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クローディア真理:フンコロガシで土壌汚染を改善 〜世界のソーシャル・ビジネスオセアニア編 ニュージーランド〜


大きいものは体長2.5cmにもなるセンチコガネ


ニュージーランドでは、牧畜業が年間物品輸出額のトップを占める。その一方で、牧畜業は農地の土壌汚染や河川の水質汚染を招き、深刻な問題を生み出す。そうしたなか、フンコロガシの輸入・飼育・販売を行うダング・ビートル・イノベーションズ(DBI)社は、フンコロガシを使って土壌と水質の改善を図る。 (ニュープリマス=クローディアー真理)
 
DBI社によると、ニュージーランドでは約3700万匹の家畜が飼われ、それらが排泄するフンは年間1億㌧に上る。そのフンが土壌・水質汚染を招いている。
 
リン肥料や窒素肥料の過剰使用も汚染の原因となる。余剰分は土壌に蓄積された後、地下水や河川に集まり、藻類を繁殖させる。すると水中の酸素は減り、魚類が呼吸できなくなったり、人のための飲
料水に硝酸態窒素が過剰に入り込んだりする。
 
フンコロガシは、農地の土壌や周辺部の水質汚染に対処するのに有効だ。フンコロガシがフンの下にトンネルを掘ると、土壌の通気性が高まり、水が浸透しやすくなる。丸めたフンを埋めると、栄養分は地下60㌢㍍を超えるところにまで行き渡る。飼料となる草はよく育ち、地中深く根を張るようになり、干ばつへの耐性が上がる。
 
雨による土壌の流出も減り、排泄物は土壌に残るようになる。DBIの共同創始者であり、生産部門責任者のショーン・フォーギー博士の研究では、150年に1度という豪雨時でも、地表流の80%を防ぐことができたという。
 
フンコロガシとその幼虫が直接寄生虫と卵を食べるので、家畜の寄生虫感染も減らせる。
 

固形肥料のコストの半分


 
DBI社は、フンコロガシをサステナブルな農場管理手段として確立し、水質と土壌の改善を行うことを目指す。
 
昆虫の飼育施設としては世界一の規模という施設で、計75万匹を育てている。フンコロガシの導入費用は1㌶当たり約850─4300円で、投資は1回限りだ。農場に放した後はフンコロガシに任せておくだけ。これは、従来のように固形肥料を購入した場合のコストの半分で済む。
 
過去30年にわたり、政府は、牧畜農家が河川の汚染防止に、植生とフェンスを造る際、資
金援助を行ってきた。しかし、どちらも河川を部分的に囲うだけなので、効果は上がって
いない。
 
NZ国内には約4万4千軒の牧畜農家がある。DBIは費用対効果が高いフンコロガシを、より多くの牧畜農場で採用してもらうために、今後10年間で約28億円の支援金の提供を政府に求めている。この額は、植生とフェンスを造るのに割り当てられた助成金のわずか4%だ。
 
ニュージーランドでは、すでに汚染物質の70%が水路に入り、河川や湖の90%が汚染されているといわれる。私たちが今直面している環境問題や経済的課題を、サステナブルでコストを抑えて解決に導くフンコロガシに、政府をはじめ、国内のより多くが関心を寄せることを期待したい。
 

(左)フンコロガシを放すフォーギー博士

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