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森 摂:コロナ時代こそ「SDGsアウトサイドイン」活かせ

編集長コラム
*この記事は2020年8月18日に掲載しました。再掲します。

新型コロナ禍は今後の先行きが見えず、世界経済に大きな影を落としています。2020年8月17日に内閣府が発表した日本の国内総生産(2020年4~6月期)は前期比年率27.8%と、現行基準の1980年以降で最悪の落ち込みとなりました。米国の減少率も32.9%、英国は約60%、ドイツも30%を超え、軒並み最悪の下げとなりました。(オルタナ編集長・森 摂)

オルタナ本誌61号の第一特集「新型コロナと持続可能性」で書いた通り、これから各国の経済はしばらく停滞が続き、企業倒産や失業も増え、貧富の格差は拡大していくと見られます。創業以来、最大の危機を迎えた企業も多いのではないでしょうか。そんな時こそ「SDGsアウトサイドイン・アプローチ」を思い出して欲しいのです。

アウトサイドインはオルタナ本誌56号(2019年3月発行)で詳報した通り、「社会課題の解決を起点にしたビジネス創出」です。一般的な企業は「顧客ニーズ」に対応しようとしますが、顧客の後ろ側にある「社会ニーズ」に対応すれば、同業他社が気づかないビジネスのニーズやシーズを見つけることができるのです。

パナソニック創業者やオムロン創業者に学べ

この本誌特集では、「アウトサイドインは昭和と海外に学べ」という見出しを打ちました。創業時から「社会ニーズを掘り起こせ」と掲げた立石一真・立石電機(現オムロン)創業者や、家庭にコンセントが無かった時代に「二股ソケット」を考案した松下幸之助・松下電器産業(現パナソニック)創業者などの事例を紹介しました。

アウトサイドインはSDGsのビジネス指南書「SDGコンパス」にも記載されている公式用語です。SDGコンパスでは社会の要請に応えた企業の目標設定に主眼を置いていますが、オルタナでは、新規事業の創出にも使える考え方だと判断し、特集を組みました。

「コロナ禍だからマスク製造」はアウトサイドインではない

ただ、アウトサイドインは、長期的な視野と、社会との対話が必須です。今年や来年の売上高を作るものではなく、中長期的な戦略です。新型コロナ禍では、多くの企業がマスクの製造に乗り出しましたが、これはアウトサイドインとは言えません。すでに市場ニーズが顕在化していたからです。

市場ニーズが顕在化してしまうと、多くの企業が参入し、またたく間に「レッドオーシャン化」します。マスクの場合も、当初は高値で売れたものの、その後の価格は大きく下がり、当初見込んでいた利益率を出せないケースが増えています。

同業他社にはまだ見えていない社会のニーズを探し出すのは容易ではありません。そのためには自治体や大学、NGO/NPOなどさまざまなセクターとの協働やオープンイノベーションが不可欠です。

サステナブル・トランスフォーメーションの時代

新型コロナ禍の場合には、テレワークや本社機能の分散化、新しい旅行や外食産業の在り方など、大きな経済的・社会的なうねりが到来することが見込まれます。新しい生活様式「ニューノーマル」の裏には、新たな社会ニーズが必ずあるのです。これを見つけるためには、各地域に入り込み、情報を得て、議論を重ね、そして近未来を俯瞰することが重要です。

それが出来る企業は生き残り、出来ない企業は残念ながら消えていく。そんなシナリオが見えています。それは企業の業種や規模を問いません。大企業なら社会ニーズを見つけられる、中小中堅企業は見つけられないーーではありません。中小企業でも、社会ニーズを見つけられる機会は必ずあるのです。

市場のニーズはデータで読み取れます。売上高は数字で把握できるからです。しかし、社会ニーズは「ストーリー/文脈」の形で現れます。気候変動や経済のグローバル化による負のインパクト、今後の格差拡大、サプライチェーンの人権問題ーー。こうしたさまざまな要因が絡み合って、新しい社会ニーズになるのです。

こうした社会ニーズをできるだけ早く察知できるか。それを「イノベーション」(技術革新という意味ではなく)や「トランスフォーメーション」を通じて、事業化できるか。そこが今後の成長の分かれ目だと思います。

最近はDX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が流行していますが、私はSX(サステナブル・トランスフォーメーション)という流れも来ると考えています。具体的な事例については、次回以降、書いていきます。

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」オンライン
2021年2月26日掲載

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