パン職人の修造141 江川と修造シリーズ prevent a crisis 杉本
倉庫で縛られていた杉本は誰かが鍵を開けている音を聞いて口を塞がれながら「ふがふが〜(助けて〜)」と騒いで足をバタバタしたが、押し込まれた2人を見てびっくりした」「ふがふがふが(藤岡さん)」
「杉本」口を塞いでいたガムテープを取ると「藤岡さん何で捕まってんですかあ?得意の一本背負いで投げ飛ばしてやれば良かったのに」と捲し立てた。
「スーツが苦手なんだよ、動きにくくて。それを言うならお前だって何捕まってんだよ」
「だって後ろから両腕を捕まえられたんだもん。俺前からの攻撃しか無理ですよお」
「全く」
「若様、何とかここから出ないと」大和田がドンドンと扉を叩いた。鍵が付いてるが開けようとしても両開きのドアの取手は外側から針金が巻かれていて動かない。
「警察は?」
「スマホを取られた」
「クソ!おーい!誰かいないのかー」
ドンドンと扉を叩く音を聞いて風花が「由梨ちゃんあれ!」と走って行った。
由梨と風花が必死になって針金を外そうとしたが結構硬い「ペンチ探して来て!」とすごい形相の2人に言われて歩田が「はい」と走り出した。
「待ってられない」由梨はドアノブを拳で叩き続けた。
平田がパイプを持って来た「これ」と言ったが早いか由梨が受け取ってドアノブに叩きつけた。
「龍樹!内側からも何かできないの?」風花がドアに向かって叫んだ。
「え?何でいんの風花!」
「後で言うから早くして」
「はいよ」
と鉄製の棚に乗っていた資材を急いで除け、3人で持ち上げてドアノブに叩きつけた「うおりゃあー!」
ガーン!
外からと内からの攻撃でドアノブを破壊した「よし!開いたぞ」
「藤岡さん」急いで出てきた所に由梨が立っていた。
「由梨!どうして」
と言いながらそのままの勢いで大和田と藤岡は制御室に走って行った。
「待って〜」と杉本達他の者も続く。
「足打!許さん」
ーーーー
丁度制御室から足打と木田が出て来た。
「木田思い直せ!機械を停止させろ」
「すみませんが大和田さん、センサーは止めさせて貰いましたよ。もう14時だ、最上達が生地に金属片をばら撒いた頃です、このまま生地はレーンの流れに乗ってケースに入れられ発酵した後焼成、冷却包装、出荷だ」
「なら今からまだ止めるチャンスはある!
「そう、だからもう少しお前らを何処かに閉じ込めておかないと」
「出荷が終わって販売されるまでな」木田はもう一度ナイフを取り出した。
切先を藤岡に向けた瞬間「あぶない!」と由梨が前に立ちはだかったが、その横を擦り抜けて「防ごう異物混入!食の安全宣言!」と叫んだ杉本のパンチが木田の顔面に当たり「ふがっ」っともんどり打って床に倒れた。
「俺は怒ったぞ!大体普段から異物混入を防ぐために修造さんからうるさく言われてたのに、人様の口に入る物に何て事を!」杉本は足打を怒鳴りつけた。
「本当だ」大和田も説得にかかった「足打!ギャンブル癖はあるが普段真面目に働いてたお前が何だってこんな大それた事をするんだ、今ならまだ間に合う、やめなさい」
「大金が手に入るんだ、借金も返せる。何だってやるさ」
落ちたナイフを足打が拾って再び藤岡に向けた時、今度は由梨を杉本の方に避けた後ナイフを持った手を払い左手で襟を掴んで投げ飛ばした。
壁に打ち付けられた足打のナイフを兵山が隠して歩田と一緒に取り押さえネクタイで後ろ手にして手首を結んだ。
「おい!パスワードを教えろ!金属片除去のセンサーを作動させるんだ!」藤岡は足打の襟を掴んで揺さぶった「教えませんね〜」と憎たらしい言い方に藤岡がむかついたその時「あ、俺それならわかるかも」と、まだしかめ面の杉本がセンサーの前に進んだ。
「龍樹、ほんとなのそれ?」
「うん、工場長、どこにパスワードを打つの?」
杉本に促されて大和田がパスワードを入力する画面を出した「ここだ」
「えーとぉ」ぽちぽちと長い長いパスワードを打ち大和田に「次へ」のボタンを押して貰った。
「開いた!」全員が驚いてる中大和田が急いでセンサーを作動させた後、バターシュガースコッチブレッドのレーンの機械を全て停止させた。
「これで一安心なのかな?」機械の動きが止まって工場で働く従業員が驚いてざわめき始めたのを見ながら杉本が言った。
「念の為今日の午後からの出荷分はストップさせて下さい」
「はい、若」大和田が制御室から作業員に連絡した。
「大和田さん、急いで他の奴らの所に行きましょう、捕まえないと」
「僕たちさっき奥様に電話しました」足打を捕まえたまま歩田と兵山が声を揃えて言った。
藤岡は一瞬由梨の方を見て「杉本!あぶないから由梨と風花を連れて帰ってくれ」そう言って走り出しながら何故2人がいるのか不思議だった。
「それに何故鴨似田夫人なんだ」そう思いながら表玄関まで走った時、平静を装って入口から逃げようとしている最上たちに追いついた。
「あっあいつら何で出て来れたんだ」大和田と藤岡を見て3人は走り出した。
その時
「ちょっと待ちな!」
工場からエントランスに出る廊下の途中で、向こうから20人の小田達パートさん軍団が最上達を取り囲んだ「あんた達容赦しないよ」「レーンが止まったのはあんた達のせいらしいじゃん」
そしてその向こうから鴨似田夫人がゆっくりと歩いてきた。
「皆さんお待ちになって」
突然現れモデル歩きでやって来た鴨似田夫人を藤岡達も最上達も口を開けて見ていた。
大和田は「鴨似田さんどうなさったんですか?うちのパートさんを引き連れて」と聞いた。
「私(ワタクシ)今日のことは随分前から知っておりましたの」
「えっ!木田達の悪巧みの件をですか?」
「ええそうですわ、大和田さんに電話でお知らせしたのはうちの歩田ですもの」
「確かに何者かが事件を起こすと知らせがあって若にお知らせして今に至りますが一体何故」
「定期的に藤岡さんにお変わりがないかうちの者に調べさせておりましたの、なので小娘と日光東照宮に行ってた事も、藤丸パンが乗っ取られようとしている事も存じていましたわ」
「乗っ取り?どういう事ですか、て言うか日光に行ってた事も知ってるじゃないか」藤岡は心底驚いて言った。破天荒とは思っていたが度を越している。
「誤解のない様に言っておきますが、私ストーカーではございませんの、あくまでも藤岡さんのお幸せを願っての事ですわ」
「それで?乗っ取りのことを説明して頂けますか」と大和田が本題に戻した。
つづく
防ごう異物混入 食の安全宣言