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これからの時代のエンジニアにとっての経営学修士(MBA)という選択肢

はじめに

こんにちは。世界をリードするEdTechカンパニーを目指すグロービス・デジタル・プラットフォームCTOの末永(@sue738)です。こちらはグロービスアドベントカレンダー25日目の記事になります。

生成AIが出てきてからというものの「エンジニアは今後不要ですか?」という問いをエンジニアからも非エンジニアからもよく聞くようになってきました。Github Copilotは強力で、現場のエンジニアにとってもAIが生成するコードをアクセプトし続けるだけで今後大丈夫だろうか?と懸念を持つ方も少なくはないと思います。加えてこの流れは2024年さらに加速して行くことが見込まれます。

グロービスがMBAのスクールを持っていることもありますが、私自身もエンジニアでありながら2019年にMBAを卒業したこともあり、エンジニアにとっての一つの選択肢としてのMBAはどうか?という点について今日は書きたいと思います。社会人大学院として情報系の修士を考えていらっしゃる方も最近増えたように思います。同じ専門性ではない、あえて異なる非連続なキャリア構築という意味で興味を持っていただけたら幸いです。

この記事ではMBAで何が学べるか?という点には触れません。その観点では在学中に書いたこちらの記事もどうぞ。

テクニカルスキルの重要度は相対的に下がってきている

マネジメントの能力を「テクニカルスキル」、「ヒューマンスキル」、「コンセプチュアルスキル」で分類したものにカッツモデルというものがあります。非常にわかりやすい概念で、私も現場のマネジメントに参考にしている考えの一つです。カッツモデルの中では下位のマネジメントにおいてはテクニカルスキルの重要性、上位マネジメントにおいてはコンセプチュアルスキルの重要性を謳っています。

コンセプチュアルスキル(概念化スキルとも言う)に関してはエンジニアのみなさんにとっては”メタ”という言葉の方がイメージがつきやすいかもしれません。メタプログラミングの「プログラムを書くプログラムを書く」ように「考え方を考える」のがコンセプチュアルスキルにおいては大事な概念です。システム開発における設計論などの適用もコンセプチュアルスキルが重要なエリアの一つです。抽象と具体を大きく行き来する力、と言ってもいいかもしれません。

生成AIはテクニカルスキル領域を確実に食ってきています。一方で、エンジニアリングの領域に関してはテクニカルスキルのディスラプトは生成AI出現以前にも多く発生してきました。クラウド、新しい言語、ライブラリ、フレームワークが出てくる度に開発は一気に楽になってきました。

この時代にソート関数などをゼロから書く人はいないと思います。認証認可もゼロから書く人はいないと思います。インフラ環境をリアルでゼロから構築する人はいないと思います。エンジニアにとってこれまで10やっていたことが一瞬でできるようになったという経験は多いはず。ことエンジニアに関しては業務が一気に変容するといった体験は何も生成AIで始まったことではありません。

アジャイル、DevOps、設計理論が広まったのはテクニカルスキルの民主化が進んだから

昔はテクニカルスキルの獲得コストが高かったので「分業」が正でした。基本設計者、詳細設計者、実装者と運用者と分かれ、それぞれが当時でいくと高いテクニカルスキルを要するので全てを一人で完結するのが難しかったわけです。

それがプログラミング自体の難易度が下がり、一人で設計から実装、運用までをカバーすることができるようになりました。「分業」で支払っていた高いコミュニケーションコストも回収ができ、経済合理性も高まったという背景があります。

そうして抽象化概念を扱う設計論(考え方を考える)というコンセプチュアルスキル側にエンジニアの重点も年々シフトをしてきました。そうして我々は複雑なシステムの継続運用・改善を扱えるようになりました。各種ある設計手法はテクニカルスキルと考えられますが、実際の適用に関してはコンセプチュアルスキルが求められる領域の方が強いです。

生成AIがさらに進化するとより一層テクニカルスキルが必要とされる領域が減っていくのは目に見えています。UIは自動で生成され、多くのロジックも自動で生成されデバッグもしてくれるようになります。もっと言うとエンジニアリングだけでない法務、デザイン、マーケティング、多様なテクニカルスキルを扱うことが容易になります。より一層テクニカルスキルの民主化が進み、分業がなくなり、人がやるべきはより重要な「考える」というコンセプチュアルスキルに軸足は移っていくわけです。

BizとDevが一気に近づく時代

このような流れの中で最近特に言われるのがフィーチャーチームといった考えやBiz-Devの連携です。スクラムやアジャイルの中では、職能横断型でドメイン知識を共有したチームが良しとされます。一つの領域に特化をしつつ、幅広い領域をカバーできることで、組織としての柔軟性やコミュニケーションの柔軟性を獲得することができます。

とは言いつつ、BizとDevは本質的には相反する側面を持っています。売上に貢献すべく顧客の柔軟な要望に即座に対応したいビジネスサイド、品質を重視したり新しい技術の取り入れを行いたい技術サイドという対立の構図はよく見ます。これはBizとDevでチームを分けてしまえばよりその境界や対立は増加します。

