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あすか会議2024「スポーツの未来を創る!絶え間ない挑戦」振り返りレポート

グロービス経営大学院(以下、グロービス)の在卒生有志によるイベント開催レポート。今回は、東京校・2024年入学生の高梨朋哉さんによる第20回あすか会議(於:京都国際会館)開催レポートです。
京都の夏を熱くする!日本最大級のビジネスカンファレンスの中でも、とくに高梨さんの印象に残ったのはこちらのプログラム。

<開催概要>第4部分科会「スポーツの未来を創る!絶え間ない挑戦~情熱と戦略の融合の末に~」
昨今、日本のスポーツ界は大きな盛り上がりを見せているが、その裏には、資金不足、育成や教育などスポーツ産業としての課題が存在する。バスケットボール、ラグビー、バレーボール、卓球の更なる発展を目指し絶え間ない挑戦を続けるリーダー達が、各フィールドからスポーツ界の未来や発展への情熱・戦略について語る。議論を通じて、スポーツ産業の新たな方向性や、情熱と戦略を融合させながら革新を生み出す方法について考察する。
<パネリスト>
石川 彰吾 氏
一般社団法人ブレス浜松 理事
株式会社ソミックマネージメントホールディングス 取締役副社長
野澤 武史 氏
山川出版社 代表取締役社長
日本ラグビーフットボール協会 TIDマネージャー
一般社団法人スポーツを止めるな 共同代表理事
早川 周作 氏
琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社 代表取締役会長 兼 社長
藤本 光正 氏
B.LEAGUE所属「宇都宮ブレックス」運営会社
株式会社栃木ブレックス 代表取締役社長
<モデレーター>
平野 善隆 氏
株式会社セカンドリーム 代表取締役
一般社団法人下丸子シューターズSC 代表
グロービス経営大学院 教員


白熱の展開に予想外の結末、勝者の歓喜、敗者の涙――スポーツは競技者にも観戦者にも、感情の揺さぶりをもたらす。本分科会では、スポーツビジネスの舞台で今まさに思考を巡らせアクションを起こしている4名が登壇した。
当日はワクワクを抑えきれず、いち早く会場に入り前列を確保。情熱あふれるリアルな声を聞き、自身のスポーツ経験とグロービスでの学びとを掛け合わせた先に、可能性の広がりを感じる興奮の60分となった。
ちなみに、モデレーターの平野善隆さんは「マーケティング・経営戦略基礎」クラスの担当講師だった方で、1年ぶりの再会となったのもうれしいポイント。

満席となった会場の様子

スポーツは運営側の使命感と責任感に任せていいのか?

はじめに登壇者の4名からスポーツビジネスへの想いとともに、以下のテーマで対話がスタート。
・スポーツビジネスを大きくする戦略は何か?
・そのためにどのようなアクションを起こしているか?
・直面する課題は何か?

私はかつて、国内のスポーツ中央競技団体の委員にボランティアとして関わっていた。自身が競技者として活動できたのは、大会を陰に日なたに運営してくれる方々がいたからであり、その恩返しの気持ちもあった。しかし、いざ当事者として関与すると、持続可能性に疑問符がつくことも少なからずあったことも事実だ。
まず、手弁当が基本。大会が続く繁忙期には、限られたマンパワーのため疲弊することも。大会の後片付けをする日曜日の夜に「明日から、また仕事かぁ」と、やりがいを通り越して弱音を吐きたくなることもしばしばあった。たとえアマチュアスポーツでも、運営側の使命感と責任感に依存し過ぎないためには、マネタイズを念頭にしたビジネスの視点も必要ではないか?という疑問はあったのだ。

目指すのは、スポーツによる社会変革

「新しい価値を、スポーツによって創っていく」。こう口火を切ったのは女子バレーボールチーム・一般社団法人ブレス浜松の理事を務める石川彰吾さんだ。地元経済界の応援を中心としたチームの活動が地域に根差す取り組みを通じ「スポーツによる社会変革」を目指すと語った。
プロスポーツチームの立場から発言した藤本光正さんは現在、バスケットボールB.LEAGUEに所属する宇都宮ブレックスの運営会社トップとして、地域貢献を通じサステナブルな事業形態を模索しているという。
沖縄のプロ卓球チーム、琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社の代表取締役会長兼社長を務める早川周作さんは、スポーツチームが儲かる仕組み化を図り、「最高の時価総額をつけるスポーツチームを作りたい」と語った。そして4人目に発言した野澤武史さんは、歴史の教科書で有名な山川出版社代表取締役社長の肩書を持ちながら、日本ラグビーフットボール協会のTIDマネージャーとして、選手の発掘と育成の力を入れている。

