Buddy is a living spirit(相棒は生き霊)第十一章
第十一章 新たな計画
神山は、非番開けで、署に出勤していた。
挨拶を一通り済ましロッカーで着替えたあと、交通課のドアを開けると係長から声を掛けられた。
そのまま係長の机の前までくると、
「神山に異例の人事異動の辞令が降り、南田副班長の応援に入ることになった」
「それは山神班に入るということですか」
「そうだ。この間の空き巣事件と殺人事件の活躍ともう一つ有効な助言があったとのことだ。本庁へ出向という形になるそうだ。取り敢えず署長がお呼びなのですぐに署長室へ行くように」
「承知致しました。ところでもう一つの助言とはどなたの」
「それは聞いておらん。」
神山は驚いていた。急転直下の出来事だ。
(山神さん、これはどういうことでしょうか)
[ううん、わしにも分からん。お前の能力を高く買ったのか、それとも・・]
(そんなところで止めないで下さいよ。それとも何ですか)
[いや、お前が相手と通じていると思い、傍に置いておけば何かの情報が得られると思ったのかもしれない]
(それじゃ、疑われているということですか。そんな。ひどいですよ)
[これは刑事としての感だ。色々な角度からの考察だから気にするな。先に話したようにお前の能力を買ってのことの方が当たっているかもな]
(それであればいいのですが)
そうこうするうちに署長室の前に着いていた。名前を名乗ると中から返事がしたので、ドアを開けると以前と同じように南田副班長が座ったいた。今日は前と違い真向かいに座っている。署長は自分の席に座ったまま、ソフアに座るように促し、南田副班長から話を聞くようにと言った。
「神山君。今回は異例中の異例による抜擢になる。聞くところによると山神班長と知りあいだったようだな。それに娘さんの瑠璃ちゃんと交際しているとか」
「はい。交際が始まったのは事故後です。正直、お母さんを亡くした悲しみに漬け込むようでいやだったのですが、瑠璃さんから頼られるうちに自然とお付き合いをする中になっていました」
「しかし前は事故で知り合ったと言わなかったか」
「あれは、知り合いというと捜査情報をお伝えした時点から疑われるのではないかと思いました。また、その時はお付き合いをしておりませんでしたから、初めてと言っても不思議ではありませんでしたので」
「そうか分かった。ところで今日は非番開けの勤務ではあるが休日に充ててくれ。明日は本庁に直接来てほしい。捜査一課三係の山神班といえば受付を通ることができるようにしてある。普段着でいいが、できれば新人でもあるのでスーツで来てほしい。構わないかな」
「はい。ご期待に添えるように粉骨砕身ガンバリます」
「期待しているよ」
神山は喜びを体で表すように立ち上がり敬礼をしながら「はい」と大きな声で返事をした。
(山神さん、良かったですね)
[そうだな]とうかない返事であった。
(どうしたんですか。何か引っ掛かるんですか)
[思い過ごしかもしれんが、少し展開が早いような気がする。最低でもあと一つは手柄を立てる必要があると思ったのだが。私の取り越し苦労かもしれない。神山の日頃の評価も入っているのかもしれないからな]
(まあ、一生懸命頑張っていますからね。それにすごい洞察力だと言われましたから)
[調子に乗るな。自分自身を過信するんじゃない]と言いながら、明日から知らない世界に飛び込むのだから、あまり心配させないようにと思った。
[ところで神山。私の手帳の件は伏せておいてくれ。瑠璃にも家に見当たらないと言うように話してくれ]
(分かりました。何故かを聞きたいところですが、山神さんが理由を言わないのには訳がありそうなので聞かないことにします。取り敢えず家に帰り次第電話します)
[いや、人気のないところで、すぐに掛けてくれ]
(分かりました)
非常階段の扉に向い、外階段の踊り場から瑠璃に電話をした。理由は聞かされていないが手帳の件は知らないと言ってほしいとお願いした。
神山は着替えたあと駅に向かい切符を買ったが、
[お前、定期だろ。何故切符を買うんだ。]
(私なりに瑠璃さんが心配なので、もう一度周辺を見回りをしておこうと思いました。山神さんもあれだけでは心配でしょ。家の近所に来たら私から出て周りを調べて下さい)
[分かった、そうする。うん。何故お前が仕切っているんだ]
(仕切っている訳じゃないですけれど。いいことはどちらかが気づいたらすぐに実行を起こすというルールを作りましょう)
[それには賛成だ。しかし神山の考えにはいつも瑠璃がいるように思うんだが]
ホームには一人二人だったので、手鏡を開けて山神を映し、
「山神さんも瑠璃さんが一番気がかりと話していたじゃないですか。私にも山神さんの気持ちが乗り移ってしまっているんですよ」
[すまん。神山がそこまで考えていてくれているとは思わなかった。本当にすまん]
神山は手が滑ったと言いながら次の心の声を聞かせないために蓋を閉めた。そして(瑠璃さんが大好きになってしまったんですから。僕が守らなけりゃ誰が守るんですか、将来のフィアンセを)と思ったあと、しらじらしく(すみません。間違えて閉じてしまいました)
[何か変だな。手鏡を閉じて何かしているのじゃないだろうな]
(手鏡を閉じたあと何ですか。何かあるんですか)
[いや、何でもない。取り敢えず私に内緒話しはできないからな]
(分かっています)と言いながら下を出した。
山神は、手鏡の中に入ってしまうと神山の声や外の話が聞こえないことを神山が知らないと思っている。少し考えれば、お墓参りの時や自宅での瑠璃との約束などを問いただしたことで分かるはずであるが、瑠璃のことになると刑事ではなく、親の目に変わってしまい心配の気持ちが優先してしまう山神であった。
駅に着くと改札を出てすぐに、
[俺は偵察に周りを見てくる。いつでも呼べ。離れていても神山の声は聞こえる]
(じゃ、呼びかけていた時は聞こえていたんじゃないですか)
[・・・]
(今、自分で言ったんですから聞こえないふりはできませんよ)
[年のせいか最近耳が難聴気味なんだ。何か言ったか]
(瑠璃さんとは似ても似つかないたぬき親父だ)
[誰がたぬきだ!]
(訂正しませんよ。早く行かないと山神さんの家に着いちゃいますよ)
渋々という雰囲気で[分かった分かった]と言った。
神山は、山神の家の50メートルぐらい手前の電柱にいた。家の周辺には怪しい車はいなかった。
しばらくすると山神が戻ってきたが、戻るなり[すぐに離れろ。]と言った。
神山は、用心しながら足早にその場を離れた。
(山神さん。急にどうしたんですか。)
[近藤が張り付いている。それも一人で]
(それは何故ですか。それに一人でとは、どういうことですか。)
[神山に張り付いていたのは分かるが、神山から離れたあと瑠璃に何の用事があるんだ]
(山神さんの例の手帳じゃないですか)
[それなら普通に聞けばいいだけだろ。すまんが明日本庁に行ったあと南田に近藤のことを聞いてくれ]
(どういう風にお聞きするんですか)
[それは帰る道すがら話す]
(見張られているって、何か心配ですね)
[まあ、近藤が襲うことはないだろ。今日のところは帰ってもいいと思う]
神山は(分かりました)と言い、気配を消しながら駅に向かった。途中、明日話す内容をレクチャーされた。
家まで戻ると[一応見回りだけしてくる。]と言い、離れたあと山神からの話しかけはなかった。
神山は、色々と気がかりなことが増えたせいで悩んでいるのかもと案じていた。
第十二章(未公開)