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パン職人の修造27 江川と修造シリーズ 背の高い挑戦者 江川Flapping to the future



修造はADに腕を掴まれて「こちらです」と言われて台の前に座らされ、アイマスクをさせられた。

「何が始まるんだ?」

「さあ、それではこちらのクリームシチュー5皿の中から愛する奥様の手料理を当てて頂きます!」

修造の前に5皿のクリームシチューが置かれた。

マウンテンがクリームシチューの作り手を紹介した「一つは奥様の手料理です。そして名店【グリル篠沢】。コンビニのレトルト。スーパーの惣菜。そしてわざと奥様のお料理と味を似せた当番組のADが作ったものです」

「えっ!律子の料理が?もし外したら俺家に帰れないじゃないか」

修造はぞっとした。
それに万が一間違えて律子を泣かせる訳にいかない。

何がなんでも当てなきゃ。

修造は集中してありとあらゆる感覚を解放した。

味覚に嗅覚、そして聴覚まで。アイマスクの中では目を爛々と輝かせていた。


律子のクリームシチューは可愛いハートの人参が入ってるんだ。

玉ねぎは大きめ、じゃがいもは普通かな?

そして仕上げに生クリームとバターを入れてる。当てるぞ絶対!

しかし決意に反してなかなか難しいものだった。

何せ味だけで決めるのは、、

「修造さん、アーンして下さい」

江川は修造に1番手前のクリームシチューから順にスプーンですくって食べさせていった。

修造は心の中で真剣に味見した。それはこんな具合だった。

うーん、これが手作りな訳ないよな、レトルト特有の閉じ込められた味がする。これは違うな。

2番目は美味すぎる。プロの味だな。全ての具材が理想的な調和を生み出している。律子には悪いけどここまでの味は中々難しいだろう。

3番目はうーん、限りなく近い!これはキープだな。何となくハートの人参な気がする。

4番目はあれ?これもなんか正解っぽくないか?さっきのとどう違うんだろう?これもニンジンがどうやらハートっぽいぞ。3番目に食べたやつと似ているな。

残るは5番目、これは濃すぎないか?律子がわざと当てられないように濃くしたのでなければこれは違うな。。

「全部食べ終わりましたね!どうですか?田所シェフ!愛妻の料理はわかりましたか?」

「あの、、3番目と4番目をもう1度味見して良いですか?」

「おっ!パン王座決定戦で優勝した田所シェフが今度は3番と4番の2択に挑みます!僕その時審査員してたんですよ。」

「知ってますよ」
修造はアイマスクをしたまま適当に答えた。
マウンテンには悪いがそれどころではない。

律子はいつの間にかそっと修造の後ろに来ていた。両手を合わせて祈っていた。

修造なら絶対わかるよね。

修造、仕事と私どっちが大事なんて言わないわ。

だって両方大切にしなくちゃダメなんだもの。

それでこそ修造よ。。

それにしてもADさんの作ったのってそんなに私のと味が似てるのね。。

いつも私が愛情込めて作ってるのにわからないものなのかしら?

外したらもうあなたの帰る家は無いからね。

律子はそんな風に思っていた。

修造はシチューを2種に絞り込んでもう1度味見した。

ハートの人参は両方に入っていてどちらも同じ大きさの人参だった。

ルーの感じもよく似てるんだな。うーん。

修造が悩んでいると辺りから律子の香りが修造に届いた。

「律子そこにいるのか、近くに。」

俺が律子の事をわからないとでも思ってるのか?

修造は律子が作ってるところを思い出した。

そうなんだ!わかったよ。フライパンの味だ。

焼き目だよ!律子はいつも鉄のフライパンを使ってるんだ。

野菜の端が少し香ばしく焦げてる方!

「答えは3番だー!」修造は立ち上がってアイマスクを外した。

「正解です!田所シェフ!」マウンテンが叫んだ。

振り向くと律子がウルウルして抱きついて来た。

「修造ありがとう」

「律子俺やったよ」




抱き合う2人を見て「バ、、」

マウンテンはベタベタする夫婦を見て危うくバカップルと言いかけて口を閉じた。

馬鹿夫婦と言うとまた意味合いが違ってくる。

「いや~どうでしょうねベタベタして。これはほんまにごちそう様ですね、ウマウマウンテンですね~」と締めくくった。

これで全ての収録が終わった。

四角が「親方今日はご協力ありがとうございました。今から帰って編集します。明日の夕方のニュースを楽しみにしてて下さいね」

やっと復活した親方が言った。「はい、またね。ありがとう」

テレビ局の人達とと律子が帰って、明日の仕込みを始めた時、修造がユニフォームに着替えながら「あ!そうだった!」と走って来て作業中の江川に声をかけた。

「江川」

「はいなんですか?」

「世界大会に出よう。」



江川は世界大会と聞いて驚いた。

空手の世界大会?

そして漫画に出てくる様な大きくていかつい空手家に自分がぺちゃんこにやられているところを想像した。

「せ、世界大会ですか?」足が震えた。

「な、何言ってるんですか?」ちょっと涙がでてきた。

「2年後に。」

「俺とお前は別々に選考会に出るんだ。それでどちらかが落ちたら2人では出られない。選ばれたらの話だけどな。」

「修造さんとぺ、、ペアで?」
修造の後ろに隠れていたらひょっとしたら逃げ切れるかも知れないが捕まったら終わりだ。。。と想像して膝がガクガクする。

修造は江川を若手のコンクールに勝たせて、世界大会に助手として一緒に出ないかと持ち掛けた。
2人で今から練習を重ねれば行けるかもしれないと思ったからだ。

勿論修造が世界大会の代表選手に選ばれなければ無い話だ。

「僕、今から空手を習うんですか?ぼ、僕まだ死にたくないです」
世界大会に出る前にいかつい選手と戦って砕ける。そんな風に勘違いするぐらいパンの世界大会は江川にとって想像もできない遠い存在だった。

「何言ってるんだ、パンのだよ!」

「えっ!?パ、パンの?わかりました。修造さんが出るなら僕も出ます」

藤岡はこのやりとりを聞きながら、もし俺や杉本を誘ってくれてたら江川さん許さないだろうなあと思っていた。

「江川さん、頑張って下さいね」

「うん空手じゃなくて良かったよ。僕頑張るね藤岡君」

江川から安堵の笑顔がこぼれた。



おわり

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