これを解決するために接点を極力共にする同じチームで、同じ目標を共有することによって解決していくアプローチが取られるわけです。BizとDevが相反する側面を持つことは必ずしも悪いことではなく、互いに相反するからこそより良い解決策、強いプロダクトにつながっていく形になります。

もう一つ生成AIに期待していることはBizのDev理解です。今回の生成AIで期待しているのはビジネスの方が開発をより理解しやすくなった、という点です。ビジネスの思考力の高い方が思いもよらなかったGPTsを実装している事例を今年はよく見ました。私の知り合いでもエンジニアでない方がGASのコードをChatGPTに書かせたりといったチャレンジをしています。よくわからないコードをChatGPTに食わせて何をやっているのかを確認したりもできます。この流れは多くの方に実践してほしいと思います。

技術的負債は事業戦略の理解不足から来る

技術的負債という言葉はビジネス用語のようでありながらエンジニア側から出てくる言葉の一つです。エンジニアの力量不足や非機能部分の後回しといった側面から発生するものもあるとは思いますが、個人的には事業戦略の理解不足から来るものの方がクリティカルになりがちと考えています。

いかにエンジニアが品質の良いものを作ろうにも、今後のための素晴らしいアーキテクチャを作ろうにも、変更容易性を考慮した設計を実現できても、戦略が変わってしまえば、プロダクトがピボットしてしまえば、ユーザーの価値観が変わっていけば即座に負債化します。エンジニアが事業戦略を十分に理解し、そして変化の激しい中で事業や顧客が今後どうなっていく可能性があるかを予測する力が求められています。「今」のニーズ、要求だけで設計をすると多くの場合において破綻します。

この戦略は本当に顧客ニーズがあるのか?将来に渡った共通基盤を今作るべきなのか?どこが柔軟でどこが堅牢であるべきなのか?ビジネス環境やユーザーの3-5年後の絵姿はどのようになっているのか?本当の顧客は一体誰なのか?そういった点まで見据えておかないからこそ技術的負債は発生します。テックリードクラスの方にはここまで議論ができるようになってほしいと思います。

ビジネスの本丸としての経営学修士(MBA)

前置きが長くなりましたが、この流れで話したいのが経営学修士(MBA)です。ビジネスとしての価値を出すのであれば本丸のMBAにチャレンジするエンジニアが増えていくのは良いことと考えています(もちろんそれぞれのキャリア観はあると思うのでしっかり考えてくださいね)。

事業やステークホルダーの構造がどうなっているのか?B2B、B2Cの違いは何か?その中でのKey Success Factor(真の成功要因)は何か?ファイナンスや財務面から見た時に現在の開発へのリソース投下は適切なのか?競合のIRや自社のPL/BS状況を見ながら健全な投資ができているのか?次なる一歩は何なのか?エンジニアとして何をやって何をやるべきではないのか?戦略とはそもそも何なのか?

そういった点に注目をするだけでだいぶ見え方が変わってきます。これまで見てきたエンジニアを見ても、優秀な方は事業視点で物事を考える力が強いです。

エンジニアの方でビジネス側が早期に開発を巻き込んでくれない、戦略についていまいち腹落ちしないと嘆く方も過去に見てきました。でもそれがなぜ起こるのでしょう?エンジニアがもっとビジネスの言葉で会話をし、ビジネスの世界観で考え、的確なフィードバックができればより信頼は増して早期に相談をしてくれると思います。

実際、グロービスのエンジニアの中でもMBAを卒業した方はいます。「考え方の考え方」の力、言い換えればメタ認知の力がついてくるとコミュニケーションは一気にスムーズになる感覚があります。

MBAはビジネスエリートのためだけのものではない

そしてこれはMBAに通って思ったことなのですが、MBAはビジネスエリートだけのものではないということです。大手のマネージャーの方などはいらっしゃいますが、20代くらいでチャレンジされている方、スモールビジネスや個人事業として生計を立てていらっしゃる方も多数います。そしてビジネスエリートだった方が個人事業主として独立してスモールビジネスを始める方、起業される方などもいらっしゃいました。

フリーランスで会社を立ち上げる方も最近は増えたように思います。そういった方にとってもよりレバレッジを効かせた将来展開を実現する上では参考になる考え方、機会は多いと思います。

加えてMBAは世の中のニーズに合わせて絶えず進化をしています。昨今経営に技術というものは切っても切り離せないもので、MBAによってはビッグデータを扱うもの、AIを扱うものなどが世の中的にも増えてきています。

グロービスでもテクノベート系科目といったプログラムを開発しています。デジタル・プロトタイピングやプロダクトマネジメントといった科目も学べるようになってきています。

