見出し画像

Buddy is a living spirit(相棒は生き霊)第十章

注釈
 「 」かぎ括弧は会話
 ( )丸括弧は心の中の会話又は電話等
 [ ]角括弧は生き霊の会話

第十章 真実 パート2

 神山は、部屋のドアに鍵をかけ、瑠璃に「さあ、行きましょう。」と声を掛けた。

 瑠璃も微笑み返しながら頷いた。

[瑠璃、そこまで本気でやることはないんだぞ。]と、山神は歯ぎしりをしながら言葉を絞り出した。

(だいじょうぶですよ。)

 階段を降りる際、急な階段である為、手を差し伸べて降りていった。

[神山!手を繋ぐのはやりすぎだろ。]

 そして歩いて駅まで向かった。

[おい、この野郎、無視か。]

 神山は聞こえないふりをしていると、瑠璃が、
「神山さん、父は今は心の中なんですね。」

 未だ信じられない様子の瑠璃を見ながら、
「ええ。ところで、交際していることが前提なので、下の名前で呼びませんか。私は瑠璃さんと呼ぶので、瑠璃さんは真一と呼んで下さい。」

「それであれば、瑠璃と呼び捨てにして下さい。グッと親近感が湧きます。」

「そうですね。南田副班長が山神さんの動向を監視していましたから、私や瑠璃さんも監視されていると思った方がいいかもしれません。」

[コラ、瑠璃を守るためには仕方がないから大目に見てやるが、いつも俺が見てることを忘れるなよ。]

(分かっていますよ。)

[やっぱり聞こえているじゃないか。]と怒っていた。

「今しがた、山神さんのOKもいただきましたので、下の名前で呼びましょう。瑠璃。」

 神山は「真一。」と言う瑠璃のはにかむ笑顔を見て、なんともいえないほど愛おしいと思った。

 しばらくすると山神が[左手後方に部下の近藤が張り付いている。そして誰かは分からんが40代ぐらいの目つきの悪い男も張り付いている。]と神山に話した。

(警察官ではないのですか。)

[わしの部下でもないし、首筋に刃物の切り傷がある警察官の記憶がない。かなり目立つから噂になるはずだが。まあ、神山か瑠璃のどちらかは分からんが、送り届ければお前に張り付いている方が分かるだろ。]

 しかし、山神はすでに検討はついていた。その目つきの悪い男は、勅使河原に雇われた男だ。神山は瑠璃を山神の家まで送って行ったが、まるで本当の恋人同士のように打ち解けていた。そして言わずもがな山神は怒鳴り散らしていた。

 別れた後、瑠璃は父親から言われた通り、南田副班長に電話をしてお墓の件の話をした。一応すんなりと受け入れられたようだ。その際、神山との仲を聞かれたので、打ち合わせ通り、以前から知り合いであったが、事故以来寄り添うようになった。今では恋人になっていると話した。だから親密になったのは最近であるので、祖母も気をつかったと思うとも話した。

 瑠璃は電話を切ると神山に電話をすると、神山は電車の中なので降りてから電話するとメールした。

 駅のホームに降りると早速瑠璃に電話をかけ、
「先程の電話は南田副班長の件ですね、どうなりましたか。」

「一応、打ち合わせ通り私と神山さんの仲は、事故にあってから恋人になったと話しました。なんの違和感もなかったように話されていました。」

 ううんと何やら物思いにふけるように山神が、
[明日の様子を見てみないと分からないな。取り敢えず神山に対する張り込みは、今晩私が確かめる。]

 瑠璃には山神の言葉をそのまま伝えた。そして、神山は、これからは戸締りをしっかりとするように伝えたあと、いざというときのために、神山の携帯番号を一番にするように頼んだ。

 神山は、駅からの帰り道で、これからのことを聞くために山神に話しかけたが返事がない。

 しばらくしてアパートに近づくと、
[神山、お前の周りにはいないようだ。近藤も首に傷のある男もいない。]

(それは安心ですね。)

[いや、そうとも言えん。神山に頼みがある。このままUターンして俺の家まで戻ってくれ。]

(どうかしたのですか。)

[少し気がかりなことがある。あの男の行動だ。見張るだけならば、首に傷があるような目立つ奴を雇うはずがない。どこかで見たような気がするのだが。]

(取り敢えず、急いで戻ります。)

 神山は、駅まで走って走って走った。電車を待つ間も足踏みをしているので山神が、
[急いでくれるのは嬉しいが、電車の中で走っても仕方ないだろう。少し落ち着け。]

(山神さんの娘さんですよ。それにこれは走る前の準備運動なんです。お気になさらず。)

[お前、意外と頼もしいな。]

(そうでしょう、そうでしょう。)

 ニコニコしていると本所吾妻橋駅に着いた。ドアが開くと同時に走り出した。2分もかからず山神の家の近くまできた。
 ここで止まれと言われ、電柱に隠れると[見てくるから]と言って身体から出て行った。

 しばらくして戻ってきた山神が、
[家の前の道路の前方100メートルぐらい先に路上駐車している黒のセダンが見えるか。]

(ええ、見えます。)

[あの車に男が二人乗っている。そのうちの一人が首に傷のある男だ。職質しろ。]

(制服を着ていませんので、少しまずいのでは。)

[バカやろ。刑事は捜査の時は私服だ。]

(私は刑事じゃありません。)

