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「ロダン早乙女の事件簿 FIRST・CONTACT」 第二十七話

第十六章 真実
令和3年4月12日(月曜日)午後3時半
早乙女教授室

私は数々の論文を評価していただき、今年度より教授に昇格した。
変則的な入学式になった帝央大学入学式当日

伊藤さんが、

「教授、寂しいですね。入学式が縮小だなんて。」

「そうだね。昨年は中止だったし、今年こそはとは思っていたけれど、まあ、開催しただけでも良しとしなければならないでしょう。来年こそとは思うけれども。」

「本当、今年は新入生だけでも出席できて良かったです。」

「もう、早く終息することを願うよ。」

「ところで、急転直下でしたね。」

「ああ、結衣さんの件だね。」

「そうです。結衣さんの件です。ところで、どうしても分からないのですが、何故、あの工事現場に佐々木刑事がおられたのですか。」

「昨日、結衣さんが自白したって言っていたからもういいかもね。それでは、お預けはここまでにして、謎解きをしましょうか。

それにはまず、最初にいつ、そして、何故、結衣さんがこんなことを計画したかというところから始まります。そうだ、先に佐々木刑事があの工事現場にいたのは、電話を聞いていたからだよ。」

「どういうことですか。」

「保釈に付き合って、近くの公衆電話から結衣さんに電話をさせたらしい。そのあとは、すぐに別れたから、明雄君的には、下で待ち構えていてびっくりしていたらしいけど、明雄君を尾行していたら、五階のベランダで話し合うのが聞こえたので、とっさに1階の軒下に付いていた落下防止ネットを引き出し、置いてあったトラックに引っかけて助けたらしいよ。」

「教授、謎解きに行く前に、もう一つだけ。教えて下さい。」

「何かな。」

「以前、ビデオを見た時から、佐々木刑事は結衣さんが怪しいとお話しされていましたが。」

「それは、田所弁護士のことを私たちに話す時に、他人への気遣いから顧問弁護士だから祖父と言わず田所弁護士といったと思ったらしい。

 その際私には説明しなかったし、田所弁護士も他人事のような雰囲気だったと話したら、緊張をしていたのかもしれないと話していた。しかし、何か感じるものがあったのだろう。

 あとは、ビデオで確信したと思うよ。そして、最後には、培ったスキルと、彼が結衣さんの友人である前に、刑事であることを選んだ結果だろうね。」

「ますます、分からなくなりました。やっぱり、お預けの謎解きをお願いします。」

「了解。それでは、お預けの謎解きと行きますか。」

「はい。」

「始まりは、二朗さんが生きている間に、田所弁護士が、自筆証書遺言を開けた時からでしょう。」

「ええ。勝手に開けてはいけないのではないですか。」

「自筆証書遺言は、裁判官が封を切ることになっているからね。」

「何故、開けたのが分かったのですか。」

「佐々木刑事の調べで、糊の成分が二種類出たらしい。」

「教授が、遺言書の件とお話しされておられた件ですね。でも、何がおかしかったのですか。その二種類の糊がでしょうか。」

「うん。田所弁護士から自筆証書遺言を受け取って、封筒の中から遺言書を取り出す時かな。」

「何か、不自然なことがありましたか。」

「伊藤さんは、触っていないので分からなかったと思うけれど、封をしている紙に微妙だけど凹凸があったからだよ。よく、封書を盗み見するには、湯気をあててふやかすような人がいるけれど、紙って、水分を吸うと少し膨張するんだよ。

 いくら上手く貼り直しても、微妙に違和感がでることがあって、今回は微妙な違和感があったからね。」

「私なら、触っても分からないと思います。でも、あれで教授の意図することが分かったなんて、佐々木刑事は一応優秀ですね。」

「一応は可哀想だよ。」

「えへへへ。確かに、開けたのは分かりましたが、でも、どうしてですか。自筆証書遺言については、みんなが納得する内容だし、孫の結衣さんが社長でしたよね。」

「株数の問題さ。」

「株数って、どういうことですか。平等でしたよね。株の相続がない四男の力さんが不満を持つなら分かりますが。」

「一応、結衣さんに不満がないように見えるけれど、相続後の配分を考えてみて下さい。」

「結衣さんと明雄さんが45%で、明子さんが10%ですよね。」

「あっ、そうか、分かりました。明子さんの10%ですね。」

「そのとおり。現行の会社法では解任は過半数でできるけれども、解任してしまうと結衣さんを社長に明雄君を副社長にという自筆証書遺言に反する行為とも取れるから、解任はできないと思われる。