「学ぶなら一番遠いところを学びなさい」

この言葉はMBAに通う際に尊敬する方に言われた言葉です。この言葉を軸に、私はよくわからなかった「グローバル」「ファイナンス」を中心に科目選択をしました。エンジニア(マネージャー)の方で順当に行くのであれば「マーケティング」や「リーダーシップ」といった項目の方が相性が良いのだと思います。あえてそういった科目は多くは選ばずに自身のスキルから遠いところを選択しました。

難易度は高かったですが、エンジニアリング組織を財務で理解するとはどういう事かがわかるようになってきました。最近エンジニアリングを財務で説明する記事なども見かけるようになりましたが、ビジネスの世界の用語で説明できることは多いです。開発生産性でよく言われるリードタイムも財務的には回転率といった言葉に近く、財務的な健全性と次の投資のサイクルの強化に繋がっていきます。利益を生み出すよりも利益を生み出す資本(土台)をどれだけ作っていくか。それがエンジニア組織を強くすることにつながるという考え方をするようになりました。そういった考えもファイナンス思考から来ています。

また、今まで接する機会がなかった多くの方と触れあう機会がありました。エンジニアの世界だけだと偏った価値観になることが多いというのに気づきます。グローバルカンパニーの日本拠点の方、数年で海外の1000人規模の工場立ち上げを担われた方、個人事業主や医師の方。普段接する機会がない方が多いだけに、世界はだいぶ広いんだと認識を新たにできる機会でもありました。

計画的偶発性理論

MBAのとある講師の方から教えてもらった理論の一つに計画的偶発性理論というものがあります。グロービスは実は志教育というものを大事にしていて、各個人の志を明らかにするということを大事にしています。一方で計画的偶発性理論ではそうとは限らずに多くの方が偶発的なキャリア機会をもとにキャリア形成に成功している、とするものです。そのためには好奇心や冒険心が必要とされます。

この話題でよく出される例がスティーブ・ジョブスのconnecting dotsです。彼は大学時代にカリグラフィーを学びました。それがMacの洗練されたタイポグラフィーにつながっています。計画的に学んだというわけではなくハングリーに興味を持って学んでいった結果、振り返ってみるとキャリアが形成されていた、というものです。

特にこれからの時代において、変化が不確実に起こる可能性はかなり高まっています。自分は技術だけでやっていきたいんだ、そういった思いを持たれることも良いと思いますが、一度マネージャーを経験されてまたテックリードに戻られる方の事例もよく見るようになってきました。それでも同じ役職に戻るのではなく、格段にみなさん一皮剥けて螺旋を登るかのように志を醸成させていきます。

とはいえハードルは高めでしょう?

MBAは確かにハードルは高めかとは思います。一方で最近はコンピュータサイエンスの修士や博士課程に行かれる方も増えてきたように思います。そちらも十分にハードルは高いと思います。同じ専門領域の中で能力を向上させていくのか。全く違う領域で掛け算で新しい領域を開拓していくのか。異なる専門性での「非連続な成長」を目指すのも一つの選択肢なのではと思います。

実際に私がMBAに通った直後は専門性を目指すエンジニアにとってはちょっとヘビーと思ってました。技術的な研鑽にかける時間もなかなか取れずにもどかしい思いをしました(冒頭にリンクした記事にもガッツリそう書いてます。それだけ大変だったんです…)。一方でMBAの卒業から4年ほど経過した今、組織マネジメントの勘所はだいぶ迷わない状態になりましたし、事業の中での位置付けに自信を持つようになったのは確かです。

今であれば生成AIもあります。当時は泣きそうになりながらファイナンスの難解な用語を分厚いテキストと睨めっこしながら課題の作成をしていましたが今はとても学びやすい時代になったと感じます。生成AIは異なる領域への学習参入ハードルを大きく押し下げました。ぜひそういったものを活用しながら異なる専門性にチャレンジいただきたいと思います(楽をする、と言うのではなく学びを深める方向に生成AIを使ってくださいね)。

最後に

生成AI時代において、時代は転換点に来ていると思います。すぐにエンジニアが不要になることはないと考えていますが、10年後はどうなっているか正直わからないです。一方で、エンジニアとしてのこれまでの経験、思考法が活きつづける部分は十二分にあると考えます。

加えてもう一点指摘しておきたいポイントとしては、技術出身の経営者が日本には足りない、という点です。海外ではエンジニアバックグラウンドでありながらCEOを担っているという人は多く存在しています。これからの事業創造においてテクノロジーが関わらないことはほぼないと思います。これまでの技術バックグラウンドを活かして経営や事業に向き合うのはいかがでしょうか。

グロービスで一緒に働く仲間を募集しています!

日本発、世界をリードするEdTechカンパニーを目指すGLOBISでは、一緒に働けるエンジニアを探しています! まずは、カジュアル面談を通して、あなたに合う組織かどうか確かめてみませんか?

また、エンジニアのキャリア論についてのイベントを年明け開催予定ですので、こちらもぜひご参加ください。マネジメントというよりは専門性強化のキャリア論についてお話ししたいと思います。

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