では、登壇者はそれぞれどのような戦略でビジネスを大きくしようとしているのか?ポイントはこの2つ。
①勝てるチーム作りと収益化を両輪で進める
②スポーツの社会的価値を広く訴求させる

280社のパートナー企業を持つブレス浜松の石川さんは「集める金額も大事だが、企業がもっと応援しようと思える関係性の強化が大切」と話すと、地域の課題解決を念頭に置く藤本さんは、スポンサーが何を求めているか課題可決型のアプローチが不可欠と語った。
続いて、早川さんは「スポーツは儲からないとのイメージが刷り込まれている」と指摘。弱いよりも強いほうが来場収入の確保に優位としたうえで、安定的な収益を図るKPIの設定を行っていると話した。野澤さんは、競技人口が減ってしまっては競技の発展も見込めないとの危機感から、ラグビーの有望選手を集めたキャンプを実施し、次の舞台で活躍できる公平なチャンスの提供を推進していると語った。

(左から)平野氏、野澤氏、早川氏、藤本氏、石川氏

数値化されたスポーツイベントの効果を活用する

話題は、課題面に移っていく。ここでは持続可能性の観点から2つが挙がった。
①収益面
②選手育成

①収益面はスポンサーとゲーム以外の収入をいかに拡大するかがカギを握る。石川さんは、スポンサーも単に声をかければよいわけではなく、地域の特性に応じた「ビジネスの商習慣」にも配慮が必要だという。では、地元の行政や企業をどう巻き込むのか?
それに対する藤本さんの構想は、すでに数値化され始めているスポーツイベントの経済効果を広く周知し、どのような社会貢献ができているかを示していきたいというものだった。それによって行政や企業の投資判断を後押しできると語った。
さらに、早川さんからはチケット、ファンクラブ、スポンサーだけに頼らない、独自のビジネスモデルを組み立てる必要があるとの意見が上がった。具体的にはアリーナやスタジアムの活用である。単に試合を観戦する場ではなく、巨大な飲食店、あるいは娯楽施設として街づくりの要にも位置づけられる。教育・行政・企業を巻き込み、複合的かつ持続可能な施策を打ち出せる大きな可能性をスポーツビジネスは秘めているのだと、ワクワクしながら聞いた。

②選手育成についても、石川さんは地元密着型のチーム作りの戦略の1つに置いているという。地元出身の選手が活躍すれば地元の人たちや企業も応援に熱が入るからだ。ジュニア世代から育成してきた選手は今、大学を卒業する年代に差し掛かる頃だ。
早川さんのチームも次世代の五輪選手育成を見据え、地元でアカデミーを実施している。地元選手が活躍する強いチームを作り上げれば、収益にまでつながるという好循環が生まれると期待される。持続可能なビジネスを成り立たせるには中長期を見据えた地道な努力が不可欠であるとうかがえた。

スポーツでしか生み出せない価値の創出が魅力に

日本では五輪やW杯などでスポーツが盛り上がっても、一過性の加熱で終わってしまうことがあるのはなぜなのか。「米国をはじめ海外では、スポーツはエンターテイメントの一つであり、ビジネスファーストの文化が根付いている」と藤本さんは語る。
加えて早川さんは、海外では芸術と同様にスポーツの価値が認められているとし「日本はスポーツの価値算定がまだ道半ば」と問題提起した。米国の大学を卒業した石川さんも、アメフトの盛んな街では10万人収容のスタジアムを中心に、スポーツが生活の一環になっている様子を紹介した。

スポーツをビジネスととらえる点について藤本さんは、「日本はスポーツが体育と結びつけられてきた経緯から、教育的側面が強く、稼ぐことはNGとの認識がある」と考察。早川さんからの「やりがい搾取ではなく、報酬を提供する仕組みを作ることが欠かせない。日本では、経営感覚を持ったリーダーがスポーツ界にも必須だ」との言葉には、私の持つ問題意識とも共鳴し力強いメッセージとなって響いた。

最後に、野澤さんが「スポーツ、ラグビーを尊敬している。次世代に良い形でバトンバスしたい」との心情を披露した。同じような想いをもってスポーツに携わる方々は多いはずだ。もちろん、私もその1人。
続けてモデレーターからの「働く場として、スポーツビジネスの舞台に魅力はあるか?」という問いかけには、「スポーツの持つ力は計り知れない」「スポーツでしか生み出せない価値がある」「チャンスしかない!」といった声が登壇者から迷いなく発せられ、分科会は締めくくられた。

胸熱のエールをくださった登壇者の皆さん、ありがとうございました!