ゴッホ

Twitterでは言えない、実は仕事の9割は誰がやってもいい

デザイナーやカメラマン、ベテランイラストレーターさんは自覚があると思うんですが、フリーの若手のデザイナーやイラストレーターさんは「マイワールド」をとても大切されてる印象がとても強いです。私たちは職人であると同時にビジネスという場で戦ってるのです。大袈裟に言えば生きるか死ぬかという時に「私はピストルしか撃てません」「ヤリなら戦えます」でいいのでしょうか?

実は古くからの知り合いでアラフィフのマイワールドを模索しているイラストレーターさん、というよりも作家さんがいます。テクも仕事に対する姿勢も素晴らしいのにマイワールドを大事にするばかり、30年全くイラストで食えていません。まさに生前に一枚の絵しか売れなかったフィンセント・ファン・ゴッホ(ひまわりの油絵で有名)と似たような状態です。

簡単に仕事を断るイラストレーター

私:A(イラストレーター)さん、こんな案件あるんだけどどう?
Aさん:描けません、ダメです。
私:あ、そうですか、それではまたお願いしますね。
これでAさんは私というクライアントを無くしました。

大げさではありません、依頼する側もある程度は技量と予算を考えて発注します。
依頼に対してどう答えるか?出来る範囲を提案できるかってのはビジネスマンに必要なスキルで、ビジネス感覚の欠如です。
恐らくAさんは、この仕事では自分の味が出せない、パフォーマンスを100%出せないと考えたのでしょう。
しかし発注側は端から100%のパフォーマンスなど求めていないのです。
これが一般企業のクライアントなら尚更です
「俺が描くよりプロが描いた方がいい」ってなレベルです。

多くのデザイナーはマルチシェフ


平面のデザイナーと一括に考えても、実は得手不得手があります。
私の場合は書籍は未だ手掛けた事はありませんし、雑誌もあまり経験がありません。それでも依頼されら「こう作る、こうしたいという意思を伝え」それでもいいなら受けます。
子供が生まれて就職したベビーメーカーでデカイ顔はしていましたが、流通パッケージもほとんど経験がありませんでした。しかし基本の考えは同じなのでさほど困る事もありませんでしたし、むしろ今までにない発想が喜ばれたりしました。
多くのサラリーマンも同じです「私これしか出来ません」ってことはやりません。部署異動で新しい仕事になっても結果を残す訳です。

確かに、この仕事ならこの人しかいない、あり得ないってケースは稀にあると思います。ですが殆どのケースは誰がやっても一定の成果が得られるのが仕事だと思っています。多くの人が関わる以上へんてこな物ってなかなか出来にくい。
イラストの場合雑誌の表紙やら商品パッケージのキャラやら、いわゆるイメージイラストと言われるものと、内容を伝えるための補足的なもの、説明的な内容を説明するためのカットイラスト「通称カット」に二分されますが、特にカットイラストはイラストレーターではなくデザイナーが描いてしまう位誰にでも出来ちゃう仕事でもあります。無論可愛い、綺麗、味があるって評価もありますが、それで全体の仕事が左右される訳ではありません。
にも関わらず「この手のイラストは描けない」ってお断りされるケースって結構な割合であるんです。
デザイナーはビジネス感覚で冒頭のように、交渉したり条件づけをしたりしますが、イラストレーターさんには、にべもなく断られる。業界で長く活躍されるイラストレーターさんって、これが上手いんだと思います。自分のスキな作風やタッチがあっても幅広い。ディレクターとのマリアージュで新しい作風を作ったりも出来きたりもします。
だから生き残ってこれた。

料理の世界で言えば中華も作れればフレンチも専門店並に作れる、和食もいける。
そんな料理人はいないでしょう。
しかし、一定のクオリティまでの各種料理は作れたりすると思います。デザイナーも同じです。ターゲットが男だろうと女だろうと老人だろうと子供だろうと一定のクオリティの物を作ったりします。

仕事、クライアントを常に探さないとならないイラストレーターさんはマイワールドに拘り過ぎなのではないでしょうか?
幅広く出来るから、顧客からの信頼を得られる訳です。
誰しも最初は初めてのジャンルがあります。それを経験で補完して作り上げていきます。そして、それが引き出しの多さに繋がります。
なんでも出来るけど中華が得意、だけど頼まれればフレンチもそこそこいけるよ。こんなスタンスだとフリーランスは成り立ち易い。

フリーランスとして生き残るために


せっかく依頼されたのに、断ったら他の人に打席が行く訳です。
その人がオールマイティーに仕事をこなせば、次の打席は巡ってきません。そうやって仕事のチャンスと幅を狭めている訳です。
自分のタッチと違うけど、こんな感じなら描けますよって提案があれば、デザイナーは嬉しい訳です。自分のイメージと違っても使える!と思えば依頼しますし、使えないと思っても次打席は巡ってくるチャンスはあります。
同じ理由で納期が希望に合わない場合も同じです。
Aというタッチで納期が合わないけど、Bならいける、という対案。
希望のタッチなら3日遅れなら間に合うけど、どうですか?というクライアント側の希望に対して対案を提案する。これを続けるだけでも固定のクライアントは増えていきます。
「このイラストよく見るけど、大したことないよね」と思う人がいるかもしれませんが、そのような人はクライアントのニーズをきちんと満たしてる場合がとても多いのです。
もちろん自分が売りたい画風、タッチ、世界観は大事にすべきですのでバランス感覚は大事にすべきだとも思います。でも、それを売る前にフリーランスとして成り立たないならば世に出せません。

冒頭にあげた死後に名を残すつもりならば好きな画風にこだわって絵をライフワークとすればいいのですが、生きてる間に生活の糧として、喜びとして絵を描くならばお客さんのニーズに応え続ける事からも得られるかもしれません。
ヘッダー絵画:フィンセント・ファン・ゴッホ 「星月夜」 (1889)

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