[相手には分からんだろ。刑事と名乗らなければいいんだ。相手がどのように解釈するかまでは関係がない。]

(それって際どいですよね。まあ、不審者には違いがないので、ギリOKですかね。)

 神山は首を捻りながらも、瑠璃のために車に近づいた。窓をコンコンと叩きガラスを下げるように促すと、車の運転席の男はあちらへ行けとばかりに手で追い払うような仕草をした。神山は手帳を見せてもう一度ガラスを下ろすように手でジェスチャーした。やっとのことで下げたので、「警察です。少しお伺いしたいのですが、いいですか。」と告げた。

 相手の男は目を伏せたままで神山を見ずに「ええ。」と返事をした。

「免許証を拝見させて下さい。」

「いいえ、断ります。」

「では、長い時間ここで何をされているのかお聞かせ下さい。」

「任意だろ。言う必要は無い。」

「隣の人も身分証明を見せることはできませんか。あなたはもしや、勅使河原代議士の秘書の方じゃないですか。」

「いいえ違います。」

「間違いがないはずです。」

[神山、それは本当か。]

(山神さんから事件の詳細を聞いた後、ネットで調べたんです。勅使河原代議士のSNSの写真の中に写り込んでいました。)

[こいつに秘書だということを認めさせろ。]

(何故ですか。)

[また説明してやる。早く認めさせろ。]

 山神が強く言うので、突っ込んで問い詰めることにした。

「では、身分証明を見せて下さい。」

「彼からも言った通り任意なので拒否します。」

 大声になっていたため、車の前の家から住人が出てきた。神山は警察官であることを名乗り、長時間止まっているので職質しているところだと話した。すると、その住人が怒り出し車の前に立ちはだかった。危ないと言い離れるように注意したが応じず、両手を広げて車が逃げるのを阻止していた。
 実はこの住人、山神の先輩刑事で、定年退職後、地域に防犯対策組合を設立して、組合長に就任し地域の安全を守っている。神山以上に大声を出すので、近所から何人も出てきた。当然、瑠璃もだ。瑠璃は神山さんと言うのを抑えて「真一どうしたの。」と声を掛けてきた。

 神山は、あれから気になり戻ってきたら、瑠璃の家を見張っている車を発見したので、職質しているところと話した。

「首に切り傷のある人!」と瑠璃の声に反応したその男が、慌てて首筋に手をやった。すると組合長が「瑠璃ちゃん、こいつを知っているのか。」と怒鳴りながら言うと、「ここ最近私の周りで見かけるんです。」と瑠璃が答えた。
 その後は、警察を呼び事情聴取が始まった。その警察官によると山神さんの家を見張っていたわけではなく支援者の家を探していたと言うことらしい。組合長がどこの何さんのところを訪問しようとしていたのかを聞きたいと話したが、それは個人情報なので言えないとのことであった。
 しかしそれでは収まらない組合長は「ほらみろ、みんなスマホを片手に映しているぞ。ネットで晒されるぐらいなら身元を明かせ。」と問い詰めた。
 このままではまずいと思ったのか、勅使河原代議士の秘書であることを告白した。組合長は「元大臣の関係者ならばこんな時間に人の家の前に車を止めるな。いくら秘書といえども、又うろついていたら通報するからな。その支援者とやらは勅使河原の事務所に来させろ。分かったか。」

 二人は頷き、車を走らせた。

 神山と瑠璃が話している間に割って入った組合長が、
「瑠璃ちゃん、山神はどうだ。目を覚ましたか。」

「いえ、まだです。」

「そうか、大変だな。」

「母の葬儀ではお参りいただきありがとうございました。」

「いや、それは当然だ。ところで君は瑠璃ちゃんの彼氏だな。名前は。」

 瑠璃は恥ずかしがるどころか、神山の左肘を掴み顔を向けた。

 瑠璃の微笑みに応えるかのように組合長を見た神山が、
「藤沢中央署交通課所属、巡査部長の神山真一と申します。」

「君も藤沢中央署か。山神も同じ署だった。そうかそれで二人は知り合ったのか。」

「はい、その通りでございます。」

「山神と俺とはな・・。」

 組合長の話が始まると次の言葉が聞こえないぐらいの声で、
[神山!今日は遅いので改めてご挨拶に参りますと言って離れろ。佐倉のオヤジさんは定年退職してから話が長いんだ。多分、人と接する時間が少なくなったので人恋しいのかもしれん。もう11時だからと言え。]

(分かりました。)

「佐倉さん。今日はもう11時なので、またゆっくりご挨拶に参ります。今後とも二人を末長く見守っていただけると幸いでございます。」

「おおっ。山神が起きるまで君たちの親父さん代わりになってやるよ。うん、私の名前はどこで。そんなことはどうでもいいか。じゃ、おやすみ。」

[神山、オヤジさんへの挨拶を聞いていると結婚式の・・。]

「瑠璃さん、家に帰りましょう。」と振り向きざまに瑠璃の左手を握った。

「はい。」と言う瑠璃も強く握りしめた。

[神山、無視するな。手を離せ!]

「父は何か言ってますか。」

「いえ、何も。こうなることを望んでいるかもしれません。」

[馬鹿野郎。瑠璃、こんな奴の言うことは嘘だ。ただの振りだけだぞ。それ以上踏み込むな。]

 完全に無視をした。


いいなと思ったら応援しよう!