勢が見られ、カウンターの応酬になる局面が増えてきた。

その中で先制したのは北九州。
ディフェンスラインから素早くボールを縦に繋ぎ続け、相模原のラインが揃わない内に一気に駆け上がると、そのままゴールを奪われた。

ここから試合は大きく動く。

北九州の先制から3分後、相模原は左サイドで#26兒玉がボールを受けると、真ん中寄りに持ち上がり、ペナルティエリア手前で右足を振り抜いた。
ビジターゴール裏からは、兒玉のシュートが北九州GKが動くことすらできない逆サイドのネットに吸い込まれる様子がよく分かった。

あっという間の同点劇に、相模原ゴール裏が一気に活気づいた。

そこからは相模原が多くの決定機を作る展開が続いたが、なかなかゴールを割るには至らず、悶々とした展開が続いた。

思い起こされるのは、前節・ホーム金沢戦。
前半に先制したはいいものの、それ以降はひたすら金沢に攻め続けられ、後半アディショナルタイムの試合終了間際に同点弾を食らい、貴重な勝ち点2を落とすことになった。
ギリギリで守り続けたディフェンス陣が次々に足をつり、それでも必死に守り続けた防波堤が最後の最後に決壊してしまった、そんな印象を受けて非常に悔しい思いをしたゲームだった。


今節は相模原が後半攻め込む展開になっていたが、前節の苦い記憶が、今度は逆に攻め切れないのではないかと僕を弱気にさせていた。

手を合わせて祈りながら見ていた後半92分、不安とこれまでの鬱憤を晴らしてくれたのは、僕が初めてファンになったフットボールプレイヤー、#9ユーリだった。

途中出場したユーリは、ペナルティエリア手前で振り向きざまに強烈なシュートを蹴ると、北九州GKがこれをパンチングした。そのこぼれ球がエリア内で、同じく途中出場して良い動きを見せていた#2夛田の足元に収まった。

動きがキレていた夛田がそのまま打つかと思いきや、ボールはマイナスに優しく転がされた。

ボールが転がったガラ空きのスペースには、悠然と走り込むユーリがいた。2歩、3歩、距離を詰める。
もうどうなるか分かった。

丸太のように強靭な右足が振り抜かれると、ボールは弾丸のようにゴールへ一直線に飛んでいった。

ゴールに大砲のようなシュートが突き刺さり、ネットが破れんばかりに擦れる音がビジターゴール裏に届いた。

歓喜に湧くゴール裏、サガミスタを煽る夛田、全員飛び出すベンチ。

苦しくて辛かったトンネルの先に、最高の光景が広がっていた。

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僕は今までもプロ野球などでよく日本各地のスタジアムに行っていた。
いわゆる"遠征"と言われる観戦には、それなりに馴染みがあるつもりだった。

けれどそれは、自分が色んなところに行きたいという気持ちが先行して行っているもので、Jリーグ界隈でよく言われる「勝ち点3を持ち帰る」という言葉の意味を掴めずにいた。


しかし試合後、僕はこの試合でその意味を知り、そして自分がアウェイ沼に落とされたことに気付いた。

試合終了後、ビジターゴール裏に整列して挨拶をしてくれた選手やスタッフ達は皆弾けるような笑顔だった。
渡辺GKコーチはゴール裏を煽り続け、途中出場で気持ちのクリアをし続けた梅鉢は何度も何度も雄叫びを上げていた。その光景を見ているだけで、僕も幸せな気分になれた。

そして、試合後に高木監督から『サポーターもスタジアムに来て応援してくださった。そういう人たちの為にも今日勝てたことは非常に良かった』とコメントが出たことも凄く嬉しかった。


90分の試合を見るために、片道何時間もかけて、離れた地方にあるスタジアムに行くことは、なかなか勇気が要る。
負けたら嫌だなとか、疲れるだろうなとか、交通機関のトラブルに巻き込まれるのが怖いとか、とにかく色々な不安がつきまとう。

けれど、こういう試合を体験して、チームと最高の思い出を作れると、そんなことは苦でも何でもなくなってしまう。


今季からサッカーを見始め、観戦した試合数は29になった。しかし、遠く離れたアウェイの地で勝利を収めた試合を見たのはこれが初めてだった。

試合が終われば、選手もスタッフも多くのサポーターも皆、充実感と幸せな気持ちを抱えながら、それぞれ相模原への帰路につく。
4日後には相模原ギオンスタジアムでホームゲームがある。また新たな気持ちでギオンスへ行こうと思い直した。

気付けば、相模原、そしてギオンスタジアムは、いつの間にか僕のホームになっていた。


地元のクラブを応援できる喜び。
そして、遠く離れた地で皆で歓喜し、この思い出と勝ち点を持ち帰れる喜び、これがきっとアウェイ沼というやつなんだと悟った。

サッカーに出会った年の深まる秋に、最高の思い出ができた。



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