 しかし、任期満了まで待てば遺言はクリアーできているからね。定款上、最長でも十年我慢すればいいだけ。それに、中小企業で累積投票があるとは思えないから、取締役に再任しなければ完全に排除できることになる。」

「累積投票って何ですか。」

「例えば、三人の取締役を選任する場合、Aさんが70株、Bさんが30株の場合、三人ともAさんが決めることになるけれど、累積投票を取っている会社は、Bさんの30株の三人分、つまり90株を一人の人に使うことできる制度です。」

「確か、少数株主の為とかでしたね。」

「そうです。」

「田所弁護士って、実力ないですよって装いながら、タヌキ、いや大ダヌキでしたね。」

「伊藤さんらしい表現だね。本当に狡猾な人だった。」

「それでどのように計画を立てたのですか。」

「できるだけ多く株を手に入れる方法を取りました。まず、法定相続人のうち、四男の力さんは、三千万円という預金を受け取るので了解するでしょう。排除しなくとも株にこだわることはないと考えたと思います。それに、イタリアに住んでいるので、それほど会社経営に興味があるとも思えないですし。」

「そうですね。受け取る金額もかなりの金額ですから。」

「すると、あとは、琢磨さんと明雄君だけです。」

「結衣さんには弟がいるらしいけれど、二人が相続人から廃除されれば、自分が最高80%までの株主になりますから。」

「今回は、結果的に明雄君の保釈金と引き換えで二人から買取ることになり100%になったからね。」

「そこまでの人とは思いませんでした。最初から最後まで良い人だと思っていました。怖いですね・・。教授、続きをお願いします。」

「分かりました。結衣さんがまず考えたのは、法定相続人をいかに排除すればいいかということです。排除には必要条件として不正をさせなければならないのは分かるよね。すると、結衣さんにとってネックなのは自筆証書遺言だから、それを覆すための新しい遺言書が必要になってきます。しかし、自筆証書遺言を作り直すには筆跡を真似ねばならないから作成は難しい。だから、公正証書遺言に目をつけたのだと思う。」

「でも、遺言の内容を知ったからといって、なりすましまで、どうやって誘導したのですか。」

「自筆証書遺言の内容に、一生、平社員として私の下で働くことを意識させたらしい。そして、建設業は、昔から長男系が受け継いでいるのにごめんということを、それとなく話したそうだ。
 最後に、登録をしていないマイナンバーカードの存在をチラつかせたみたいだよ。」

「田所弁護士はまだ、白状していないようですが、こんなことを結衣さんだけができるはずがないですね。」

「そうだね。インターネットで調べてできる範囲ではないしね。それに、嘘の内容になるけれど、結衣さんが自筆証書遺言の内容を明雄君に伝えて不正へ誘導しているからね。

 田所弁護士が保管していたのだから、彼が開けなければ結衣さんが不利になると分かるはずがないから、田所弁護士が関与していることは明白でしょう。そのうちに白状すると思うよ。」

「ところで教授は、いつから怪しいと思われたのですか。」

「最初に、佐々木刑事と一緒に来た時から疑念は抱いていました。」

「最初って。どのあたりからですか。」

「話し初めてすぐかな。」

「ええ。全然気づきませんでした。」

「法事の話をした時に、突然やって来た牧野弁護士に対して、なぜ、今日の法事を知っているのですか、と聞いていたでしょう。」

「何かおかしいのでしょうか。」

「その後、私は遺言執行人なので、被相続人の方の諸事情は全て把握しておりますと、ずうっと見張っていたかのような発言のあとに、薄気味悪い感じがしましたと話していたよね。」

「私も薄気味悪い気がしたので覚えています。それと、(なぜ)とはどのように繋がるのですか。」

「普通は、盗聴器でも仕掛けていないと分かるはずがないし、一般の人が盗聴器にさらされる生活を体験することはないからね。」

「確かに、その通りです。」

「すると、見張っていたかのような発言ではなく、当然、誰かから聞いたと考えるのが普通だよね。」

「はい。」

「すると、一番の除け者である琢磨さんを疑うのが当然のはず。」

「私には、他愛のない話と思っていたのですが、帝央大の早乙女此処にありですね。改めて、教授をもっと知りたくなりました。」

 

#創作大賞2024 #ミステリー小説部門


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